2021年2 月 / ポリシー・インサイト
新興国のインフレ圧力への対応に焦点
原油高がインフレと新興国債券に及ぼす影響
サマリー
- 新興諸国の原油輸出国は原油高により資金調達ニーズの低下と経常収支改善という恩恵を享受する見込みである。
- インフレ率上昇の可能性はあるものの、殆どの中央銀行は政策金利を据え置くと見ている。
- 魅力的なバリュエーションと利回り較差が引き続き新興国通貨の下支え要因となる。
現在、原油高が市場の最大の関心事となっています。グローバル債券運用チームは直近の会合において、原油価格上昇が新興国、とりわけインフレや通貨に及ぼす影響について議論しました。
原油高の恩恵を享受する可能性のある国・地域
世界的な景気回復への期待と生産量低下により原油価格は1年以上ぶりに高値を更新しました。原油高は、新興諸国の原油輸出国にとっては資金調達ニーズの低下と経常収支改善という2つの面で明らかにプラスに働きます。
「原油価格が高止まりするようであれば新興諸国の主要な原油輸出国の財政・輸出収入は改善すると見込まれる」とポートフォリオ・マネジャー兼グローバル債券運用チーム・メンバーのAndrew Keirleは語ります。
資金調達ニーズの面では、投資適格級の格付けを得ている国としてはサウジアラビア、カタール、ロシアが、非投資適格級ではアンゴラ、エクアドルが最もその恩恵を受けると見ています。
一方で、ナイジェリアは満期までの期間の長期化や税金徴収に係る構造的な問題に引き続き直面していることから、2021年に資金調達ニーズが高まり、財政状態が悪化する可能性があります。
2020年の原油安トレンドは反転する見込みであり、「2020年の原油価格急落で経常収支が著しく悪化した原油輸出国の経常収支は原油高により改善するだろう」とKeirleは述べ、このトレンドの恩恵を受ける国としてイスラエル、ロシア、コロンビア、メキシコを挙げました。
原油高がインフレに及ぼす影響
原油価格の反発は今後数ヵ月に亘り新興諸国のインフレ率を緩やかに押し上げると見込まれます。
産出量ギャップが解消し経済活動が正常化するには時間を要することから、食品とエネルギーを除くコアインフレにその影響が及ぶには時間がかかると想定されます。
「インフレ率上昇により、市場では新興諸国の中央銀行による行動の必要性や金利引上げの是非について議論が起こる可能性がある。何らかの方策がとられる可能性はあるものの、二次的影響がなければ、近い将来、新興諸国の中央銀行が、本質的な政策変更を行う可能性は低いと見ている」とKeirleは主張します
上記の通り、 2021年は新興諸国の中央銀行の多くは政策金利を据え置くと予想していますが、一部の国が金融引き締めを開始する可能性があります。ブラジルはその典型例であり、インフレ圧力に対応して金利を引き上げる模様です。通貨の観点からは、金利引上げは割安に放置されているブラジル・レアルの支援要因になると見ています。
チェコもコアインフレが中央銀行の目標値を継続的に上回っており、2021年に政策金利を引き上げる可能性があります。「中央ヨーロッパや東ヨーロッパでは、より迅速な金融政策の正常化を見込み、チェコ・コルナを選好しロングポジションを採っている。」(Keirle)
インフレは新興国だけでなく世界的な問題
2020年の原油価格急落によるベース効果と消費反発の見込みにより、先進国においてもインフレ率は上昇すると想定されます。経済成長ペースの加速期待も相まって、主要国の債券利回り上昇とイールドカーブのスティープ化というここ数ヵ月で見られた動きが起こっています。
「米連邦準備理事会(FRB)は長期に亘り金利を低位に維持する意向を示し、潜在的なインフレ上昇を許容する非常にハト派的なスタンスを維持している。このような環境下、先進国の金利は足元、上昇傾向を辿っているが、先進国との利回り較差が引き続き新興国通貨を支えるであろう。」(Keirle)
魅力的なバリュエーションも新興国通貨への投資根拠として挙げられます。「米ドル安サイクルは一時的に停止しているかもしれないが、長期的な米ドル安要因は未だに存在しており、これが新興国通貨高を支える」とKeirleは結論付けています。
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