2025年2 月 / インサイト

ティー・ロウ・プライス 年次テクノロジー企業調査ツアーのハイライト

サマリー

  • 人工知能(AI)コンピューティングやハードウエアに対する需要は依然として旺盛だが、ユーザー企業のチーフ・インフォメーション・オフィサーは多くの実装上の課題に直面している。
  • 2025年は、新しいアプリケーションが自律的な動作を可能にするAI機能を実装するにつれ、AIのビジネスとしての収益化がより有意に現実化し始める年になると見る。
  • 金利低下環境やトランプ政権の発足は、ソフトウエア業界においてM&Aに良好な環境を生み出すと考える。

ここ約20年間にわたり、ティー・ロウ・プライスのポートフォリオ・マネジャーとアナリストは調査ツアーを組み、毎年シリコン・バレーを訪れ、米国のテクノロジー企業への調査訪問を実施しています。この年次ツアーは当社で最も活動的かつ協働的な実地調査の一つであり、最先端のテクノロジーや技術革新をリードする世界の中心地で、最新のテクノロジートレンドやイノベーションを見極めることに役立っています。

本レポートでは、ティー・ロウ・プライス・インベストメント・マネジメント・インクの株式アナリストと債券アナリストがともに参加した直近2024年12月のテクノロジー・調査ツアーを終えて得た知見を紹介します。

株式リサーチの視点

過去18ヵ月近くにわたって実施されてきたAIインフラへの多額の投資を経て、いま市場ではAIを活用した成功事例を待望しています。今回の調査ツアーで幾度か話題に上ったそうした事例は「自動運転」分野です。

AIコンピューティングやハードウエア・システムの性能向上により、自動運転技術は商業的に規模の経済が見通せるかの節目にあります。自動運転は2025年に大きな進展がみられると私たちは予想しています。このテクノロジー分野では、特定の電気自動車メーカーが強力な活用モデルの提供において優位な立場にあり、既に商業的な規模の拡大を進めていると見ています。

米国の関連業界を巡る規制環境は良好とみており、またテクノロジー企業との対話から判断して、単位あたりの経済採算性は上向きで持続的と思われ、投資家として、ここには長期的な投資機会があると見ています。

AIコンピューティングとハードウエアに対する需要は依然として旺盛です。調査ツアーでの面談から得た感触では、AIインフラ投資の熱狂的なペースは足元でも減速しておらず、市場全体の規模も十分に大きいと推測されます。大手ハイパースケーラー(大規模なクラウドベースのデータセンター企業)がネットワークの拡充や独自のカスタム・シリコン・ハードウエア・プログラムに重点を置いていることから、良好な投資機会が続くと予想されます。

AIは初期段階でハードウエア分野に想像を超える需要を創出してきましたが、企業向けソフトウエアやアプリケーション分野が収益化に至るまでは、投資家にある程度の忍耐が求められるでしょう。とはいえ、企業との対話を通じて得た知見から見通すと、2025年は有意な形で収益化が業績に反映され始める最初の年となり、2026年以降はそのトレンドの勢いが増すと私たちは予想しています。

ここで重要なポイントは、AIが「副操縦士」の役割だったものが「(当事者を代理する)エージェント」へと飛躍することであり、AIがより自律的に動作し、エンドユーザーの生産性を向上させることです。顧客定着率が高く不可欠なサービスを提供するソフトウエア会社は、このAIの好機を捉える有利な位置にあると見ています。

クレジット・リサーチの視点

ソフトウエア

全般的な環境:ソフトウエア企業との面談では、全体的な基調は総じてポジティブで、需要に対する見通しも前向きな意見が聞かれました。

低金利環境とトランプ政権の発足は、ともにソフトウエア業界における合併・買収(M&A)を促進すると見込まれます。数週間にわたり対話してきた複数の企業は、バリュエーションは割安とは言えないものの、M&Aの可能性を積極的に検討していると述べています。

こうした状況から、2025年には戦略的投資家やプライベート・エクイティの双方から買収機会が増えると予想されます。

ハイイールド債市場では、金利が低下すれば、財務レバレッジの高いソフトウエア企業などに相当規模のフリー・キャッシュフロー(FCF)をもたらします。

しかしながら、足元では金利が上昇基調で、その結果としてフリー・キャッシュフローが減少すると見込まれ、2025年には、プライベート・エクイティが投資資産を売却する動きが強まり、それを好機と見る投資マネーが増えると見ています。

AI:現時点で、生成AIに関して明確に定義されかつ事業化されている分野はまだ限定的です。初期のAI採用分野としては、ソフトウエア企業が開発したコールセンター/カスタマー・センター向けの自動化ツールと効率化ツールが挙げられます。

これら2つの事例のうち、後者について、AI活用において興味深い事例が複数の訪問先企業との面談で話題に上りました。一部のツールは、ワークフローを補完し、従業員の効率性を高めるといったベーシックな活用(例えば、コールセンターにおける通話の要約)の一方で、高度な活用例では、AIが従業員の業務を丸ごと代替する(例えば、コールセンターの応対業務)といった例もあります。

ソフトウエア企業との対話では、生成AIの契約にあたって、システム購入側のチーフ・インフォメーション・オフィサー(CIO)は次のような課題に直面しているとの事実が明らかになりました。

  • 提案されたAIツールの導入を正当 –化するために、その投資収益率をどのように計測すればよいか?人員の削減効果、1人当たり効率性の向上、その他の基準で効果を測るべきか?従業員が新しいコールセンターの通話要約機能を使うことで1日2時間節約できた場合、その時間を使って追加の電話を受けるのか、長めのランチタイムに回すのか?

  • 生成AIの機能を使って「最低限必要なもの」に留めるのか?(例えば、コールセンターにおける通話の要約)、さらに追加投資してより付加価値の高い成果を追求するのか?(例えば、コールセンターの応対業務)

幾つかのAI企業では、クライアント企業に生成AIモデルを試用期間中に無料または大幅な割引価格で提供し、課題に悩むCIOに解決策を提供しています。これはクライアント企業にとって、導入時にリスクを抑えながら少額から導入でき、ツール導入を正当化するに足る十分な付加価値が得られるか否かを時間をかけて評価できるメリットがあります。

一方、ソフトウエア企業の観点からすれば、このアプローチは、AI利用を促進し、技術から得られる潜在的な有効性や従業員の体験の向上を試す機会を提供します。これによって、ソフトウエア企業は導入事例を蓄積でき、収益化が見通せるようになります。

前述では生成AI技術の導入時の戦略上の障壁の一つを説明しましたが、他にも乗り越えるべき機能上の障壁があります。最も顕著な障壁は、データ利用環境です。今日、企業はデータを自社サーバーやクラウド環境などに分散して使用している点が挙げられます。今後企業が進歩したAIを最大限に活用するためには、こうしたデータ利用環境の近代化が欠かせません。

最後に、大規模言語モデルと連携する生成AIアプリケーションの有効性は、それらが動作するデータセットの良し悪しに依存します。何社かの垂直統合型ソフトウエア企業の経営者は、自社が所有する豊富な業界固有データの優位性を強調し、それが差別化された推論結果を導くと自信を語っていました。

ハードウエア/エレクトロニクス/ネットワーク

ハイパースケーラーは現在、次世代型データセンターのアーキテクチャーを設計しており、それは拡大するAIの作業負荷に対応しつつ、従来の活用事例にも対応できます。今後数年間でこれらの次世代型データセンターで予想される設計サイクルを見通すと、高度なネットワーク、ストレージ、冷却、およびロジック/メモリ半導体ソリューションを提供する企業にとって、コンテンツ獲得の大きなチャンスがあると見込まれます。

ハイパースケーラーは通常、更新にあたって、旧型の一部分を置き換えるのではなく、データセンター全体を置き換えます。すなわち、耐用年数を満了して改修されるデータセンターは、古い技術が一掃されます。

次世代型データセンターでGPUの利用が爆発的に拡大しているため、エネルギー消費が大きな制約となります。エネルギー消費削減に有効な部品は、データセンター設計で優位性を発揮するでしょう。

当社が面談した複数の企業とは、ハイパースケーラー、企業、政府機関が現在の激しい競争のなかで取り残されるのではないかと懸念があり、AI関連部品に対する需要が前倒しで発生しているとの見方で意見が一致しました。こうした心理のため、調達したAI関連部品の消化が進むとAI関連のハードウエア/半導体/ネットワークコンポーネントを、再度発注する可能性が高いことを示唆しています。しかし、そのタイミングは不透明です。

また、前述したソフトウエア企業と同様に、面談した一部のハードウエア/エレクトロニクス/ネットワーク分野の企業も、M&Aの候補企業リストを常に更新し、常時検討できる状態にしているようです。

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「T. ROWE PRICE, INVEST WITH CONFIDENCE」および大角羊のデザインは、ティー・ロウ・プライス・グループ、インクの商標または登録商標です。

 

ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社

金融商品取引業者関東財務局長(金商)第3043号

加入協会:一般社団法人 日本投資顧問業協会/一般社団法人 投資信託協会/一般社団法人 第二種金融商品取引業協会

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202502-4225895

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