2024年6 月 / インサイト

イールドカーブ先読み:米FRBの3つの想定シナリオはいずれも利回り上昇とスティープ化を示唆

当社債券ポートフォリオ・マネジャーが一堂に会して市場見通しやポジショニングについて議論する直近の月次の債券戦略ミーティングで、ある参加者が「米10年国債利回りは4%と5%のどちらに到達すると思うか」と問いかけました。驚いたことにその答えは「どちらも起こり得る」というものでした。

過去数ヶ月、市場のコンセンサスは一方からもう一方へと大きく振れ、そしてまた戻って来たようです。それを反映して、米10年国債利回りは低下した後、一旦は上昇に転じましたが、最近は再び低下傾向となり、振り子が決して真ん中では止まらない様相となっています。

雑音は多いが、大勢は変わらず

では、基本的な部分で実際に何が変わったのでしょうか。米コアCPI (消費者物価指数) は、2024年4月まで前月比で0.3%か0.4%程度の上昇と極端な変化ではありません。ここで私が言いたいのは、当面は、足元のような一定程度のボラティリティが続き、コンセンサスが定期的に振れる状況が続くかもしれませんが、大事なことは、中長期目線で何が起きるかを考え、それに対処するためのプランを準備することだと思います。過去数ヶ月でお伝えしてきた私の見解を振り返ると、その多くがコンセンサスまたは現実となりました。2024年2月に発行したレポート「中央銀行の利下げは既定路線ではない(Central bank rate-cut pricing is eye-catching but deceiving)」で予想した通り、年初から織り込まれていた先進国中銀による利下げ期待は大きく後退しました。それは、市場の見通しがインフレ再燃の懸念へとシフトしたためです。また、2024年4月発行のレポート「足もとにおける市場のインフレ期待は合理的でない(Current market inflation expectations are ridiculous)」で予測したように、1-3月期の米インフレ率は粘着性を示し、その水準が予想を上回りました。 

しかし、私の予想したようにならなかったこともあります。昨夏に発行したレポート「投資家が夢見るソフトランディング(The fairy tale of a soft landing)」での私の当時の見解は、経済成長は途切れず「ノーランディング (無着陸)」が続き、その後に景気後退が訪れる、というものでした。当時の市場のコンセンサスは、短期的な景気減速はあるものの、景気後退には陥らない、すなわち、「ソフトランディング」でした。現在、ノーランディング・シナリオが進行しているように見えますが、景気後退の兆しは見られません。

利回り上昇とイールドカーブのスティープ化

金利は今後どう動くのでしょうか。米10年国債利回りは低下傾向をたどり、5月半ばには4.35%1まで低下しました。一方、私の見通しでは、今後利回りが上昇し、長期金利の上昇に伴いイールドカーブはスティープ化すると予想しています。従って、足もとはデュレーションを短期化するタイミングを見据える時と考えています。前述のように、利回りはまだピークをつけていないかもしれません。

米連邦準備制度理事会 (FRB)の金融政策については3つのシナリオが想定され、いずれの場合でも利回りの上昇とイールドカーブのスティープ化が予想されます。

  1. FRBが利下げをしないと認める。
  2. 労働市場の変調や経済指標の悪化への対応策としてではなく、FRB自らが主導的に利下げする(おそらく予防的もしくは保険的利下げとして) 。期待インフレ率が上昇する。
  3. 2023年終盤から2024年序盤にかけて起きた利下げ期待が剥落し、インフレ期待が上昇する。足もとで株式や社債市場は比較的底堅く推移しているが、ここ数ヶ月の利回り上昇はこうした金融緊縮過程の一部の可能性がある。

短期国債の利回りは魅力的な水準に近い

恐らく投資家はポートフォリオのデュレーションをいつ長期化すべきかを考えていることでしょう。私は短期ゾーンについてはその水準に近づいていると考えています。米2年国債利回りは4%台後半の高水準にあります。2年国債利回りは1月半ばの4.15%から上昇し、4月末には一時5%を突破した後に足元では上昇が一服しています。

あなたのヘッジ手段は何ですか?

私は利回りがピークアウトしたとは考えていませんが、足もとの水準ではデュレーション・エクスポージャーをある程度保持するのは良いとの考えです。

新型コロナウイルスが発生した2020年前半のように、株式や社債などリスク資産が総崩れになるケースでは、デュレーション・リスクを取ることは、最も効果的なヘッジ手段であると考えています。とはいえ、デュレーションとリスク資産のリターンの逆相関特性が近い将来に信頼できる水準に戻る根拠は見当たりません。

米ドルのエクスポージャーを取るヘッジは、中東や多くの地政学リスクの不安の高まりによって引き起こされるリスク資産の下落に対するヘッジ手段として有効だと考えています。米ドルは安全資産として機能する傾向があり、こうしたリスクオフ環境の恩恵を受けることができます。FRBの利下げ観測が後退し、米国では魅力的な金利水準が維持されているため、米ドルが驚異的な強さを示した後であってもこの機能はまだ健在だとみています。

デュレーション・エクスポージャーと米ドルのロング・ポジションという2つのヘッジを組み合わせることは、米国外資産を含むグローバルなポートフォリオの構築に役立つ可能性があります。市場の見方が追加利下げにつながるハト派的なFRBの政策見通しにシフトする場合、米ドル・ポジションはマイナスとなりそうですが、デュレーション・エクスポージャーがプラスに作用するでしょう。もしコンセンサスがよりタカ派的なFRBの政策見通しにシフトする場合、デュレーションがマイナスに寄与する半面、米ドル・ポジションはおそらくプラス寄与となるでしょう。

私が意識して注視していることの一つは、米国の財政及び政治状況です。現在米国債と米ドルは強さを保っていますが、今後数ヶ月で米財政支出が制御不能に陥りそうになれば、こうした状況が崩れるきっかけとなるかもしれません。

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