2025年3月 / インサイト
より小さな世界:中小型株式を取り巻く新たな環境において勝ち組を見出す
サマリー
- 米国の上場企業数は着実に減少しており、中小型株式に魅力を感じている投資家に課題を投げかけている。
- 中小型株式指数における赤字企業数は、指数そのもののクオリティの悪化を示している。
- 中小型株式市場のダイナミズム、イノベーション、多様性は依然として魅力的な特性であり、この分野には豊富な投資機会が存在。ただし、アクティブ運用のアプローチが必要に。
株式市場は近年、目を見張る上昇を見せており、こうした動きによって米国の上場企業数が過去25年間で半分以上減少しているという後ろ向きの長期トレンドが目立たなくなっています。ことのほか縮小している株式市場は、投資家に課題を投げかけています。S&P500インデックス構成企業のような大型株式への投資では、多くの場合、パッシブ運用のアプローチが採用されますが、中小型株式にはこのアプローチが通用しない可能性があります。それと同時に、政権交代により生じた不確実性や、それに関連して、米連邦準備制度理事会(FRB)の次の政策行動に関する疑問は、(すべてではないにしても)多くの中小企業にさらなる短期的なリスクをもたらしています。
それは現実的なリスクですが、米国中小型株式を取り巻く長期的に良好な構造的環境が損なわれるものではありません。歴史的に見て割安な相対バリュエーション、確立された国内回帰(オンショアリング/リショアリング)のトレンド、国内企業を優先する政権は、今後の見通しにとって明るい兆しです。長期投資家の成功のカギは、この市場にどのようにして資金を配分するか、にあると考えています。投資機会とリスクの双方を考慮すると、今はパッシブ運用のアプローチを採用すべきタイミングではないでしょう。
ことのほか縮小している株式市場
FTウィルシャー5000トータル・マーケット・インデックス(以下、「FTウィルシャー5000」)は、米国株式市場を代表する最良の単一指標として広くみなされていますが、当指数を構成する上場企業数は、最多となった1998年7月の7,562社から、2024年12月時点ではわずか3,326社にまで減少しています。2005年末を最後に、FTウィルシャー5000を構成する上場銘柄数は、5,000社を割り込んでしまいました1。

投資機会が縮小する要因となったその他のトレンドとして、合併・買収(M&A)活動やプライベート・エクイティ案件の増加、規制強化を一因 とする近年の株式公開企業数の著しい減少、株主アクティビズムの台頭、様々な企業破綻が挙げられます。
上場企業が買収されたり、プライベート投資家に売却されたりするケースが増えていますが、それらに代わる新規株式公開(IPO)の数は見劣りしています。IPOの件数は1990年代後半のピーク時と比べて半分以上減少しており、2021-2022年の一時の例外的な活況を除けば、近年は減少しています。

こうしたIPO件数の減少は、ベンチャー・キャピタル投資の急増が一因となっています。ベンチャー・キャピタルは、スタートアップ企業が拡大し、上場市場で要求される厳しい監視や透明性を回避しながら資本にアクセスすることを可能にしています。一部の企業は株式公開の準備が整うまでに、中小型株式の運用会社の投資対象から外れてしまうほどの規模に拡大している可能性があります。
2002年のサーベンス・オクスリー(SOX)法に起因する規制負担およびコンプライアンス・コストの増大も、株式公開に対する意欲を著しく削いでいます。
例えば、株式公開にかかるコストは現在、平均で3,600万米ドル2であり、収益が2億5000万米ドル~5億米ドルの企業は敬遠してしまいます。企業は今まで以上に長く上場を差し控えており、SOX法が制定されて以来、年間のIPO件数は大幅に減少しています。2004年までの20年間にわたり、IPOを行った企業数は、年平均で297社でしたが、2024年までの20年間では、118社3に減少しています。
同時に、高い株価収益率と相対的に低い資本コストにより、大企業は成長目標を達成すべく、高いプレミアムを支払って中小企業を買収することが可能になっています。
中小企業への過剰な影響
縮小する株式市場は、ラッセル2500インデックスに過剰な影響を与えてきました。このインデックスは毎年リバランスされ、2,500銘柄で維持されているものの、近年インデックスに組み込まれた企業は、入れ替わった企業よりも規模が小さく、流動性が低く、クオリティが低い傾向にあります。フューリー・リサーチ・パートナーズの研究によると、ラッセル2500インデックスにおける自己資本利益率の中央値は、1998年につけたピークの12.6%から現在では5.5%に低下しています4。この低下は、インデックスに組み入れられている最小規模の企業で際立っています。

図表3を見ると、インデックスのクオリティの悪化が観測されます。同図は、インデックス構成企業の3分の1以上が利益を生み出していないことを示しています。赤字企業は、支払能力を維持するために必要なキャッシュを創出しにくい可能性が高く、レバレッジを高めるか、増資を行うことで業務に必要な資金を調達する必要があるかもしれません。
数十年の超低金利期間を経て、投資家は最近、中小企業の借り換えリスクに再び焦点を当てています。しかし、すべての中小企業が同じレベルのリスクを抱えているわけではないことは注目に値します。例えば、中小企業のおよそ5社に1社は、債務を抱えていません。また、貸し手と条件を再交渉する際に、より有利な結果を勝ち取る能力も多様です。負け組を回避しつつ、潜在的な勝ち組を理解し特定することは、まさに、このリサーチが行き届いていない株式市場の分野で、クオリティ重視のアクティブ運用会社が投資家のために達成しようとしていることなのです。
上場投資信託(ETF)やインデックス・ファンドのようなパッシブ型の運用商品に大量の資金が流入すると、より強力な競合他社とともに平凡な企業の株価も押し上げられることになります。これは、中小型株式の低いクオリティや低い流動性がパッシブ投資家にリスクをもたらすにも関わらずです。市場が持続的に下落する場合、投資家が資金を引きあげる動きが活発化する状況で、売り手はクオリティが低く、流動性が低い銘柄の買い手を見つけにくくなる可能性があります。
優良企業とそうでない企業を見分ける
中小型株市場における銘柄数の減少と全体的なクオリティの低下は、アクティブ投資家にとっても課題を投げかけています。アクティブ投資家の目的は、優良企業とそうでない企業を見分けて、割高な投資を避けることです。3-5年の期間で最良の投資機会を特定することを目指して、リスクと潜在的なリターンの双方を理解することに焦点を当て続けることが重要です。株式市場でリサーチが行き届いていない分野の企業を理解し、密接に関わることは、今後数年にわたりさらに重要になるでしょう。
規律のあるファンダメンタル・アプローチは、業績が好調で株価が妥当であり、クオリティを備えた企業、平均を上回る持続的なフリー・キャッシュフローを創出しつつ、有能な経営陣を有する企業を特定するうえで不可欠です。市場の変動期に下支えとなる質の高い株式に焦点を当てつつ、忍耐強いアクティブ運用のアプローチをとることが長期的な成果をもたらすと確信しています。
良好かつ持続可能な構造的見通し
上場市場における投資機会が少なくなっていることから、中小型株式への投資はより難しくなっています。目先の市場リスクおよび経済リスクは、不確実性をさらに高めています。しかし、歴史的に割安な相対バリュエーション、確立された国内回帰(オンショアリング/リショアリング)のトレンド、国内企業優先の環境といった多くの要因が、同セクターの良好な長期構造的見通しに寄与しています。今後12カ月は変動の激しい展開となる可能性があるものの、長期投資家にとって、米国株式市場におけるこのダイナミックかつ革新的な分野へのアクティブ投資には、説得力のある理由があります。
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