2025年1 月 / インサイト

パーソナライズを通じて次世代のターゲット・デート・ファンドを構築

サマリー

  • レコードキーピング(確定拠出年金に関わる記録関連業務)の技術進歩によって、個々の投資家のニーズと選好を反映してターゲット・デート・ファンド(TDF)のパーソナライズを強化する機会が生じている。
  • 当レポートでは、従来のTDFのアプローチを拡張して、ライフサイクルに対してよりダイナミックかつパーソナライズされた効用重視のグライドパス・モデルをご紹介する。
  • 当社の分析は、これらの改善によって、特に変動を伴う支出ルールが組み込まれている場合、リスク調整ベースで退職後の支出を大きく増やすことができる可能性を示唆している。

当レポートは The Journal of Portfolio Management に掲載された「Personalized Target Date Funds(パーソナライズされたターゲット・デート・ファンド)」を要約したものです。

ターゲット・デート・ファンド(TDF)は、米国で広く浸透する資産形成手段として定着しています。TDFは2000年に初めて導入され、その運用資産残高は、2023年末時点で過去最大の3.5兆米ドルに達しました1

この資産増大の一因は、確定拠出型年金(DC)プランが米国で多くの従業員の主たる退職貯蓄手段として広まったことにあります。DCプランでは、運用責任が加入者(従業員)個人に移るため、加入者は多種多様な商品の選択肢から選択しなければなりません。

しかし、多くのDCプラン加入者の場合、情報を得たうえで適切な投資先を選択するために必要な専門知識を持ち合わせていないケースがあります。多くの選択肢から適切なポートフォリオを構築できない加入者は、プランの初期設定を選び続けるケースが多く見られます。歴史的に、初期設定として選ばれる運用商品は、低利回りのマネーマーケット・ファンドや他の保守的な投資手段であり、長期リターンが低く、退職後に備えた資産形成を行うという目的を果たすために必要な資産の増大にはつながりません。

この課題を認識して、年金保護法(2006年)では、DCプラン・スポンサー(事業主)がマルチアセット運用商品を初期設定オプションとする自社のDCプランに従業員を自動加入させることが認められました。米国労働省により適格デフォルト商品(QDIA)として認定されたTDFは、プラン・スポンサーに注目される初期設定商品として登場しました2

TDFは、加入者の退職予定日を基準に設計され、投資家が年齢を重ねるにつれて、所定の「グライドパス」に沿って資産配分が変更されます。一般的に、グライドパスは、加入者がキャリアの初期段階にある時は株式への配分が高く、退職時期が近づくにつれて債券への配分が高くなるようにシフトしていきます。このアプローチは、個人の時間軸に基づいて投資成果の最適化を図ります。

批判的な意見

TDFは商業的に成功し、資産形成手段として注目された一方、以下のように批判的な意見も現れました。

1.  株式への配分を引き下げるべきではない:一部のアナリストは、時間の経過とともに株式への配分を引き下げるのではなく引き上げるなど、グライドパスを変えれば、投資成果がさらに上がる可能性があると指摘しています。

2.  資産が適切に分散されていない:TDFは投資家を過剰な株式リスクにさらす可能性があると主張する批判的な意見もあります。インフレ連動米国債(TIPS)に投資した方が良い結果が得られる可能性があるという指摘さえあります。しかし、TIPSのリターンが小さい場合、投資家は拠出額を増額するか、退職資産形成の期待値を引き下げざるを得ない可能性があります。

3.  資産配分をより柔軟に調整するべき:市場の変化に応じて変更するグライドパスなど、よりダイナミックなアプローチがより良い成果をもたらす可能性があると主張するアナリストもいます。

4.  TDFのパーソナライズは十分ではない:TDFのグライドパスは、退職年齢に基づいてリスク資産への配分を調整するものの、保有資産、収入、教育水準、個人のリスク許容度など、その他の要素も考慮する必要があると主張する意見もあります。

TDFは現実的な状況での有用性を実証してきたと考えています。その簡便さと規制上の利点によって、TDFは個人投資家とプラン・スポンサーの双方にとって魅力的であり、プラン・スポンサーは自社の中核事業に注力することができます。

TDFのコンセプトの強みと弱みを比較検討する際には、現実的な代替手段を考慮することが重要です。TDFを用いないケースにおいて、DCプランの加入者は、プラン内で提供される膨大な資産クラス、スタイル、投資戦略を網羅する運用商品のなかから、ポートフォリオの資産配分を自ら決定する必要があります。しかし、こうした投資選択を行うために必要な専門知識を持ち合わせていない場合がほとんどです。

一方で、調査によると、TDFの採用によって、通常、プラン加入者は、より年齢に適切なポートフォリオを保有しています。TDFは、固有リスクを軽減することも示されており、低コストのポートフォリオは、長期的に退職資産の形成に寄与する可能性があります3

一般常識と確固たる理論的根拠も、時間の経過とともに株式への配分を引き下げるグライドパスを支持しています。退職時期が近づくにつれて、通常、個人のリスク回避度は高まります。時間の経過とともに株式への配分を引き下げるグライドパスは、この自然な傾向に合致します。数十年に及ぶ学術的研究は、投資家が年齢を重ねるにつれて、その人的資本の価値が低減していくことから、株式への配分を引き下げることは合理的であると強調しています。

また、提供する運用会社によって異なりますが、現在市場で利用可能なTDFは、通常、米国内外市場、規模やスタイル、債券セクターなど、あらゆる資産クラスにわたり十分に分散されています。標準的なグライドパスを備えるTDFは、通常、運営管理機関の体制に制約があるため、プライベート・エクイティなど流動性の低いオルタナティブ投資商品を直接組み入れていませんが、概して多種多様な運用商品を組み入れています。

株式への配分比率に関する議論はそれぞれ異なり、リスク許容度やライフサイクル投資モデルの構築方法などの要素に依存します。しかし、時間の経過とともに株式への配分を引き下げるグライドパスを支持するリサーチでは、退職後に備えた資産形成という目標に必要な長期リターンを創出するために、特にキャリアの初期段階で株式への配分を相対的に高めることも有効である旨が示唆されています。

柔軟かつパーソナライズされたターゲット・デート・ファンド

運用業界では、社会や環境の変化に柔軟に対応し、かつ個人向けにカスタマイズ(パーソナライズ)されたTDFは、資産形成を行う投資家が退職後に送る人生を改善させることが可能というのが幅広いコンセンサスです。マネージドアカウントなど、DCプラットフォームにおけるパーソナライズされた口座の利用が最近進歩したことによって、多くの改善を実現しました。

カスタマイズTDF向けに当社が開発したモデルは、DCプラットフォームのマネージド・アカウントにて活用可能な豊富なデータを活用しています。運営管理データを利用することで、加入者が直接データ提供する必要がなくなる一方で、より詳細なインプットを希望する加入者は、個人のリスク許容度や外部資産に関する情報などを提供することができます。

当社モデルの主な利点は、斬新な多変量解析による効用関数によって、TDFを設計する上で達成を目指す目標は何か、といった最も根本的な点の検証を可能にすることです。

ほとんどの投資家にとって、究極の目標は、生涯にわたりリスク調整後の支出(消費)を最大化することです。当社モデルが革新的である点は、ほとんどの個人が単に資産を保有することからも満足感または安心感を得るという事実を考慮していることです。この資産保有に対する選好は、生涯を通じて消費に向ける資金を賄うだけでなく、遺産を残したいという願望にもつながっています。そのため、当社モデルにおいて、資産には将来の消費の現在価値という通常の定義を超える効用があります。

状況の変化に柔軟に対応し、かつパーソナライズされたグライドパスを策定するために、まずはじめに各時点における株式と債券への最適な配分について検証しました。それと同時に、将来の支出見込みに関する指針が必要とされる場合、消費に関する決定の最適化を図りました。

この点については、多変量解析による効用関数を用いて、より多くの生涯消費、より小さい資産変動、より低いリスクといった3つの基本的な選好を前提として、支出の最大化と資産残高の保持という生涯効用の最大化を目指しました。

次に、モンテカルロ・シミュレーションを用いて、経済成長、インフレ率、資産リターン、給与増加、社会保障給付に関するシナリオを生成しました4。これによって、投資判断に内在する不確実性とリスクを捉えて、分析対象の各加入者に関して想定される10,000通りの資産推移シミュレーションを行うことを可能としました。総じて、当社モデルは、個人の選好、経済的要因、給与動向、社会保障給付、税効果を考慮する包括的なアプローチを提供すると考えています。

パーソナライゼーションは優れた成果につながるか?

当社モデルを用いて、個人向けにカスタマイズされたTDFのグライドパスから得られる効用を、業界標準のグライドパスと比較して評価しました。その際、当社のレコードキーピング・プラットフォームにおけるプラン加入者から得た、現年齢、繰延率、雇用主のマッチング率、給与、口座残高など、匿名のデータを活用しました。

分析の結果、S&Pターゲット・デート・ファンド指数のグライドパスに準じ、4%の支出ルールを組み込んだ業界標準の商品と比較して、パーソナライズには大きな利点があることが分かりました。

また、パーソナライズを通じて株式への配分の引き上げから得られる恩恵を調整した株式配分が同一のグライドパスと比較しても、当社のアプローチには利点があることが分かりました。

まとめ

批判的な意見はあるものの、TDFは依然としてプラン・スポンサーの間で好まれる選択肢です。規制当局のガイダンスは、QDIAとしてのTDFの利用を推進しており、時間の経過とともに株式への配分を引き下げるグライドパスは、加入者が年齢を重ねるにつれて自然にリスク回避志向を強めるという傾向に合致しています。

TDFの進化における次のステップは、年齢以外の要素に基づくさらなるパーソナライゼーションの導入です。これには、ダイナミックアロケーションや支出能力、場合によっては保証などが含まれます。当社のモデルは、この方向性における重要な足がかりになると考えています。

追加ディスクロージャー

ターゲット・デート投資リスク:ターゲット・デート・ファンドにおける投資商品の元本価値は、ターゲット・デート(通常は、投資家である加入者が退職を予定している日―65歳と想定)またはそれ以降の日を含め、いかなる時点においても保証されていません。また特定の金額の収入を保証するものでもありません。

この投資商品は、一般的には株式、債券、短期投資商品など幅広い資産クラスに投資を行うため、市場の様々な分野に内在するリスクの影響を受ける可能性があります。ターゲット・デートの前後で株式に対してある程度の資産配分を行うと、短期的にボラティリティの変動が激化する場合があります。加えて、ターゲット・デート投資の目的は、時間の経過とともに変化し、より保守的な方向性へとシフトするのが一般的です。

記載がある場合、モンテカルロ・シミュレーションは、将来の不確実性をモデル化します。平均結果を生成するツールとは異なり、モンテカルロ・シミュレーションによる分析は、確率に基づく結果の範囲を創出することで、将来の不確実性を取り入れています。予測は本質的に仮想的なもので、実際の投資結果を反映したものではなく、将来の結果を保証するものでもありません。シミュレーションは仮説に基づいており、結果が起こりうる範囲を示すに留まります。

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