2024年11 月 / インサイト

グローバル株式に関して米大統領選挙後に考慮すべき主な論点

サマリー

  • 米大統領選挙後の見通しは比較的明るい模様。米国経済が成長基調にあるなか、インフレは抑制されており、消費者と企業の財務状況は健全。
  • 人工知能やGLP-1などにけん引される強力な成長分野に加え、最近の米中経済政策や株式市場のすそ野の広がりに支えられ、2025年は株式市場におけるアクティブな銘柄選択にとって好ましい市場環境が見込まれる。
  • 世界経済のファンダメンタルズは様々な変化を迎えるなか、企業の将来の収益改善に着目し、「変化の正しい側にある成長企業に投資する」というアプローチが真価を発揮しやすい環境になりつつある。

地政学的情勢や一部の企業において収益成長がピークを迎えたことにより、ボラティリティが上昇しており、株式市場を取り巻く環境は厳しさを増しています。しかしながら、米大統領選挙後、2025年には何が起こるでしょうか。人工知能(AI)とGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1)にけん引される強力な成長分野、最近の米中経済政策、企業との対話を通じて楽観的な見方が強まっていることは、今後の見通しが比較的明るいと考える根拠となっています。また、今夏以降に「マグニフィセント・セブン」への極端な資金集中から離れて、株式市場のすそ野が拡大していることも2025年がアクティブな銘柄選択に好ましい市場環境になる可能性があると見込む理由です。

米大統領選挙後の見通しは明るい

米大統領選挙を巡る不安は不確実性を高め、企業景況感や消費者信頼感をも左右しました。リスク回避姿勢の高まりは買い控えが生じるなど消費者の行動に影響を与えており、企業のプロジェクトは選挙後まで先送りにされています。その結果、よりボラティリティの高い市場環境のもと、投資家は安全性を求め無難な米国債やディフェンシブな株式に投資しました。公益事業は、年初からこれまで最も堅調に推移してきたセクターです。しかし、選挙後の見通しは明るさを増すとみています。米国経済は成長基調にあり、米国のガソリン価格は前年比で約40%下落し、消費者に大きな恩恵を与えています。消費者と企業のバランスシートは比較的健全です。一方、インフレ率が目標レンジ近くまで低下しており、米連邦準備制度理事会(FRB)は9月に0.50%幅の利下げを実施しました。また、今後もさらなる追加利下げが予想されています。このような一連の動向がすべて株式市場が堅調に推移する背景となっています。

待ち望まれた中国の政策対応

このような明るい見通しが中国の動向次第で悪化するか否かについては、現段階ではどちらとも言えません。中国経済は近年、著しく低迷しています。政策当局は過去20年にわたり経済状況の悪化に対して景気刺激策を講じてきたため、近年の景気刺激策にも関わらず経済の低迷が続いてきた理由を理解することは容易ではありません。習近平国家主席のもとでの中国の政策は、概ねCRICサイクル(危機―対応―改善―慢心)をたどっています。失業率の上昇(特に若年層)、低迷する住宅市場、国内外の投資家から敬遠されている株式市場等からもうかがえるように、最近の中国経済は危機的な状況にあります。政策対応の欠如は、企業の最終価値に対して疑問を生じさせました。

しかし、2024年9月下旬にこの状況が一変し、CRICサイクルの「対応」段階へ大きく転換しました。政策当局は、年間経済成長目標の達成に向け、不動産市場の回復、金融緩和政策の強化などの経済を支えるための幅広い施策を発表しました。また、株式市場の支援や、中央政府による1~2兆人民元規模の債券発行など、経済成長と個人消費を支える施策も盛り込まれています。

長期にわたり政策対応が講じられなかったため、これらの施策は大いに歓迎されました。重要な点は、過去の景気刺激策と異なり、金融政策と財政政策実施にあたり政策当局間の連携が高まっていることです。また、政策協調と習国家主席が推進しているという事実は、政策意図に関して力強いメッセージを伝えています。バリュエーションが過去最低水準にある中で、中国株式市場はその後極めて短期間で大きく変動しました。

インフレと米国の金融政策に 及ぼす潜在的な影響

とはいえ、中国経済の減速が米FRBの最近の金融緩和政策への動きを後押ししてきたことも認識する必要があります。中国経済が通常運転であれば、特にエネルギーやコモディティの価格の上昇を通じて、FRBがインフレを沈静化することはより困難な課題となっていたでしょう。実際は、中国の経済不振によって、FRBは景気減速をより適切に制御することができ、米国経済はソフトランディングを果たしたようにみえます。失業率は若干上昇していますが、インフレ率(総合)は目標近辺まで低下しており、FRBが利下げを行う十分な余地を確保しています。中国の新たな景気刺激策は、米国の金融政策に影響を与える可能性があるものの、景気刺激策の効果についてはしばらく様子を見る必要があります。一方、中国には依然として機能不全に陥っている住宅市場、弱い消費者信頼感、高齢化など長期に渡り構造的な逆風が吹いていることには留意する必要があります。

総じて、米国のインフレ率が2%近辺を割り込む可能性は低く、特定の経済分野ではむしろ高止まりが続くと考えています。米国経済は、景気後退の始まりではなく、むしろ踊り場の景気減速期にあるようです。したがって、おそらく市場が予測しているほど大幅な利下げサイクルは想定していません。さらに、足元、世界金融危機後やコロナ禍で見られたようなクレジットサイクルの悪化には陥っていません。

当時、主要中央銀行は、多岐にわたる構造的な問題に対処するため、利下げを余儀なくされました。 当時の状況とは対照的に、今回のFRBによる利下げは、米国の景気後退や危機への対応ではなく、むしろ単に出遅れているとの認識から行われたものです。

ファンダメンタルズの多様な 変化は責任ある方法での運用を必要とする

クレジット・サイクルの不在は、AIやGLP-1などにけん引される強力な投資成長分野とともに、比較的良好な投資環境を示唆します。米大統領選挙を巡る不確実性が払拭された後、2025年には、金融緩和政策、中国の景気刺激策、消費者と企業の健全な財務状況が株式市場にとって好ましい環境を形成すると予想しています。

これは万人に成功をもたらすことを意味するものではありません。均衡が崩れ、世界経済は効率的フロンティアから外れています。世界金融危機からコロナ禍やロシアのウクライナ侵攻に至るまでの間、先進国は中国に雇用と資本を輸出することができました。

その見返りとして、中国は安いモノを輸出しました。同時に、米国とロシアは豊富かつ安価な天然ガスを欧州経済に提供しました。こうした動きは、非常に効率的な世界経済システムを維持し、インフレ率を低水準に保ちました。

現在、市場環境は著しく変化しています。サプライチェーン全体が再構築されつつあり、この変化には時間を要します。各国は知的資本やエネルギーの供給に関してこれまで以上に戦略的になっています。そうしたファンダメンタルズの変化の最中、アクティブ運用は不可欠であると考えています。さらに、当運用戦略の「変化の正しい側にある成長企業に投資する」という投資フレームワークの真価を発揮しやすい環境になりつつあります。重要な点として、投資フレームワークは低インフレ環境と高インフレ環境の双方で機能することが挙げられます。また、世界が変化するなかで、「The fastest learner wins(最も早く学び、対応する者が勝利する)」と確信しています。今後とも、引き続き、将来の収益改善が期待できるハイクオリティかつ妥当なバリュエーションの企業を発掘、投資します。

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