2025年4 月 / インサイト

賛成?反対?株主提案2024

エグゼクティブ・サマリー

当社が投資対象企業の環境・社会・政治(ロビー活動)に関する当社の議決権行使結果を公表するのは今年で5年目です1 。このような株主提案への全般的な支持が最も高かったのは、2021年の議決権行使シーズンでした。今年のレポートでは、その後、議決権行使結果が変化してきた理由をご説明します。

北米における株主総会への力学の変化

株主総会において、重要な社会的課題に対応できる事業展開を求める声は高まるばかりです。そうした中、株主提案は投資家と投資先企業の経営陣の対話を促すメカニズムとして長い間機能してきました。しかし、過去4年間を振り返ると、株主提案の有効性は低下傾向がみられます。当社の調査では、その傾向は特に米国とカナダで顕著であることでした。両国は、今年のレポートの分析対象となった555件の株主提案の88%を占めています。

米国とカナダにおける有効性低下の主な原因については、両国における株主提案の手段の誤用があると考えます。従来、株主提案は、企業が透明性、監督、ガバナンスの慣行を改善することで株主価値の向上やリスクの低減につながる可能性がある方法について、長期的な株主が他の株主に対して検討を促すための拘束力のない推奨手段であると長らく理解されてきました。今回の当社の分析結果は、従来型の株主提案が全体の半分にも満たないことを示しています。

当社が分析した2024年の株主提案の約40%は、当該企業の主要部門に関する事業の透明性または運営の改善を通して株主に資するよう企業業績の向上を求める一般的な提案でした。誤解のないよう補足すると、これら提案の対象となる企業が特定の行動や追加報告が必要だという提唱に、当社はしばしば異議を唱えました。しかし、事業の透明性及び運営の改善に関する提案が、当該企業の長期的な業績の向上を目指す点においては基本的には整合性のとれたものであると認識しています。

一方、2024年の提案の58%以上には当該整合性はみられませんでした。当社の評価基準に照らし合わせると、これらの提案は、当該企業にとって有意義な事業再編や価値創造とは無関係の特定の社会・環境問題への認識向上、企業が明らかに報告するとみられる内容、長期的な業績以外の要因に動機付けられた事業改革などを直接指示する内容でした。当社の見解では、2024年に顧客のポートフォリオにおいて提起された株主提案の大多数は、昨年に引き続き2年連続で投資家に資する経済的成果の達成目標にそぐわない、または当該目標と整合性がないものに分類できます。これは、注目すべきであると同時に残念な傾向です。

エンゲージメントと株主提案の有効性比較

当社は他の資産運用会社と比較して、長年にわたり、支持する株主提案をより慎重に検討を重ねた上で対応する姿勢が継続されています。その理由は、当社のような大手機関投資家にとって、投資先企業の経営陣との直接的なエンゲージメントに比べると、株主議決権行使ははるかに効果が薄いことが共通認識となっているからです。ティー・ロウ・プライスは、その実績と評判のおかげで投資先企業の経営陣と速やかに接点を持つことができます。環境へのリスクまたは社会問題に関する取り組みの監督のあり方に懸念すべきことがあれば、投資先企業の経営陣と直接的に接触し、適切な場を設けて経営陣に対処を促します。また株主提案はその性質上、大手の長期投資家との継続的かつ直接的なエンゲージメントよりもはるかに論争を呼ぶものだと当社は考えています2 。このため、多くの場合、エンゲージメントのほうがより効果的であると考えています。

当社がサービスを提供する顧客の非常に幅広い社会的見解を踏まえると、投資収益とは無関係の結果を追求する株主提案を、顧客の議決権を使って支持することは適切ではないと結論付けました。当社は、長期的価値の創造に直接結び付けることができ、経営陣による懸念への対応がまだ十分でない分野における株主提案のみ支持する意向です。

北米における株主提案の現状に対する当社の主な懸念は、行使される株主提案の大半が株主価値とほとんど関係のない、様々な目的の達成のために使われていることです。そうした提案の多くは、特定の社会問題の意識を強調し、経営陣の注意を集めるとともに、提案者の交渉力を強め、政治的な主張を行うために利用されています。非政府組織や反サステナビリティ活動家が支援する提案の急増は、この問題を浮き彫りにするとともに、問題を複雑にしています。当社が株主提案を分析する際、投資目的においてパフォーマンスのみを重視する当社の運用戦略においては財務的なリスクとリターンに焦点を絞ります。財務的なものではなく、明確な政治的および社会的動機が含まれる提案が提出される場合、当社はそれらを支持しません。

量の増加は質の低下を招く

議決権行使を巡る最近の傾向におけるもう1つの注目すべき展開は、企業に提出される株主提案の数の増加です。環境・社会・政治(ロビー活動)をテーマとする株主提案の総数は、当社が議決権行使結果の発表を開始してからの5年間に、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ(TRPA)が運用する戦略に関連するものだけで60%増えています。具体的には、2020年の346件から2024年には555件へ増加しました。これには複数の理由が挙げられます。

米国に限ると、最最大の理由は、2021年に米証券取引委員会(SEC)が企業の代理投票委任状に追加できる株主提案の種類の解釈を変更したことです。その変更において、SECはより広範な環境・社会テーマにわたる提案が増えることを認めました。当社の分析結果によると、提案数の増加は全体の質の低下を招いています。SEC解釈ガイダンスの変更以来、不正確な提案、整合性を欠く提案、企業収益に関係ない課題に対する提案が散見される状況が続いています。

かつてないほどの深刻化を見せる環境・社会問題への対処を求める提案者が急増するなか、これに比例して、そうした提案の目的に同意しない提案者の増加も活発化しています。同意しない提案者は、企業に対して多数の反ESG提案を出し、ESG対応の取りやめ、あるいはESG対応が投資収益率(ROE)に及ぼす影響の実証を求めています。反ESG提案の数は本レポートの第1回で当社が確認した数は12件でした。2024年までには106件まで増え、全提案のほぼ20%を占めるに至りました。

このような状況の劇的な変化によって、当社が長年にわたって維持してきた全ての種類の株主提案を評価する本源的なアプローチの有効性が改めて証明されました。株主提案が顧客の財務上の最善の利益に即しているかを判断する前に、投資先企業の全体的な状況、開示水準、業績、重大なESGリスクを理解することが以前にも増して重要になっています。

 

北米以外の株主提案の主な特徴

本レポートで分析した株主提案の地理的内訳は、米国とカナダに大きく偏っていますが、8%はアジア太平洋地域で、4%は欧州と英国で提出されています。

アジア太平洋地地域では、オーストラリアと日本の2つの市場以外で株主提案が行われることはほとんどありません。日本では2020年以降、当社の投資先企業においては気候問題に焦点を当てた提案のみがなされてきました。投資家は当初これを強力に支持し、日本の大手銀行では賛成が30%を超えました。しかしその後、日本企業のグローバルな取り組みへの参加を背景に気候関連の情報公開が改善したことから、支持率は10%台後半まで減少しました。

オーストラリアでは、気候変動が依然として株主提案の最大テーマとなっています。提案先の企業の大半はすでに自社が環境にもたらす影響に関する包括的な情報開示と本格的な温暖化対策に取り組んでいます。

このような状況において、企業に異なる対応策を求めることが賢明ではないと判断しました。

欧州、オーストラリアおよび英国では、株主提案の提出基準が多岐にわたっています。ほとんどの国はそうした株主提案の提出そのものが行われていません。しかし、一部の国は少数の株主からの株主提案の提出が行われています。その結果、株主提案に含まれるトピックが関与する問題点は多岐にわたり、テーマ別に分類するのは困難です。しかし、注目に値する傾向が1つあります。それは、数十に上る企業が自社の気候変動戦略について株主の承認を得るために定期的に拘束力のない投票を実施していることです。

気候変動関連決議案、通称「セイ・オン・クライメート」(気候変動に関する提言)は、企業の気候戦略を定期的にレビューし、拘束力のない承認を与える機会を株主に提供します。2024年に特筆すべきは、先駆的な動きとしてShell社とGlencore社が、時流に逆行し、投資家の議決権行使の頻度を年次投票から3年ごとの投票に減らしたことです。大まかな傾向として、当社では「セイ・オン・クライメート」により、気候変動に関する投資家と企業の対話の多くが株主提案ごとの個別評価から離れ、企業の気候変動プランの総合的評価へと方向転換していると捉えています。

・当資料で紹介した個別銘柄は購入・売却・推奨された銘柄を代表するものではなく、また、過去に利益が得られた、あるいは今後得られることを示唆するものではありません。

2024年の株主提案の地域別傾向(TRPA分析)

 

スチュワードシップにおける議決権行使の役割

当社は、顧客に代わって実行するスチュワードシップ責任(責任ある機関投資家が負うべき受託者責任)の連鎖において、議決権行使は重要な結びつきであると考えます。当社の観点からは、議決権行使は当該企業の株式保有を通して得られる権利と責任の双方を表すものです。顧客が保有する株式に付随する議決権については、コーポレート・ガバナンスに関して高水準の原則に準拠するとともに、投資先の企業固有の状況を考慮に入れたうえ、投資のみを目的として慎重に行使しています。当社が最重視する目標は、投資先企業と投資家の双方の長期的かつ持続可能な経済的リターンを促進することを目指して、最も有効な進路を支持するために議決権を行使することです。

議決権は、TRPAの個々の戦略に投資していただいている顧客に帰属する資産です。これは、それぞれの戦略の投資先企業における議決権行使に関して、各戦略のポートフォリオ・マネジャーが最終的に責任を負っていることを意味します。

影響力の慎重な行使

当社にとって、議決権行使は投資先企業との全般的な関係の1つの要素です。当社では、当該企業と当社の関係における他の側面を補完するために議決権行使権限を行使しています。例えば、当社の見解を発行体企業と共有するために、以下の手段を講じています。

  • 定期的かつ継続的に投資先企業を精査

  • ガバナンスおよびサステナビリティの問題について投資先企業の経営陣にエンゲージメントを実施

  • 投資先企業の取締役会メンバーまたは最高幹部との面談を実施

  • 当該ポートフォリオにおける投資比率の増減を決定

  • 新規投資または全売却を決定

  • 状況に応じて、投資先企業に関する公式声明を表明(経営陣への支持表明、または当該企業の長期的な最善の利益につながるように方針変更を促す)

TRPAのような大手機関投資家は、企業の取締役会による提案に対する反対頻度に応じて第三者機関から常に評価を受けます。当社の場合、当社の顧客ポートフォリオで保有している株式の発行体企業との対立を生むために議決権を利用することは、本位ではないことを明確にしておきます。

当社の2024年の議決権行使結果の分析

2024年にTRPAのポートフォリオ・マネジャーは、世界の主要市場において合計2,325件の株主提案の議決権を行使しました。そのうちの1,466件は取締役の選任または選任手続きに関する提案でした。また、304件は企業に特定のコーポレート・ガバナンス慣行の導入を求めるものでした。

残りの555件は環境・社会・政治(ロビー活動)課題に関する提案でした。図1ではこれらの提案を4つに分類しました。

2024年の議決権行使対象株主提案

 

議決権行使の理由

環境・社会関連の株主提案を4つのカテゴリーに分類

議決権行使の理由
議決権行使の理由
議決権行使の理由
議決権行使の理由
議決権行使の理由

 

TRPAの議決権行使指針策定のプロセス

当社のサステナビリティに関連する株主提案への取り組みは、議決権行使の責任のごく一部です。これらの提案に対する行動は、企業を取り巻く全体的な環境に応じて進化し続けます。株主提案に対する当社の対応には、規制の変更、開示の改善、ステークホルダーによるキャンペーン、企業固有のイベント、これらの問題に関する当社の運用プロフェッショナルの見解が反映されています。

TRPAのESG投資コミッティーは、株式、債券、マルチアセット部門のアナリストとポートフォリオ・マネジャーを含む経験豊かな運用プロフェッショナル、および各運用部門責任者で構成されます。さらに、部門横断的な知識を備えた社内弁護士、運用オペレーションを含む関連各部門の責任者も参加します。ESGコミッティーは、コーポレート・ガバナンス責任者と責任投資調査部門ディレクターが共同議長を務めます。

ESG投資コミッティーは、前年のサステナビリティ関連の議決権行使結果を検証し、議決権行使ガイドラインへの追加や削除を検討します。

ESGパフォーマンスに対する説明責任を果たすための様々な手段

TRPAの議決権行使プログラムにおいて、環境・社会関連の要素に対する当社の見解が表明されるのは株主総会における株主提案だけにとどまりません。例えば、世界中のほぼ全ての企業において、株主総会の定例議案の一部として取締役が再任されています。当社は、取締役の再任を決議する前に、再任される取締役の実績を、事業における環境・社会関連の監督責任を含めて、様々な角度から評価します。

以下の3項目の議決権行使ガイドラインは、議決権行使においてどのような事項が考慮されているかを示しています。

  • 気候変動への取り組みの透明性のギャップ:温室効果ガスの排出量の高排出産業に属する企業について、投資家が環境リスクを評価するのに十分な排出量データを開示していない場合は、原則として取締役の再任に反対します。

  • 取締役会の多様性:取締役会の性別の多様性について、全世界で最低基準を設定し、規制や市場基準がある地域にはより厳格な基準を適用しています。

  • 株主の権利:3年任期で取締役の改選時期をずらし、取締役の過半数の交替をしにくくする仕組みを採用している米国の伝統的企業の場合、このような体制自体が投資家への説明責任を後退させるため、原則反対しています。

賛否を決定する要素

環境・社会関連の提案を評価する際に考慮する特定の項目

賛否を決定する要素
賛否を決定する要素
賛否を決定する要素

 

ガバナンスの監督と責任投資

議決権行使はティー・ロウ・プライスの運用部門が担う機能で、ティー・ロウ・プライスが所有する様々な投資顧問会社(TRPAとTRPIMも含まれます)の取締役会が監督責任を担っています。各投資顧問会社はフィデュシャリー・デューティーを通じて、長期投資を行ううえで重要な要因を考慮し、顧客の利益の追求のみを目的に議決権を行使する責務を負っています。

TRPAのESG運用コミッティーは全てのファンド(米国ミューチュアル・ファンド、SIVAV、信託、OEIC)の取締役会に毎年報告書を提出します。その中でTRPAは、行使パターンの前年からの変化、議決権行使ガイドラインの修正、潜在的な利益相反の管理に関する議論などを詳しく示します。環境・社会・政治(ロビー活動)に関する議決権行使の詳細な分析も含まれます。

ティー・ロウ・プライスの各投資顧問会社の取締役会に加え、上場会社であるティー・ロウ・プライス・グループ・インク(以下、「グループ」と言います)は独自の取締役会を擁しています。グループの取締役会もESG戦略、環境フットプリント、人材管理、リスク管理、そのほかの関連機能などを監視する立場上、ESG問題に関心を持っています。

投資顧問会社の責任投資能力は、グループ取締役会にとっても戦略的関心事であるため、TRPAのガバナンスおよび責任投資のシニア・リーダーがグループ取締役会に定期的な報告を行っています。議決権行使活動に対する監視は投資顧問会社取締役会の責任であり、通常、グループ取締役会では議論されません。

結論

投資顧問会社は、サステナビリティとガバナンスの問題に関する専門知識や知見の構築に多大なリソースを投資しています。アクティブ運用アプローチと同様、ESGに関する議決権への賛否は、企業ごとの特定のESGリスク、成長機会、開示などを考慮し、ケースバイケースの分析に基づいて判断されます。

社会問題や環境問題に関する株主提案の質、意図、有効性は非常に多岐にわたります。適切な目標に設定された提案は企業に特定のリスク管理の強化を促すうえで有効で、投資家にとって最良の結果に繋がります。TRPAは、2024年の提案の大半について、提案者の目的が経済的リターンを追求する長期投資家の目標とは明らかに一致していないと判断しました。そうした提案に対する議決権行使に最も責任あるアプローチは、私たちが長年にわたって一貫して使用してきた思慮深く、投資に重点を置いたフレームワークを適用することだと確信しています。

重要情報

当資料は、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ・インクおよびその関係会社が情報提供等の目的で作成したものを、ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社が翻訳したものであり、特定の運用商品を勧誘するものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。当資料はティー・ロウ・プライスの書面による同意のない限り他に転載することはできません。

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当社の運用戦略では時価資産残高に対し、一定の金額までを区切りとして最高1.265%(消費税10%込み)の逓減的報酬料率を適用いたします。また、運用報酬の他に、組入有価証券の売買委託手数料等の費用も発生しますが、運用内容等によって変動しますので、事前に上限額または合計額を表示できません。詳しくは契約締結前交付書面をご覧ください。

「T. ROWE PRICE, INVEST WITH CONFIDENCE」および大角羊のデザインは、ティー・ロウ・プライス・グループ、インクの商標または登録商標です。

 

ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社

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