2024年8 月 / インサイト

ブルーなくしてグリーンなし ネットゼロ達成に重要なブルーボンド

サマリー

  • 温室効果ガス排出量の削減目標を達成するために、様々な要因から悪影響を受けている海洋資源の持続可能性は重要な要素。
  • 地球の海洋は、人類が世界全体で排出するCO2の大半を回収しているが、その炭素吸収能力は悪化している。
  • 新たに発展している支援手段として、ブルーファイナンスは、幅広い地域・セクターにわたり海洋資源保護プロジェクトに資金を提供することができる。

2050年までにネットゼロ目標1の達成を目指すうえで、水と水が大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収する上で果たしている役割は、非常に重要です。CO2は、地球上で最も多く排出されている温室効果ガス(GHG)です。著名なアメリカ人海洋生物学者のSylvia Earleは、「ブルーなくして、グリーンはない」と指摘しています。地球表面の70%以上は水で覆われており、地球の健全性を促進する役割を果たしています。

海洋の炭素吸収能力は...

地球の海洋は、人類が活動することで世界全体に排出するCO2の約3分の1を回収しています2。地球の海面で生息している微細な植物プランクトンは、大気中のCO2を吸収し、自生のため光合成に活用するとともに酸素を大気に放出します。 

産業革命前の時代から、海洋は増加する大気中のCO2水準の均衡を維持する役割を果たす一方で、海洋が吸収しなければならない炭素量はすさまじい勢いで増加してきました。残念ながら、増加した炭素が引き起こしている海水中の化学変化が原因で、海洋の炭素吸収能力は低下しています。このように大気中の炭素を吸収する海洋の能力の低下は、水温の上昇により増幅されています。

図1は、大気中のCO2と水温の変化の関係に応じて海洋が維持できるCO2濃度を示しています。大気中のCO2が増加すると、海洋のCO2濃度も上昇しますが、水温が上昇すると炭素吸収力は低下します。

(図1)海洋の二酸化炭素吸収力を妨げる二大要因

 

…課題に直面

産業革命以来、海洋は人為的な(人類が生み出した)気候変動を原因として発生する過剰熱の90%を吸収してきました。残念ながら、温暖化が進むと、海洋はこれまでと同程度のCO2を吸収することができなくなります。

CO2と過剰熱を吸収するという極めて重要な役割は、ネットゼロ目標を達成するための舵取りに海洋と河川が不可欠な要素であるという当社の考え方を裏付けており、ブルーエコノミー支援のための投資を優先する必要性を浮き彫りにしています。

潜在的な新しいツール

ブルーエコノミーで活発に事業展開する企業は、海洋が今後も自然に大量の炭素を吸収し、酸素を供給し続けるという状況を確保する上で重要な役割を果たします。これらの企業の事業活動は、健全な海洋と密接に結びついているため、海洋の健全性を維持するプロジェクトの実行に動き出す企業も存在します。ブルーファイナンスはサステナブル・ファイナンスの新たな分野であり、投資家と発行体からの関心が高まっています。グリーンファイナンスの一部であるブルーボンドは、海洋に優しいプロジェクトやきれいな水資源を管理する重要なプロジェクトに資本を動員するものであり、地球の健全性に悪影響を及ぼす要素を最小化する企業の取り組みに資金供与する優れたツールです。

セクター例

輸送

海上輸送は世界全体の温室効果ガス排出量の2.9%を占めており、海上貿易量が2050年までにほぼ3倍になると予想されることから、この割合は10%に上昇する可能性があります3。さらに言えば、海運業界は海洋酸性化の深刻な元凶です。大気中の炭素を吸収することで、海洋は酸性化が進み、海洋生物に直接的な打撃を与えており、生態系に多大な負荷がかかる可能性があります。酸性化を抑えるため、国際海事機関(IMO)は、海運業界に対して2050年までに50%の脱炭素化目標を設定しています。大口顧客が自身のカーボン・フットプリント(CFP)の削減に努めていることは、海運企業の脱炭素化に対するさらなる後押しになっています。ブルーボンドは、排出量が少ない(最低60%の排出量削減)またはゼロの船舶の新造および購入に海運企業と造船企業が資金を投じてこの目標を達成できるよう支援する重要な資金調達手段になりえます。100%電気推進船やグリーン・アンモニア、グリーン水素またはグリーン・メタノールを動力源とする船などが考えられます。既存の船舶については、改良設計に基づく改造、炭素回収、または帆・ローター・凧への改良に投資することにより、排出量を最低20%削減する可能性があります。

プラスチック廃棄物への取り組み

最近の共同研究4によると、世界の海洋に171兆個ものプラス チック片が浮遊していると推定されます。時間の経過に伴って、潮流がプラスティック屑を「渦」に運んでいきます。

海洋生物がプラスチック屑を食物と間違えて食べてしまう、あるいは海洋生物の体にからまってしまう危険があります。プラスチックは魚や海洋動物の命を奪い、海洋生物の多様性にとって非常に有害です。またゴミを巻き込んだ渦は太陽光を遮るため、植物プランクトンや藻に太陽光が届かなくなり、食物網全体の脅威となっています。生物の多様性と健康な植物プランクトンは、海洋が炭素を吸収し酸素を供給する機能を維持するために不可欠です。

プラスチックのリサイクルや再利用は、プラスチック汚染を排除するための基本です。ブルーボンドは、再生プラスチックの生産・製造を支持するための優れた資金調達源を提供します。このような投資は、水中に廃棄されるプラスチックの量を削減することに資するばかりでなく、再生プラスチック樹脂は未加工原料より排出量を最大71%削減するため、エネルギー消費の削減を後押しします5

再生可能エネルギー

国際連合によると、石炭、石油、ガスなどの化石燃料に よる温室効果ガス排出量は、世界全体の75%以上を占めており、これには世界全体のCO2排出量の約90%が含まれています。化石燃料から再生可能エネルギー源への転換は、温室効果ガス排出量の削減に劇的な影響を与える可能性があります。

またブルーエコノミーは、海洋と湖の双方において豊富なオフショア再生可能エネルギーを提供します。オフショア風力発電は、風が安定して流れることで恩恵を受けやすく、地上の他の利害関係者と競合せずに水に囲まれた環境下で風を豊富に受けることができます。海洋動物や生物の多様性に対する阻害は管理・軽減可能です。事実、ブルーボンドを通じて資金を調達して利用するプロジェクトは、海洋生物圏の自然に最終的にはポジティブな結果をもたらすための資金を提供します。

ブルーボンドは、オフショア風力・太陽光発電プロジェクトのための投資資金を調達する然るべきツールを提供します。

国際連合水会議は、「気候変動は概ね水の危機と言える」と主張しています。

当社は、この主張に同意します。これらのセクター例が示すように、水と海洋は脱炭素化に不可欠な要素であり、パリ協定の目標を達成しようとするならば、無視することはできません。

ブルーファイナンスを実施しているプロジェクト例

リスク:ブルーボンドにはクレジット・リスク、金利リスクなどのリスクを伴います。エマージング市場は先進国市場ほど確立されていないため、リスクが高くなります。望まれる結果の達成を保証するものではありません。

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