2024年12 月 / インサイト
アディショナリティ(追加性)の力:ブルーボンドがサステナビリティを高める
サマリー
- 昨今、サステナビリティ・ファイナンス市場は拡大しているものの、国連の持続可能な開発目標(SDGs)、特に新興国市場における資金調達ギャップは縮まらず、革新的なファイナンス手段が求められている。
- ブルーボンドは、海洋に優しいクリーン・ウォーター・プロジェクトを目的とし、投資資金不足にあるSGDsの6と14に対処し、新興国市場に追加的なプラス効果をもたらす。
- 水資源を持続可能とするための新興国市場への投資は、経済成長を支え、健康促進、不平等の解消、ジェンダー平等などのSGDsを推進するのに役立つ。
投資リターンを追求しつつ、持続可能な取り組みへ投資資産を配分する投資家が増え、サステナブル・ファイナンスは過去10年間で急増しています。一方、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために必要とされる投資額は一層増加しており、目標達成までに残された時間は差し迫っています。2023年、国連は目標達成のためには、追加で4兆米ドル程度の資金が必要と推定しました。この資金ギャップは、特に新興国で深刻となっています。
気候関連災害や水不足の問題は、世界中で引き続きニュースの見出しを飾り、2000年から2020年までで発生した4,600件を超える気候関連災害によって、世界人口の44%(約34億人)が直接的な影響を受けました。1、2 また、すべての国連加盟国によって採択された「持続可能な開発アジェンダ2030」で設定された目標期限の2030年に近づいています。このアジェンダの採択に数十年の時間をかけてまとめ上げたものであり、世界の成長と発展のための青写真として機能するのです。17の国連の持続可能な開発目標は、気候変動に対処し、海洋や森林を保全し、貧困に立ち向かい、健康と教育を改善させ、経済成長を促進するために必要な行動を定めたものです。
追加性—新興国債券に注力することで、より大きなインパクトの可能性を秘めています
2030年までに17のSDGsのすべてを達成することは喫緊の課題です。SDGsに向けた進展を加速させるためには、投資家が投資からより大きな「追加性」を得られるよう方法を検討することが重要と示唆されます。「追加性」とは、追加のリソース投入や資本投資なしには起こらなかったであろうプラスのインパクトや結果の度合いを表します。当社の見解では、特に新興国市場におけるブルーエコノミーイニシアティブへの投資は、SDGsに向けて投資資金を提供することであり、2030年目標達成に向けた進展を加速させる大きな可能性を秘めています。
ブルーボンドは、サステナブル・ボンドの中で新しい資産タイプです。これらは、海洋に優しい、またはクリーン・ウォーター・プロジェクトの資金調達のためにのみ使用されます。政府機関、開発銀行、準政府機関、企業が発行体となり、SDGsの6(安全な水とトイレを世界中に)と14(海の豊かさを守ろう)に沿ったプロジェクトにブルーボンドを通じて資金を提供します。SDGs 6と14は現在、資金調達不足の状況にあります。
ブルーボンドは、サステナブル・ファイナンスの成長を加速させ、資金調達不足を埋めるための資金フローを促進するのに役立ちます。国際資本市場協会(ICMA)は、グリーン・ボンド、ソーシャル・ボンド、サステナビリティ・リンク・ボンドの各資産のガイダンスに加えて、最近では、ブルーエコノミーに沿ったプロジェクトへの直接投資を働きかけるガイダンスを投資家向けに策定しました。こうした投資家への大規模な資産配分を促す働きかけを受け、資産運用会社が持続可能な開発イニシアティブへの投資を先導すると見込まれます。
ブルーボンドは世界中のプロジェクトを支援しますが、私たちは投資資金が不足している新興国市場のニーズが高く、投資機会が増えると見ています。新興国市場では先進国市場よりもSDGsへの資金提供が少ないため、それらの国々におけるニーズが高まっています。北アフリカと西アジアは水不足の地域として知られています。中南米は水産養殖や農業に関する特有なニーズがあります。一方、アジアではプラスチック汚染の増加に直面しています。
新興国市場におけるブルーボンドへの投資は、現地の課題に対処するだけでなく、最も必要とされる場所でインパクトのある変化をもたらすことで、より大きな追加性を実現します。過去10年間で、新興国経済が世界の国内総生産(GDP)の成長の大部分を占めてきたことを踏まえれば、同地域の水資源の改善を支援することは、世界の成長の重要な原動力を強化することにもつながります。
なぜ水資源なのか?
SDGs6:安全な水とトイレを世界中に
安全な水資源の確保が及ぼす持続可能性へのインパクトは、新興国市場で大きな可能性を秘めています。SDGs6の目標である安全な水へのアクセスは、新興国に遍在する数十億人もの人口を考えれば、間違いなく重大な問題です。水不足は農業へ大きな問題を及ぼし、人々の取り組みを妨げます。
世界の人口の4分の1は安全な飲料水を利用できず、半数は下水処理や排水処理などの安全な衛生設備が利用できない状況です。安全な飲料水や衛生設備への普遍的なアクセスを推し進めることで、健康(SDGs3)不平等の縮小(SDGs10)ジェンダー平等(SDGs5)の目標達成を促すことに繋がります。
また、水資源や衛生設備への投資は、医療費の節約や労働生産性の向上を通じて追加性を生み出します。国連児童基金(UNICEF)は、世界の女性と少女が家族のために毎日2億時間を水汲みに費やしていると推定しています。こうした労働が、仕事や教育の機会を制限している可能性が指摘されます。世界保健機関(WHO)は、多くの国で水や衛生に関連する疾病により、最大でGDPの5%の生産性が失われていると推定しています。安全な飲料水や衛生設備へのアクセスが確保されれば、世界の疾病が10%削減できると推測されています。
新興国では、水資源に関連する取り組みへの支援を強化しています。例えば、ブラジルは2033年までに基本的な飲料水と衛生設備への恒久的なアクセスを目標として設定しています。同様に、チリやカンボジアでは、水資源管理を強化するプログラムを策定しています。これらの取り組みは、官民パートナーシップの開発促進の機会となる可能性があります。
SDGs14:海の豊かさを守ろう
気候変動により自然災害の頻度と激しさが増しており、多数の災害死や経済的打撃をもたらしています。国連は、こうした災害の90%以上が干ばつ、山火事、洪水など、水に関連していると推定しています。海洋は気候を調節する上で中心的な役割を果たしています。海洋は、酸素を生成し人間の生存や生産活動によって生成される過剰な熱や排出炭素を吸収し生態系を支えています。海洋生物の保護なくして気候変動の目標を達成することはできません。
新興国市場への投資資金フローは特に重要です。なぜなら、これらの地域は地理的および社会経済的な脆弱性により、気候変動の影響を不均衡に受けることが多いからです。加えて、先進国のような経済力や強靭なインフラが不足しており、効果的な海洋は、世界経済の重要な動力源でもあります。国連の環境プログラムファイナンスイニシアティブでは、海洋は、観光、廃棄物処理、漁業、海上輸送などの産業にまたがり、世界経済に対し年間2.5兆米ドルの付加価値を創出していると推定しています。さらに、海洋は、3,000万人以上の雇用を支え、30億人に重要なタンパク質源を提供しています。一方で海洋は、気候変動、汚染、乱獲、生息地の破壊など、数多くの圧力により脅威にさらされています。
新興国市場は、漁業、観光、海上輸送などの経済活動の多くを海洋に依存しており、海洋エコシステムの劣化に対して非常に脆弱です。これら地域へ投資することは、持続可能な経済活動を強化し、影響を被る産業セクターを支援し、長期的な経済的安定と成長を確保することに繋がります。海洋を保全する取り組みを通じて、飢餓をゼロに(SDGs2)、クリーンエネルギー(SDGs7)、気候変動対策(SDGs13)などの他の目標に対してもプラス効果をもたらします。新興国市場における持続可能な海洋イニシアティブへの投資は、地域の環境や経済的課題に対処するだけでなく、地球規模の持続可能性目標の達成にも貢献します。
資金調達ギャップを埋める:新興国市場のブルーボンド
サステナブル・ファイナンス市場の拡大には勇気づけられますが、SDGsの2030年目標の達成には依然として不十分と言えるでしょう。特に新興国市場における著しい資金調達ギャップの是正が期待される、海洋に優しいクリーンウォータープロジェクトのためのブルーボンドのような革新的な金融商品が注目されています。ブルーボンドは、資金不足が顕著なSDGs6(安全な水とトイレを世界中に)や14(海の豊かさを守ろう)の目標達成を通じて大きな利益をもたらす可能性があります。
ブルーエコノミーが直接的に与える影響に加え、社会的な副次効果も非常に大きいと言えます。水資源に特化した新興国債券投資は、同地域の水資源の強化を通じて深刻な水不足を緩和し、経済成長を支援することができます。安全な水と衛生設備へのアクセスの確保は、生活水準、労働生産性、そしてより広範な経済発展を改善するために不可欠です。
SDGsを達成するには、革新的で協調的な取り組みが必要となります。投資資金を持続可能なプロジェクト、特に水資源管理に向けることで、投資家や資産運用会社は、実質的で前向きな影響をもたらすことができます。このアプローチは、投資資金不足を埋めるだけでなく、投資リターンと環境的および社会的成果とを整合させることにも役立ちます。
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