2025年4 月 / インサイト

ドイツの積極財政出動で逆張りシナリオが実現

サマリー

  • ドイツの財政拡張は世界的な利回り上昇をもたらし、市場ダイナミクスを一変させる。
  • 短期的には、ドイツが防衛およびインフラの支出を実施するにつれ、ボラティリティの高まりが予想される。
  • 長期的には、利回り上昇とイールドカーブのスティープ化によりインフレ連動債と社債に恩恵をもたらす可能性がある。

ドイツが防衛およびインフラの支出拡大へ急転換したことは、グローバルな高格付けソブリン債市場や金融市場にとって非常に大きな意味のある動きです。私は今回の件について、2012年のドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁の発言に匹敵するものと捉えています。当時、欧州債務危機の渦中にあったユーロを守るため同氏は金融政策面で「(必要なことは)何でもする」と断言しました。当社の欧州担当エコノミストであるTomasz Wieladekは、財政拡大は金融政策よりも長期的な効果があるため、ドイツの支出拡大はより一層大きな意味を持つ可能性があると主張しています。

体制転換により逆張りシナリオが早くも実現

はっきり言うと、ドイツの財政計画は金融市場における重大なレジームチェンジ(体制転換)を意味すると考えています。これは私が1月に「先手を打つ コンセンサスはひとえにコンセンサス-逆張り派の戦略的シナリオ」と題したレポートで指摘した逆張りシナリオの一つを裏付けるものです。年初、市場では欧州経済が低迷する一方、「米国の一人勝ちが続く」との意見が支配的でした。ところが、実際にはトランプ政権の関税政策への懸念から米景気の先行きが不安視される一方、ユーロ圏経済は予想以上に好調です。ドイツの財政拡大計画はこうした欧州優位の状況をさらに強めるでしょう。

ドイツは財政拡張のためにより多くの国債を発行する必要があるでしょう。ただし、対国内総生産(GDP)比の政府債務は他のユーロ圏諸国よりはるかに低い水準にとどまりそうです。3月初旬のドイツからの報道を受け、独国債利回りは早速大きく上昇しました。

各国の国債から得られる利回りに対する需給予想を投資家が見直すにつれ、こうした動きはグローバル高格付けソブリン債市場全般に波及し、利回りが上昇しました。財政拡張を背景とする利回り上昇の流れが続くと予想しています。

利回りは上昇、イールドカーブはスティープ化の見通し

私は依然として先進国の長期国債利回りが大きく上昇する方向にあると確信しており、米10年国債の場合は今後12‐18カ月で6%に達する可能性もあると考えています。拡大する財政赤字を穴埋めするため国債増発に迫られる国が世界的に増えており、ドイツもその仲間入りすることになります。これは資金を求める競争がより激化することを意味します。また、日本を除く先進国の中央銀行は政策金利を現在の水準に据え置くか引き下げると予想されるため、短期債利回りが低位にとどまる一方、中長期債利回りは財政拡張による景気拡大に伴って上昇する見込みで、イールドカーブはスティープ化する余地が十分にあります。

しかし、当面はボラティリティが高まる公算

しかし、短期的には利回り上昇とイールドカーブ・スティープ化への道程は間違いなく紆余曲折があるでしょう。 私はドイツの防衛・インフラ支出拡大も実施の段階では多少つまずくと予想しています。たとえすべてが比較的順調に進んだとしても、財政拡張の影響がユーロ圏経済に表れるのは2025年後半からでしょう。また、トランプ政権との貿易戦争により、ユーロ圏の短期的な景況感は非常にネガティブです。

同じく、関税に起因する不確実性や世界貿易への悪影響により、目先の米国の成長は抑制されるでしょう。新設の米政府効率化省(DOGE)による政府職員の解雇も米景気の足を引っ張る大きな要因であり、おそらく少なくとも数カ月は米国債のイールドカーブにおける長期部分の利回り上昇を抑えることになるでしょう。

長期的には、米国、ドイツ、中国という世界経済における主要3カ国が景気下支えのため刺激策を打ち出す公算が大きく、債券利回り上昇とイールドカーブのスティープ化につながる明確な道筋があると考えています。これは世界経済にとってポジティブであり、リスク資産の押し上げ要因となり得ます。こうした環境下、債券ではインフレ連動債と社債がアウトパフォームする可能性があります。

リスクは需要と供給に関する要因に

この見通しが狂うとしたら、米国債の需給関係に関する読みが外れる場合でしょう。例えば、米連邦準備制度理事会(FRB)が量的引き締めを停止する場合、需要の主な要因の一つが復活し、利回りに低下圧力がかかるでしょう。銀行規制の変更に伴い銀行がより多くの米国債を保有するよう奨励される場合も需要の増加要因となります。供給面では、米議会が減税延長法案の可決に失敗すれば、米財務省は債務発行額を減らす必要があります。

しかし、私は総じてドイツの大幅な財政支出計画が債券を取り巻く環境を大きく変えるゲーム・チェンジャーだと捉えています。投資家は利回り上昇とイールドカーブのスティープ化に備えたポートフォリオのポジションを検討すべきと考えられます。

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