2024年10 月 / インサイト
今後の展望 米10年国債利回りが5%に達する可能性があるか?
サマリー
- 米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げは米短期国債の利回りを低く抑える可能性があるものの、財政支出と期待インフレ率の上昇が長期債利回りを押し上げると見込まれる。
- FRBの金融引き締めで需要は減退してきたものの、高水準の米財政赤字が米政府による国債増発の圧力となり、利回りを押し上げるだろう。
- 長期インフレ期待の高まりも米国債の期間プレミアムを押し上げるだろう。
市場コンセンサスは、FRBが利下げサイクルに踏み切るなかで、米10年国債の利回りは低下すると予想しています。しかし、特に米国大統領選挙の年には財政の手綱が緩むことなどいくつかの要因が重なり、米10年国債利回りが10月初旬の3.8%近辺の水準から押し上げられる可能性があるのでしょうか。
米10年国債利回りは向こう6ヵ月で5.0%の節目をうかがい、イールドカーブはスティープ化すると私たちは見ています。それには次に掲げる3つの要因が影響を与えると考えています。
- FRBの利下げが米短期国債の利回りの上昇を抑える。
- 財政赤字を補うための米国債の継続的な発行は、大量の新規供給を市場にもたらす。
- これまでのFRBの金融引き締めによって、大口で信頼できる米国債の買い手が市場から撤退させられ、需給バランスの逼迫が利回り上昇を引き起こす。
期間プレミアムの上昇
期間プレミアムは、長期国債の利回りが満期時にロールオーバーされる一連の短期国債の予想平均利回りを上回る程度を示す指標のことを言い、それが上昇傾向にあります。長期インフレ期待が上昇し始めていることも、期間プレミアムの押し上げ要因となっています。
ブレークイーブン・インフレ率1は、市場に織り込まれた予想インフレ率を測定する最適な尺度です。FRBが利下げを行った翌日の9月20日に10年物ブレークイーブン・インフレ率は7~8bps上昇しました。これは利下げ幅に反応したと思われます。過去にブレークイーブン・インフレ率が同程度に上昇した局面は2度あり、米10年国債の名目利回り2は、その後3ヵ月以内に約100bps上昇しました。このパターンは、インフレ期待がその後数ヵ月にわたり10年期間プレミアムを押し上げた可能性を示唆しています。
米国経済とFRBの今後想定される3つのシナリオ
米国経済とFRBの先行きについては、今後12ヵ月にわたり3つのシナリオが想定されます。
これらは5月のレポート「米FRBの3つの想定シナリオはいずれも利回り上昇とスティープ化を示唆」で指摘したものと重なりますが「FRBは利下げをしない」のシナリオを「景気後退」のシナリオに置き換えています。
1. 中程度の調整のシナリオ
中国は追加の景気刺激策を実行し、世界経済の成長を後押しする。米国大統領選挙を巡る不透明感が急激に払拭され、FRBは(1995~1998年の中程度の利下げサイクルのように)相対的に小幅の利下げを行う。これは3つのシナリオの中で最も可能性が高いと考える。
2. 通常の利下げサイクル・シナリオ
FRBは3%前後と思われる中立金利水準まで金利を引き下げる。それによって、米国債のイールドカーブは2年債と10年債の間でスティープ化し、右肩上がりの傾斜3は約100bpsと過去の平均的な水準になる。
3. 景気後退シナリオ
米国経済は景気後退に陥る。このシナリオでは、FRBは大胆な金融緩和政策を余儀なくされ、2008~2009年の世界金融危機後や2020年のコロナ発生後のゼロに近い水準まで利下げを行う可能性がある。
2つ目と3つ目のシナリオが実現する可能性はほぼ同程度で、いずれも中程度の調整の可能性を下回ります。
中程度の調整によって米10年国債利回りは最も短期間で5%に到達する
米10年国債利回りは、FRBの小幅の利下げを前提とするシナリオでは、最も速く5%に達するでしょう。この予想は、フェデラル・ファンド・レートが中立金利水準に近づくまでFRBが十分な利下げを行うシナリオでも実現する可能性があるものの、そのシナリオでは、10年債利回りが5%の水準に到達するまでに時間を要する可能性があります。
しかし、米国経済が景気後退に陥るシナリオでは、FRBは大胆な金融緩和政策を講じる必要があるため、米10年国債利回りが5%に達する可能性はほぼないでしょう。
目先、景気後退の可能性は低いとの見方を共感する投資家は、米長期国債利回りの上昇に備えたポジションを検討すべきと考えます。
FRBは政策ミスを犯しているか?
では、景気後退の可能性が低いことに加え、米10年国債利回りが大幅に上昇するという見通しは、FRBが9月に行った0.5%幅の利下げは政策ミスだったということでしょうか?必ずしもそうとは限りません。2024年末までに0.75%幅の利下げがあっても、フェデラル・ファンド・レートはまだ中立金利を優に上回るでしょう。インフレの鈍化と労働市場の段階的な悪化へのFRBの対応は、これまでのところ目標通りとなっています。2025年は敏捷性を保ち、過剰な金融緩和を行わないことが必要と考えます。
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