2024年5 月 / グローバル・アセット・アロケーションの視点と投資環境
グローバル・アセット・アロケーションの視点と投資環境 2024年5月号
作成基準日:2024年5月10日
1. 市場見通し
- 多くの国でインフレ圧力が緩和しつつあることを背景に、世界経済成長は依然前向きな見通し。
- 米国景気が好調な消費に支えられて依然底堅い一方、欧州景気は楽観的な見方が台頭。日本景気は引き続き力強さに欠け、中国はまだリスクがあるものの政策支援が景気を安定させている兆しが見られる。
- 米連邦準備制度理事会(FRB)は今のところ年内の利下げを視野に入れているが、インフレが下げ渋り、景気が底堅いため、利下げ期待は後退。一方、欧州中央銀行(ECB)はインフレ低下を受けて利下げに近づきつつある様子。
日本銀行は3月の利上げ後、追加利上げのタイミングを見極めている。 - グローバル市場の主なリスクは、成長率の鈍化、インフレ長期化、中央銀行の政策乖離をめぐるボラティリティ、地政学的緊張、中国の成長軌道など。
2. 市場テーマ
欧州経済に復活の兆し
欧州経済は景気後退間際の水準が数年続いていましたが、2024年1-3月期のGDP成長率はサービス部門に牽引されて、復活の兆しが見られます(図表1)。ここ数年は中国などからの外需低迷、天然ガス不足への懸念、数十年ぶりの高インフレがいずれも欧州の景況感を圧迫してきました。しかし、予想以上の暖冬、インフレ率の低下、ECBによる6月の利下げが濃厚になってきたことなどを背景に、潮目が変わりつつあるようです。その結果、個人消費が上向き、スペイン、ポルトガル、ギリシャなど南欧諸国を中心に旅行・観光セクターが賑わっています。一方、欧州製造業の中心であるドイツは、中国向け輸出やロシア産エネルギー輸入への依存度の高さから苦戦が続いてます。欧州全域については当面、予想以上の経済成長やインフレ低下、目先の利下げ期待を受けたポジティブなセンチメントが投資家から注目される可能性もありますが、こうした明るい兆しがより広範かつ持続可能な回復につながるかどうかは注視が必要です。
米ドル独歩高
ここ数年、米ドルの圧倒的強さの終焉が何度も叫ばれていますが、引き続き高値圏で推移しており、今年は世界の主要通貨に対して上昇しています(図表2)。足元の米ドル高は景気がなお底堅く、財政支出の高止まりや粘着質のインフレもあってFRBの積極利下げ観測が後退したことに起因しています。一方で、他の多くの国ではインフレ低下が加速しており、各国中央銀行が利下げに動くとの観測から対米ドルへの下落圧力を受けています。こうした背景から多くの通貨が対米ドルで数十年ぶりの安値に沈んでおり、日本のように為替介入も検討されています。通貨安は輸出企業に恩恵をもたらす半面、米国など高金利国との資本獲得競争、輸入インフレ、米ドルで資金調達する国にとっては米ドル建ての借り入れコストの上昇などの弊害も伴います。FRBによる利下げ観測が後退し、依然底堅い米景気、世界的に相次ぐ選挙、なお不安定な地政学的環境を考えると、米ドル高に歯止めをかける材料は当面見つけづらい状況です。
バリュー株の復権が期待されるも、大型グロース株の長期的な優位性も残存
一握りの大型グロース株(マグニフィセント7)が市場をけん引する状況は大きく変わっていませんが、マクロ経済環境や個別企業のファンダメンタルズ、市場のセンチメントからは、出遅れたバリュー株の投資機会が拡大しつつあると考えています。資源価格の上昇や米国の底堅い経済成長を背景に、景気循環的であるバリュー株の増益率がグロース株を上回るシナリオも想定されています。予想利益に基づく益利回り(=一株当たり予想利益/株価)を比較すると、2000年のITバブル崩壊後ほどではないにせよ、バリュー株には利回りの優位性が表れつつあります(図表3)。ただし、大型グロース株は依然として強力なキャッシュフローを生み出しており、人工知能(AI)という長期的なカタリストも存在するうえ、リスクオフ局面では景気感応度の低さが優位に働く可能性もあります。バリュー株のはっきりとした復権には、バリュエーション格差に加えて市場のセンチメントにおいてもバリュー株選好のモメンタムの必要があると考えています。
3. 各国・地域の経済環境
4. ポートフォリオ・ポジショニング
- 底堅い景気、良好な業績動向、バリュエーション面でより魅力的な分野があることから、株式はオーバーウェイトとする一方で、債券はアンダーウェイトを継続。
- 特に株式では世界的な成長回復、長期金利上昇の環境下で恩恵が見込まれるバリュー株や、インフレが景気の追い風となる日本株、インフレ高止まりシナリオでヘッジの役割を果たす実物資産株式をオーバーウェイト。
- 債券では日銀の利上げ観測から影響を受けやすい国内債券を引き続きアンダーウェイトとする一方、インフレヘッジとしてのインフレ連動債や魅力的な利回りを有するハイイールド社債をオーバーウェイト。
- 通貨では米国の短期的な利下げ観測の後退、中長期的な実質金利上昇見通しによる米ドル高圧力の残存、ユーロなど他通貨が米国よりも早期の利下げで弱含む可能性に鑑み、米ドルのオーバーウェイト幅を拡大。
5. アセット・アロケーション・コミッティのポジショニング
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