2025年3月 / インサイト

債券投資家のエンゲージメント-有効なスチュワードシップのための重要なツール

サマリー

  • エンゲージメントは、投資家にとって重要なツールであり、有効なスチュワードシップのための重要な行動となり得る。
  • ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ・インク(TRPA)では、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関するエンゲージメントに対して、株式投資家のためか債券投資家のためかを問わず同じアプローチを採用している。
  • 債券投資家のエンゲージメントは、適切な場合、債券の発行体が企業か政府関連機関等かを問わず、有益な洞察をもたらし、見解を共有する機会を提供できるとみている。

エンゲージメントは、株式投資において、投資家が環境・社会・ガバナンス(ESG)を考慮するための重要なツールとして広く認識されていますが、債券投資では、最近まであまり一般的ではなかったと言えます。資本構成全体にわたるエンゲージメントへの関心の高まりは、投資家の受託者責任に対する認識や、財務上の重要性の観点からESGファクターが債券と株式の双方の価値に短期・中期・長期的に影響を与える可能性があるという理解が深まったことを反映しているとみています。

債券投資家のエンゲージメントは、適切な場合、債券の発行体が企業か政府関連機関等かを問わず、有益な洞察をもたらし、見解を共有する機会を提供できると見ています。ESGの問題がますます注目を集めるにつれて、それらが信用力に与える潜在的な影響についての認識も高まっています。

加えて、債券市場は、温室効果ガス排出量の削減やグリーン/ソーシャル・プロジェクトへの資金提供など、環境面や社会面の具体的な成果を目標として、革新的な資金調達ソリューションを提供することができます。これは最終的に、公正・公平な移行の促進および資金提供に寄与するなど、実世界にインパクトをもたらすことに役立つ可能性があります。

債券投資においてエンゲージメントが強力なツールとなり得る理由

ESGエンゲージメントでは通常、対象となる企業や証券にとって重要な環境対策、社会的問題、ガバナンスの問題について知ることや、見解を交換することを目的として、投資家と証券の発行体との間で対話を行います。

債券発行体(企業または政府関連機関等)へのエンゲージメントの利点の一つは、新規債券発行に先立って対話することができる点です。これにより、債務構成案や発行に伴うディスクロージャーに関するベストプラクティスに対してフィードバックを提供するなど、当社の見解を示す潜在的な機会が得られます。また、投資家にとって最も有用と思われる重要評価指標に関して意見交換することや、将来のクレジットリスクに影響を及ぼす可能性があると考えられるESG関連の懸念事項について協議することもできます。この結果として実世界が変化する場合、とりわけ債券保有者のエンゲージメントがポジティブな結果に寄与している場合、投資家に「アディショナリティ(追加性)」をもたらす有効なメカニズムであると実証されるでしょう。

新規債券発行に先立つエンゲージメントは重要な役割を担う

ティー・ロウ・プライスでは、ESGに関するエンゲージメントに対して、株主のためか債券保有者のためかを問わず、同じアプローチを採用しています。当社は、発行体とのエンゲージメントにおいて参加者を限定することはなく、面談には株式と債券の運用プロフェッショナルがともに参加することができます。

これらのエンゲージメントの目的は、多くの場合、株式投資家と債券投資家の双方にとって同じように妥当です。例えば、ディスクロージャーの改善や目標設定の推奨、企業のESG評価に役立つ追加情報の請求などがあげられます。

上場企業に関して言えば、株主には有効なスチュワードシップを確保する追加手段として、議決権があります。債券投資家には議決権がないものの、当社は株式投資家、債券投資家といった立場に関わらず一貫したメッセージを伝えるように努めています。ケースによっては、債券運用チームの発行体へのエンゲージメントにより、株式運用チームによる議決権行使で伝えた見解が補強される場合もあります。

債券投資家に関して重要なもう一つの要素は、多くの場合、新規発行による資金提供やリファイナンスを提供していることです。発行体が新規債券の募集により資金ニーズを満たそうとしており、それに伴うロードショーを行う場合、特に債券発行が債券市場で十分に受け入れられるように、潜在的な投資家へのエンゲージメントを行う動機が高まると言えます。多くの場合、新規債券発行に先立つ発行体へのエンゲージメントは、当社の投資意思決定プロセスにおいて重要な要素です。

ソブリン債発行体へのエンゲージメントの増加

債券投資において、当社は企業や政府関連機関等の発行体へのエンゲージメントを行います。後者は、当社のリサーチ能力の向上やESGラベル付き債券の発行増加を背景に、近年、当社の活動が活発化している分野です。

政府や政府関係機関など他のタイプの発行体に加え、金融機関に対して行うエンゲージメントも増えています。2023年には政府関連機関等の発行体へのエンゲージメントを86件行い、それ以前の年より大幅に増加しました。2024年にはそうしたエンゲージメントを88件行いました。

政府関連機関等の発行体へのエンゲージメント(2023年)
ソブリン債発行体へのエンゲージメントの増加

 

ソブリン債発行体へのエンゲージメントにおいては積極的な対話が重要

ソブリン債発行体へのエンゲージメントは、中央銀行の担当者、債務管理局、主要省庁(財務省や環境省など)の代表者、その他の主権国家の代表者との間で行われる場合があります。

ただし、ソブリン債発行体へのエンゲージメントの現実の一つは、投資家が及ぼすことができる(または及ぼすべきと考えられる)影響力が限定的と見込まれることです。政府にとっては、主要なステークホルダーは自国の国民であると正当に主張できます。ESG問題の管理は様々な機関に分散されがちであり、場合によっては政権交代による影響を受けるなどの現実によってさらに複雑さが増す可能性もあります。とはいえ、積極的な対話によって、投資家は、知見を獲得し、ディスクロージャーや目標設定に関する見解を共有し、重大なクレジットリスクに発展する可能性があると考えるESG問題に対するフィードバックを提供することができます。これは、最終的にソブリン債発行体の資本コストや、極端なケースでは、資本市場へのアクセスに影響を与える可能性があります。

ラベル付き債券の発行を検討している政府は、それが新たな試みであるため、その分野に知見のある投資家からのフィードバックを受け入れたいと考えている可能性があります。ESGラベル付き債券に関連するエンゲージメントは、投資家にとってより的確なガイダンスを得られる機会にもなり得ます。例えば、債券により資金調達される可能性のある特定のプロジェクトや、開示情報や債券発行後のレポートに含めることが有益と判断される重要評価指標などです。

ブラジルの事例(以下を参照)において、同国はESGラベル付きソブリン債市場への参入が他の中南米諸国より幾分か遅かったと言えます。この分野で地域のリーダーとみなされることが多いブラジル企業によるラベル付き債券の発行に強い勢いがあったにもかかわらず、ラベル付きソブリン債の発行は遅れました。当社は、政府にラベル付き債券を発行するよう奨励するとともに、経済および国の将来の債務返済能力にとって最も重要と考える環境問題の一部を強調するため、一連のエンゲージメントを実施しました。

まとめ:債券投資家のエンゲージメントが注目を集める

当社は、債券投資家のエンゲージメントは市場参加者にとって重要な役割を果たすものと考えています。投資顧問としての受託者責任を果たすことに加えて、投資家全体の有効なスチュワードシップの中核を担い、投資家のアディショナリティ(追加性)を生み出す可能性をもたらすことに寄与すると考えています。

追加ディスクロージャー

提示されたケーススタディで特定および説明されている証券は推奨を示すものではなく、また、顧問顧客に対する購入、売却、または推奨の全てを示すものでもありません。特定および説明されている証券への投資が、過去に利益をもたらした、または将来利益をもたらすであろうと想定しないようご留意ください。本資料は、いかなる証券の売買を推奨するものではなく、また、企業の潜在的な収益性を示すものでもありません。情報は変更される可能性があります。現金、通貨ポジション、特定の種類のデリバティブなど、一部の投資対象については、データの不足により、ESG分析が適切でない場合や不可能な場合があります。ESGの考慮事項が投資調査プロセスに組み込まれている場合、投資判断を行う際に、投資の他の属性がESGの考慮事項よりも重要であると結論づける場合があります。

重要情報

当資料は、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ・インクおよびその関係会社が情報提供等の目的で作成したものを、ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社が翻訳したものであり、特定の運用商品を勧誘するものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。当資料はティー・ロウ・プライスの書面による同意のない限り他に転載することはできません。

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ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社

金融商品取引業者関東財務局長(金商)第3043号

加入協会:一般社団法人 日本投資顧問業協会/一般社団法人 投資信託協会/一般社団法人 第二種金融商品取引業協会

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