2024年9 月 / インサイト
AI、ヘルスケア、エネルギー転換:インパクト投資で注目が集まる3分野
サマリー
- 国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」で定められた目標の達成に人工知能(AI)が貢献する可能性がある。
- GLP‑1受容体作動薬は糖尿病及び肥満症治療での有効性からヘルスケア・セクターにとって重大な転換点となっている。
- エネルギー転換は再生可能エネルギー以外の分野にも及び、様々な種類の企業がネットゼロ社会の実現に貢献している。
AI、ヘルスケア、エネルギー転換の3つは金融市場とインパクト投資双方にとって注目されるテーマです。市場で話題を独占するAI関連は、株式市場で資金が集中していることから、投資家のリターンを大きく左右する相場材料です。ヘルスケアでは医療提供を塗り替えるポテンシャルがあるため、GLP-1受容体作動薬のイノベーションは一大ブームを巻き起こしています。一方、再生可能エネルギー業界は金利上昇に伴う資金調達への懸念から一段と厳しい目を向けられています。今回はこれらのテーマにおける注目ポイントを個々に検証します。
AIに関するポジティブな面と、 エネルギー需要と公平性の問題
AIはまだ普及・発展の初期段階ですが、PCやスマートフォンなどの従来のテクノロジー・ブームに比べ、そのスピードは桁外れです。AIは基本的に人間のような反応を模倣、生成するソフトです。それは集団認知能力を測定することができ、医療、運輸、教育、農業など顧客中心体験のような分野の進歩を推し進めるポテンシャルがあります。インパクト投資家にとって特に興味深いのは、社会的及び環境的な影響を探る可能性がある点です。
AIは正しく活用されることで、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」で定めた目標のより速いペースでの達成を後押しすることができます。AIの分析及び予測能力は送電網の最適化や信頼性などの分野で有効性を発揮すると同時に、ヘルスケア分野では既にその機械学習が創薬や疾病の早期発見につながる診断プロセスにおいて役立っています。
しかし、AIの活用に伴うリスクを監視、評価することが重要です。AIデータセンターを1日24時間運営するには膨大なエネルギーを要し、リソースに膨大な負荷がかかります。国際エネルギー機関(IEA)によると、データセンターによる世界の電力消費量は2026年までに1,000テラワット時 (TWh)を超え、2022年の460TWhから大幅に増える見通しです1。熱負荷の処理や電源管理システムを支援する冷却装置などデータセンター・インフラの管理を支援する企業は、データセンターのより効率的な運営に寄与し、より一層重要な役割を果たすでしょう。
一方、雇用、職務、キャリアに関する懸念があります。AIシステムに入力するこうした情報は、我々の現在の社会的イメージにおいて作られる点も懸念すべきです。AI開発者が男性である傾向は潜在的にAIアウトプットにおけるジェンダー・バイアスにつながる可能性があります。このため、AIの活用において責任と倫理が重要であり、企業がその情報をどのように開示するか理解することが大切です。
ヘルスケアのイノベーションが普及拡大や患者により良い結果につながっている
世界保健機関(WHO)によると、世界では4億2,200万人もの糖尿病患者がおり、関連死は年間150万人にも達します。肥満症や他の代謝性危険因子が世界的にこの疾病の主な要因であり、世界肥満連合(WOF)の試算では経済損失は世界のGDPの約2.5%に相当します。しかし、GLP-1受容体作動薬(抗肥満薬の一種)における最近の進歩は、糖尿病及び肥満症治療での有効性からヘルスケア・セクターにとって重大な転換点となっています。「作動薬」と呼ばれるこれらの薬は、人間の体内で自然発生するGLP‑1(消化や血糖値抑制に効き目のある腸内で作られるホルモンの1つ)と似た働きをします。
同時に、GLP‑1受容体作動薬の服用者は食生活がより健康的になる傾向があるため、その影響は食品飲料業界にも及びます。また、GLP‑1受容体は他の臓器でも検知されており、GLP‑1受容体作動薬は糖尿病や肥満症以外でもポジティブな効果がある可能性があります。
例えば、初期の研究はこれらの薬がアルコール欲求の減退や、睡眠時無呼吸症候群にも効果があることを示す初期症状もあります。
糖尿病は200以上の異なる病気の根源と特定されているため、GLP‑1受容体作動薬の潜在的な長期の医学的メリットは計り知れません。しかし、その流通について注意する必要もあります。保険適用範囲の差異から、健康格差が広がる可能性があるからです。GLP‑1受容体作動薬の普及によって、糖尿病患者数と健康的結果の格差が拡大するという複数のデータが観測されています。実際に米国では、低収入・低学歴・人種/民族的マイノリティに属する社会経済的に不利な地域の住民は、同薬の入手量が格段に低いことを示す研究結果があります2。理論的にはより広範な流通によってこうした格差は解消できるはずですが、これには雇用主、医療機関、製薬会社の積極的な関与が必要になるでしょう。ティー・ロウ・プライスではこうした問題をいかに改善できるかGLP‑1受容体作動薬メーカーと協議しています。
エネルギー転換への投資: 再生可能エネルギーを越えて
世界の平均気温の上昇を産業革命前の1.5℃以内に抑えることが喫緊の課題であり、エネルギー移行はかつてないほど重要になってきました。しかし、温室効果ガスは多くの異なる分野から排出されている(図表1参照)ため、ネットゼロへの道程は多次元的なものになるでしょう。脱炭素化は最も投資された持続可能性テーマの一つですが、再生可能エネルギー業界の一部企業は最近のマクロ経済的変化による試練に直面しています。中でもサプライチェーンの混乱、インフレ、金利上昇は同業界にとって逆風となります。
しかし、エネルギー移行は再生可能エネルギー以外の分野にも及びます。グリーン水素に投資する企業は重厚長大産業の脱炭素化を後押しすることができます。農作物の生産性改善を支援し、農薬の使用量を減らす精密農業テクノロジーや、製造業チェーンの廃棄物を制限できるテクノロジーはいずれもネットゼロ社会の実現を可能にするものです。
グローバル経済の脱炭素化が進む中、国際労働機関(ILO)が「公正な移行(Just Transition)」と呼ぶ動きが今後数年でより注目を集めるでしょう。これはすべての関係者にとって、できるだけ公平で包括的な形での経済のグリーン化や、適切な就労機会を提供することで、誰も取り残さないことを意味します。こうした動きは、移行に携わる新たなテクノロジーに関して従業員のリスキリング(技能再習得)や技能向上を図る必要がある教育及び社員研修企業などの分野で投資機会を創出するポテンシャルがあります。多くのリソースが必要な業界の職業安全衛生も公正な移行の中核で、このため労働者保護を提供する企業が脚光を浴びるでしょう。
米国のインフレ抑制法や欧州連合の公正な移行メカニズムのような社会政策からの取り組みがこの動きに弾みをつけるでしょう。公正な移行への動きはエネルギー転換でますます中心的な役割を果たしており、「Impact Beyond the Obvious(明白を越えたインパクト)」への取り組みの一部として注目が集まると考えられます。
ポジティブな環境的及び社会的 インパクトと投資リターンの 両方を目指す
「マグニフィセント・セブン」が市場を席巻し、欧州地域での戦争が化石燃料価格を押し上げる中、インパクト投資を取り巻く環境は厳しくなっています。同時に、環境的及び社会的に真に貢献できる企業は依然存在しています。
しかし、マクロ経済の要因による逆風も存在するため、価格決定力が強く、強固なビジネス障壁を維持することができ、資本配分の着実な実績を誇る優秀な経営陣を持つ企業の発掘を重視することが大切です。世界には、素晴らしいインパクトと投資パフォーマンスの両方を達成する企業への絶好の投資機会が存在し、アクティブ投資家はそうした機会を活用することが出来ます。電化、運輸、教育、農業などの分野の支援のためAIを活用する企業から、イノベーションを活用して治療を行う医療機関まで、上場企業への投資を通じて違いを生む可能性が継続的にあることを我々は引き続き評価しています。
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