2024年12 月 / インサイト

拡大する投資機会:市場の拡がりと新興国の新たな局面

サマリー

  • 「マグニフィセント・セブン」以外の銘柄への資金流入が、まだ初期段階ながら観測されており、この基調は2025年に入っても続く模様。
  • 新興国は回復の初期兆候を示し始めており、他市場とは一線を画した成長力が期待され、資産分散による恩恵をもたらす。ただし、慎重な銘柄選択が重要に。
  • 今後も複雑な市場環境が続くと見込まれるなか、分散を考慮した銘柄選択、慎重なリスク管理、ファンダメンタルズ重視は、そうした環境を乗り切る鍵となる。

株式市場のダイナミクスは変化しています。市場の焦点は、少数の大手テクノロジー銘柄への集中投資から、より広範な銘柄選択へとシフトしています。米国の選挙で共和党が勝利を収めたことで、このような流れが続く可能性が高く、また新興国は特有の投資機会をもたらしている一方、関税引き上げの可能性を踏まえると、慎重な銘柄選択が求められます。同時に、米国の政策、地政学的緊張、米国と日本の金融政策、中国の景気刺激策により、短期的に市場のボラティリティが上昇し、パフォーマンスにバラつきがでる可能性があります。しかし、米国の7月の消費者物価指数(CPI)が発表されてから市場リターンが広範化しており、この状況は、今後も続くものと見込まれます。

テクノロジー企業の利益成長率が頭打ち、その反面、他の分野では再び上昇へ

市場パフォーマンスと利益成長は、これまで「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる少数の企業(アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、エヌビディア、メタ・プラットフォーム、テスラの7社)に集中してきました。これら企業のリターンは、人工知能(AI)の発展の恩恵を受けた成長によるものです。また、ヘルスケア分野では、イノベーション、特にGLP-1受容体作動薬が一部の企業に恩恵をもたらしてきました。上記のような投資トレンドは健在ですが、ファンダメンタルズは重要です。これらの企業の一部の利益成長率がピークをつけたことは、投資妙味が減りつつあることを示唆していると考えられます。

図表1は、マグニフィセント・セブンの利益成長率が2023年10-12月期にピークをつけた一方、S&P500指数のその他の企業493社の利益成長率が再び上昇している様子を示しています。2024年4-6月期までに、マグニフィセント・セブンを除く493社は、利益成長率が5四半期連続で下落または停滞した後、上昇に転じると予想されています。マグニフィセント・セブンの支配力の低下は、けん引するセクターの交代を招いていますが、2024年8月に発生したボラティリティの急上昇、ディフェンシブなポジションへの転換、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ見込みの高まりも同時に発生しています(図表2)。まだ初期段階ながら、この流れは2025年に入っても続くと予想しています。

マグニフィセント・セブンの利益見通しは、もはや「マグニフィセント(偉大)」ではない...

    

「AIの勝ち組」以外の銘柄に対する広がり

マグニフィセント・セブンに名を連ねる企業にも変化が生じています。2024年を通じて、このグループの存在感はそれほど支配的ではありませんでした。利益成長率のピークは過ぎたと見込まれるなかで、当グループの魅力は、利益成長が再加速している広範な市場と比べて低下しています。

米国の選挙における共和党の勝利は、全体的な景気刺激策の検討、保護主義的な政策、より広範囲にわたる米国企業に有利な規制緩和の可能性など、総じて国内経済の拡大に寄与するとみなされており、市場パフォーマンスをさらに後押しすると予想されます。当社の経験上、ファンダメンタルズを重視する地合いは、短期的には市場の相対パフォーマンスにとってより重要であり、この結果として、マグニフィセント・セブンのパフォーマンスは引き続き今までとは違う方向に向かうと予想しています。

ここで明確にしておくべき点は、マグニフィセント・セブンは、高い利益率とフリー・キャッシュフローをもたらす優良企業ですが、株価指数に対して高い構成比を占めていることから、慎重なリスク管理が必要であると考えています。引き続き、この企業グループをそれ以外とは異なる1つのセクターとして捉えながらも、このグループ内で銘柄選択を行い、指数に対するウェイトを各銘柄ごとに調整することで、総じて相対的に中立のウェイトを維持する方針です。

それと同時に、AIに関するインフラおよび投資サイクルがピークをつけているか否かが議論される一方、私たちが目にするAIの潜在的な利点と活用事例は、ごく一部に過ぎないと考えています。市場はAIの短期的な投資リターンを疑問視しているかもしれませんが、企業がAI能力を発展させるなかで、イノベーションと生産性の向上が続くと予想しています。こうしたトレンドは消滅したわけではなく、継続しているのです。

新興国市場も見落とすべきではない

1990年代とBRICS時代を通じて、新興国は多くのポートフォリオで際立った存在でしたが、世界金融危機以来、敬遠されてきました。しかし、新興国は回復の初期兆候を示し始めています。新興国株式は、2008年以来、大幅な下落を経験してきました。先進国株式に対して約35%割安な価格で取引されており1 、グローバル指数に占める割合は低下しています。コロナ禍以来、事態はさらに悪化してしており、米国金利が上昇し、長く高止まりしたことから、米ドル高による打撃を受けてきました。

2021年以来、中国の経済の低迷と株式市場のパフォーマンス悪化に見舞われ、過去数年間は、投資家の一般的なリスクオフ心理と地政学的緊張の高まりが重圧となってのしかかりました。さらに現在は米国の新政権により予想される関税政策が投資家にとって新たな不確実要素となっています。

中国の低迷と米ドル高は、「新興国株式市場」という枠を超えて投資機会を奪う可能性がある暗雲とも言うべき不安材料になっています。この地域全般の低迷があるがゆえに、2019年以来インド株式が米国株式をアウトパフォームしてきたことは見落とされがちです。また、新興国が世界全体の国内総生産(購買力平価ベース)2の約60%を占める点、世界で最も急速な成長を遂げ、人口動態面で最も優位性のある国々が新興国である点も注目されにくくなっています。新興国内のいくつかの国には追い風が吹いていると見ており、長期かつ構造的な追い風と短期的な促進要素が同時に発生していると考えています。米国金利と米ドルがピークに達した可能性、新興国と先進国の間で広がる成長格差、高インフレの緩和は総じて、将来的な新興国の力強さを支えると考えられる基本的な根拠となっています。

中国政府は大規模な景気刺激策を発表しましたが、これによって景気回復の勢いが加速する可能性があります。とはいえ、低迷する同国経済に与える同刺激策の影響を評価するためには、より詳しい情報と継続的な確認が必要です。また、関税は新たなマイナス材料ですが、その規模と内容は未だ明らかになっておらず、「全品目に対して一律」ではない課税になる可能性があります。また、新興国に対する前向きな見方は、中国以外の国々にも及んでおり、アジアの新興国に優れた投資機会があると見ています。特にベトナム、インドネシア、フィリピンは、人口動態面の優位性と最近の景気低迷からの回復期待を背景に魅力があります。インドは依然として投資妙味がある国のひとつですが、バリュエーションが高いため綿密かつ慎重な投資が重要になります。

新興国株式は、一部の投資家において投資対象から外れている可能性はありますが、当社は重要な資産クラスとして位置付けています。銘柄選択が重要な鍵となりますが、今後、他市場とは一線を画した成長力が見期待され、資産分散による恩恵をもたらす可能性がある新興国市場の力強さも含めて、株式市場の物色の拡がりを好感しています。

市場の拡大により銘柄選択が 再び重要に

マグニフィセント・セブン以外の銘柄に対する投資機会の広がりは、アクティブ運用にとって好ましい展開です。投資機会は様々な地域やセクターにわたり出現しており、人工知能とヘルスケアのイノベーション(GLP-1受容体作動薬)の2つのテーマがけん引してきた市場とは対照的です。また、米国経済が順調なソフトランディングの態勢にあり、金利が世界的に低下し、中国が景気刺激策を講じていることから、投資環境は改善しています。

2025年に向けて、地政学的要因とマクロ経済要因が引き続き短期的に市場を特徴づけるものの、慎重な銘柄選択は銘柄固有リスクを軽減することに役立ちます。しかし、長期的に見れば、ファンダメンタルズから得られる収益力とキャッシュフローの創出が最終的には株価に影響を与えます。分散を考慮した銘柄選択、慎重なリスク管理、ファンダメンタルズ重視は、今後も継続するとされる複雑な市場環境を乗り切るための最善の方法であると考えています。

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