2024年7 月 / インサイト
これから訪れる不確実性の高い市場に適応するために必要なアクティブ運用
サマリー
- パッシブ運用は数十年にわたりその規模を拡大してきたが、この勢いを支えてきた要因の一部が弱まっている兆候が見えてきた。
- アクティブ運用とパッシブ運用で報酬の差が縮まると同時に、アクティブETF(上場投資信託)として税効果のある投資手段の人気が急速に高まっている。
- 高金利環境で、リターンのバラつきが広がり、ボラティリティの高い新たな市場環境で、グローバルかつ充実したリサーチ体制を備えるアクティブ運用マネジャーは優位性を発揮する。
2023年末、数十年にわたる規模の増大により、米国の投資信託とETF市場において、初めてパッシブ運用ファンドがアクティブ運用ファンドの資産残高をわずかに上回りました。しかし、市場や業界の状況が変化し、この勢いを支えてきた要因の一部が弱まっている兆候があります。世界金融危機後の低金利および豊富な流動性の時代は終わりを迎え、高金利かつリターンのバラつきが広がり、ボラティリティの高い市場に置き換わりつつあります。そうした市場環境は、アクティブ運用がアウトパフォームする投資機会を提供します。
指数を上回るよりも模倣を目指すパッシブ運用ファンドの増大は、劇的なものでした。過去30年にわたり、米国の株式および債券のパッシブ運用ファンドの規模は、投資信託およびETF市場全体の5%未満から50%以上にまで拡大しました(図表1)。パッシブ運用ファンドの近年の堅調なパフォーマンスがこの動きを促進しました。アクティブ運用戦略とパッシブ運用戦略は、歴史的にアウトパフォームする局面が移り変わってきましたが、パッシブ運用戦略は、世界金融危機後の超低金利環境において特に堅調でした。
2008年の危機後、世界中の中央銀行は政策金利を引き下げました。0%にまで引き下げた国もあるなか、量的緩和によってさらに緩和政策が強化されました。中央銀行はオープン市場から証券を購入して流動性を高め、投資を促しました。超低金利と豊富な流動性の組み合わせは、株式市場が上昇する完璧な状況を生み出しました。S&P500指数は、2009年3月9日につけた世界金融危機後の底から2024年6月末までに累積で707.1%の価格リターン、987.4%のトータル・リターン(配当込み)を創出しました1。
金融緩和政策により生み出されたモメンタムがインデックスファンドの増大に寄与しました。インデックスファンドは、米国株式市場のボラティリティが低く、パフォーマンスが堅調で、株式の相関が高まる局面でアウトパフォームする傾向があります。コスト面の選好もパッシブ運用の増大を支えてきました。パッシブ株式ファンドの報酬は、歴史的にアクティブ株式ファンドの報酬より低く、ETFの税効果がパッシブETFの優位性をさらに高めてきました。しかし、報酬の差は近年縮まっており、認識されるトレードオフの関係を複雑にし、超過収益に対するハードルを下げ、報酬の差を相殺しています。
市場のインデックス化は債券市場においても顕著ですが、アクティブ運用のシェアは依然として高く、多くの分野でパッシブ運用を上回っています。この理由の一つは、多くの債券戦略において指数の模倣が難しく、ファンドと指数の間でパフォーマンス格差が生じるからです。別の理由としては、パッシブ債券ファンドとアクティブ債券ファンドの間で報酬の差が小さいことが挙げられます。
指数内での集中度がアクティブ運用者への課題となる
世界金融危機後の数年間で株価が上昇し、パッシブ運用が増大したことから、別の重要な動きが生じました。それは、指数内における特定銘柄への集中度が高まったことです。特に米国株式市場の大幅な上昇は、時価総額加重指数で圧倒的な割合を占める少数のテクノロジー銘柄によるものでした。これらの支配的な企業は、2010年代初頭にFANG(フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、ネットフリックス、グーグル)と総称され、2017年にアップルが加わってFAANGと呼ばれました。その後、マグニフィセント・セブン(アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン・ドット・コム、メタ・プラットフォームズ、エヌビディア、テスラ)と呼ばれる現在の支配的なグループに置き換わりました。マグニフィセント・セブンは、6月末時点でS&P500指数の32%超を占めていますが、10年前の同指数の上位7銘柄の比率は全体の14%に過ぎませんでした。
アクティブ運用マネジャーは、株式市場の集中度が高い局面で優れたパフォーマンスを上げる可能性がある一方、超巨大企業がパフォーマンスをけん引する局面では劣後する傾向があります。少数の大型企業が市場の上昇を主にけん引する環境下では、大型企業内で資本の取り合いがポートフォリオのパフォーマンスに大きな影響を与える可能性があります。分散および慎重なリスク管理に努める熟練されたアクティブ運用マネジャーは、これらの支配的な企業に多額の資本を配分する必要に迫られ、投資機会を狭めざるを得ません。現在の指数内における集中度は、アクティブ運用マネジャーに投資機会を提供するものの、投資機会を拡大することができた局面と比べると、大きな課題をもたらします。
マグニフィセント・セブンの異常な伸びが株式指数を押し上げてきた一方、それらが提供できる分散効果も削減してきました2。指数内の高い集中度は、支配的な企業のパフォーマンスが堅調な時にパッシブ運用者のリターンに寄与しますが、それらの企業のパフォーマンスが悪化する局面では大きな逆風となり得ます。
S&P500など時価総額加重のパフォーマンスの模倣を目指すインデックスファンド運用者にとって、マグニフィセント・セブンの支配的な立場は、それらの株式がアウトパフォームした2023年は問題にはなりませんでした。しかし、中小型企業が大型企業を上回る局面が訪れれば、より分散されたポートフォリオを有するアクティブ運用者は、大型株への配分が大きいインデックスファンドをアウトパフォームすると見込まれます。
市場の転換点
市場の集中度は過去10年間にわたり急上昇しており(図表2)、50年以上にわたり見られなかった程度まで集中しています。歴史的に見て、優れたアクティブ運用マネジャーは、通常市場の集中度が下がる局面で良好なパフォーマンスを上げる傾向にあります。例えば、1990年代後半のITバブル期において、S&P500指数の上位10銘柄の合計ウェイトは25%でピークをつけました。バブル後、テクノロジー企業の時価が暴落したことから、指数の集中度は急低下しました。アクティブ運用マネジャーは、2002年3月のバブルのピーク時に指数に劣後しましたが、バブル崩壊後には大きなアルファ(超過リターン)を創出しました(図表3)。
同じようなパターンは、1980年代の日本の資産価格バブルや2000年代のエマージング市場の上昇においても発生しました。いずれの場合も、資産価格の高騰が指数の集中度を高めた後にパフォーマンスが低下し、銘柄間のバラつきが戻りました。ともに、バブルが形成されるなかでパッシブ運用戦略への資金流入が急増しましたが、バブル崩壊後は熟練されたアクティブ運用マネジャーがアウトパフォームしました。
現在の指数内における高い集中度が著しく低下するタイミングを予測することは難しいものの、市場の転換点に差し掛かっていることは明白です。緩やかなディスインフレの世界から高インフレの世界に、超低金利環境から高金利の環境に(図表4)、長期の低ボラティリティ局面からボラティリティの上昇が見込まれる局面に、株式と債券のバリュエーションが高い時代から過去平均に近い時代に転換しています。
バラつきの拡大とボラティリティの上昇
これはパラダイム・シフトであり、長期的に影響を及ぼす可能性があります。市場の効率性が高まれば、投資家は銘柄間のバラつきが小さかった近時よりもバリュエーションに敏感になる必要があるでしょう。ファンダメンタル調査、そして株価上昇要因とリスクを特定する能力は引き続き不可欠と考えていますが、よりダイナミックなアプローチを採用しているアクティブ運用マネジャーは、企業のファンダメンタルズとともに、より幅広いマクロ経済・社会・地政学的要因を考慮できる優位な立場にあるでしょう。
アクティブ運用者は、定義上、ベンチマークにとらわれることなく、シクリカル要因に傾く傾向があります。例えば、米国のアクティブ運用マネジャーは、通常、小型株のリターンが大型株を上回る時や、米国外株式が米国株式を上回る局面でアウトパフォームしています。
大型株は過去10年間のほとんどで優勢でしたが、小型株のバリュエーションは妥当であり、今後数年にわたり高い利益成長が見込まれるというのが現在のコンセンサス予想です。ただし、米国の小型株は、欧州の小型株より高金利の長期化に対して脆弱です。米国外株式の現在のバリュエーションは妥当であり、高金利の環境下で堅調となる可能性があります。
超低金利環境の終了は、債券市場においてもリターンのバラつきの拡大とボラティリティの上昇につながると予想しています。アクティブ運用は、デュレーション3管理に加え、国の選別、イールドカーブのポジショニングおよび個別銘柄選択に寄与します。
新たな金利環境の影響に加えて、世界は統合人工知能(AI)に向けた革新的なテクノロジーの転換を迎えています。過去に同程度の進歩が見られた時のように、今回の変化は企業のファンダメンタルズの乖離を広げると見込まれます。綿密なリサーチを通じて、このプロセスから一次的および二次的な恩恵を受ける企業を見極めるアクティブ運用者には、優位性があるでしょう。
マグニフィセント・セブンは並外れた業績を上げてきました。それらの多くは、規模が大きく急成長している市場において圧倒的なリードを有します。しかし、歴史が示唆するように、最終的な競争、イノベーション、大数の法則、または政府の介入が、マグニフィセント・セブンに対してさえ重しとなる可能性があります。
アクティブ運用に有利な環境へと変化
その他、パフォーマンス関連以外でパッシブ運用の増大の背景にある要因も弱まり始めています。例えば、パッシブ運用ファンドだけでなく、アクティブ運用ファンドも、近年報酬に対する下方圧力を受けているため、両者の差は縮まってきました(図表5)。パッシブ運用は今や報酬の引き下げ余地がありません。
ETF4など税効果のある投資手段が人気を集めてきました。歴史的に見て、ETF市場のほとんどはパッシブ運用が占めてきましたが、近年投資家の選択肢が増えており、アクティブETFはパッシブETFを上回るペースで設定されています(図表6)。アクティブETFは絶対額では依然規模が小さいものの、その伸びはパッシブETFを上回っています。
前述したパフォーマンス関連で見込まれる変化と相まって、これらの動向による投資環境の根本的な変化は、アクティブ運用に有利に働くと考えています。特にグローバルな規模で、充実したリサーチ体制を擁し、顧客に最善の結果をもたらす機会を幅広く追求するアクティブ運用マネジャーに優位性があります。これは、パッシブ運用の後退を予想するものではありません。しかし、アクティブETFの形で税効果の高い選択肢があり、過去よりも報酬面の競争力が全体的に高く、ボラティリティが上昇し、リターンのバラつきが拡大する局面でより良い結果をもたらす可能性がある市場に転換する中で、アクティブ運用は投資家にとって望ましい選択肢になり得ると考えています。
資料内に記載されている個別銘柄につき、説明のみを目的に言及したものであり、売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。
アクティブ運用はパッシブ運用よりもコストが高くなることがあります。また、市場全体や同様の運用目的をもつパッシブ運用ファンドのパフォーマンスを下回る可能性があります。インデックス、モーニングスター・カテゴリーのパフォーマンスは説明のみを目的にしたものであり、特定の投資商品を指すものではありません。インデックスやカテゴリーに直接投資することは出来ません。
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