2024年12 月 / インサイト
ブルー・エコノミーを守る:イノベーションと連携
ティー・ロウ・プライス初のブルー・エコノミー・サミット
海洋は、人々に生活手段や生物としての一体感を幾世代にもわたって与えてきました。しかし、その水面下では生態系が崩壊し、水産業が縮小しており、海洋汚染が生物多様性の直接的な脅威となっています。世界中の多くのコミュニティの存続は、ブルー・エコノミーの中核である海洋に依存しているのです。
海洋は地球上の酸素の50%以上を生み出し、二酸化炭素排出量の25%を吸収しています。何百万人もの人々にとって、欠かせない食料源でもあります。海洋は単なる環境資産ではなく、経済の動力源でもあり、毎年およそ1.5兆米ドル規模で経済に貢献しています1。しかし、乱獲、汚染、気候変動の脅威の高まりを受け、この重要な資源の保護が喫緊の優先事項となっています。
ティー・ロウ・プライスは2024年9月、初となるブルー・エコノミー・サミットをニューヨークで開催しました。このサミットでは、金融機関のステークホルダー、科学者、政策決定者が一堂に会し、海洋の生態系を保護しながら持続可能な経済成長を促進するという課題に、イノベーション、連携、金融ソリューションがどう貢献できるかを議論しました。
行動の呼びかけ
サミットの冒頭で、ティー・ロウ・プライスのエマージング市場債券部門責任者のSamy Muaddiが、ブルー・エコノミーをめぐる投資機会と課題について取り上げ、次のように述べました。「このサミットにおける意見の多様性が、私たちの強みであり課題でもある。この多様性を、一体化された理念へと導くとともに、安全な水と海洋生物に焦点をあてた国連の持続可能な開発目標(SDGs)のうち水関連の目標6と14に関する資金ギャップを埋める必要がある」
この発言は、こうしたSDGs目標の達成に向けた道のりをどのように加速化させるかについて概観的に議論する日となりました。Muaddiはさらに、金融機関は単なる資本の提供者にとどまることなく、進行中の科学的・環境的取り組みの情報発信に務めるべきだと強調しました。「こうした取り組みを拡大することが私たちの務めです。
私たちは、必要な資金の調達ギャップを埋め、真に持続可能な変化を生み出す方法を探るためにここに集結したのです」と述べました。
国連グローバル・コンパクトのシニア・アドバイザーであるSuzanne Johnson氏は、協力の重要性を強調しました。「私たちは転換点にいる。ブルー資本市場を構築するためには、事業におけるイノベーションを支援する優れた政策、ガバナンス、規制が必要だ。同様に企業部門も、リスク管理に必要な気候変動および環境の目標に合わせて投資判断を下し、海洋産業の移行(輸送、インフラ、エネルギー、食品)に多くの魅力的な投資機会があることを認識する必要がある」と指摘しました。
イノベーション:変化と再生の促進剤
こうした課題へ取り組もうとして困難に直面することがあるかもしれませんが、イノベーションが具体的な解決策をもたらす可能性があります。米国ボルチモアにあるナショナル水族館のプレジデント兼CEOのJohn Racanelli氏は、同水族館が開発した浮遊型湿地などのイノベーションについて説明しました。この浮遊型湿地は生態系を修復するもので、都市汚染を緩和し、周辺の生物多様性を促進します。「こうした浮遊型湿地の設置場所は、かつて石炭船が街に電力を供給し、石炭を荷下ろしするために使用していた停泊所だ。こうした局地的な取り組みが、地球規模の波及効果を生み出す可能性がある」と述べました。
DPワールドのIR担当グループ・シニア・ヴァイス・プレジデントのRedwan Ahmed氏は、海運業におけるイノベーションの重要性を訴えました。同氏は、海運の脱炭素化に向けた同社のコミットメントと、持続可能な燃料の利用や、クリーンエネルギーを使った動力機器の利用を通じた「グリーン海運回廊」構築への取り組みについて説明し、「世界貿易の80%以上を扱う海運の脱炭素化を実現できれば、極めて大きな影響をもたらします」と述べました。
同氏は連携の重要性にも言及し、環境問題への対応では、競合他社を含む業界全体のステークホルダーと協力しながら、透明性を高めて共通の目標を育み、持続可能なイノベーションを推し進める必要があると述べました。
オーシャン・リスク・アンド・レジリエンス・アクション・アライアンス(ORRAA)のエグゼクティブ・ディレクターであるKaren Sac氏も同意を示し、海洋自然資本に対する投資を促進するには、複数のステークホルダーによる連携が必要であると指摘しました。「ORRAAの役割は、銀行、保険会社、政府、市民社会を結集して、大規模ファイナンスを促進し、海洋のための資本市場を構築することです。私たちは沿岸と海洋の自然資本に資するファイナンス拡大に力を入れている」と述べました。
同氏は、海洋破壊的な漁業慣習の防止を促すフィリピンの保険プログラム、および船舶改修を支援する南アフリカの小規模漁業者向け低金利融資の創設をはじめとするイノベーションについて説明しました。「私たちの課題は、持続可能なだけでなく再生をもたらす投資を行い、コミュニティの繁栄を促しながら海洋を保護することだ」と述べました。
ブルー・エコノミーの解決策を促進する金融イノベーション
サミットでは複数の講演者が、連携とイノベーションは極めて重要だとしたうえで、取り組みを拡大し、SDGsの目標6と14を達成するにはブルー・ボンドなどの金融ツールが不可欠であると強調しました。ブルー・ボンドなどの金融イノベーションは、ブルー・エコノミーのための資金調達を支えるものです。
国際金融公社(IFC)金融セクター担当サステナブル・ファイナンス・グローバル責任者のLaila Nordine氏は、ブルー・エコノミーに顕在する非常に大きな調達資金ギャップについて説明しました。「ブルー・ファイナンスがサステナブル・ファイナンス市場に占める割合は依然として0.5%未満ですが、海洋だけで大気中の二酸化炭素の25%以上を吸収している」と指摘し、こうした不均衡を解消するには、ブルー・ボンド市場の拡大が不可欠だと訴えました。さらに、「投資の効果的な割り当てを徹底する一層強力な枠組みを構築しなければならず、また水と海洋が人々の生活で担っている重要な役割を映し出すような、多大な影響力を生み出し、かつ測定可能な成果を引き出さなくてはならない」と述べました。
ブルー・ボンドなどのサステナブル・ファイナンスの信頼性は、明確なガイドラインと透明性にかかっているという指摘もみられました。サミット全般でこのような測定と報告を重視する発言が上がり、参加者は、投資家の信頼を助長し、長期的な影響を確保するには、強固な枠組みが不可欠であるとの考えで合意しました。
BofA証券のサステナビリティ債券リサーチ責任者のKay Hope氏は、ブルー・エコノミーへの投資が経済にもたらす影響について説明しました。同氏は、安全な水と衛生施設へのアクセスは、当初こそ単なる社会的または環境的課題とみなされることがあったかもしれないが、経済的成果にも深く結びついていると主張しました。「安全な水がない社会では、病気が増え、毎日仕事に行ったり、学校に行ったりすることが難しくなる」と述べ、水の問題が健康、教育、そして最終的には経済に影響すると述べました。
さらに、アイデアをすぐにでも行動に移すべきだと訴え、「今、行動を起こさなければ、生態学的および経済的機会を失う恐れがあります。イノベーションだけでは海洋を保護できません。セクター間で連携した速やかな行動が必要だ」と述べました。
成功談に学ぶ
サミットでは、成功談のひとつとして、デンマークのエネルギー会社Ørstedによる1億ユーロのブルー・ボンド発行について紹介されました。同社は、持続可能な海上輸送計画と、環境再生を目指した洋上風力発電所の環境改善プロジェクト向けに同ブルー・ボンド発行を通じて資金調達し、持続可能なエネルギー開発モデルとなっています。グローバル・サステナビリティ責任者のIda Krabek氏は、このブルー・ボンドは、ネットでポジティブな影響を自然界に与える再生可能エネルギー・プロジェクトを構築するという同社の理念に沿ったものだと説明し、「ブルー・ボンドは、こうした移行のための資金調達で重要な部分を担った」と述べました。
ブラジル最大の水道事業会社AegeaのIR責任者であるAdriana Albanese氏は、環境衛生プロジェクトの資金調達を目的とした、同社のサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)発行に向けた取り組みについて説明しました。「ブラジルの下水道普及率は人口の50%止まりで、1億人分の排泄物がそのまま川や海に捨てられている。この問題に取り組むには、資本調達へのアクセスの多様化が不可欠だ」と述べました。
同氏は、イノベーションによって同社の財務戦略とビジネスが様変わりしたと述べ、「SLB発行によって、エネルギー削減および水資源効率に関するKPIを設定し、当社プロジェクトが経済面でも環境面でも持続可能であるよう心がけている」と説明しました。同社は、財務リターンと、エネルギー削減や水資源効率などの測定可能な成果を連動させ、環境目標の進捗を加速させる強いインセンティブを創出しています。
ブルー・エコノミーの今後の道筋
サミットの終盤にかけて、「ブルー・エコノミーの未来は、測定可能な影響をもたらす行動へと議論を発展させる革新的な解決策、強力なパートナーシップ、そしてこれらに対するコミットメントにかかっている」とのメッセージが共有されました。
科学は重要な役割を担います。米国海洋大気庁(NOAA)のチーフ・サイエンティストであるSarah Kapnick氏は、信頼できる科学データは、特に再生可能エネルギーや海洋保全などのセクターにおいて、十分な情報に基づく投資判断を下す際の土台となると主張しました。「私たちの課題は、未来の予測においてだけでなく、政策や投資の方向性を定めるうえでも、強固なシステム構築に利用できるデータを提供することだ」と述べました。
ティー・ロウ・プライスのSamy Muaddiは、ブルー・エコノミーが経済に及ぼす重要な影響を強調しながら、本サミット・セッションのポイントを総括しました。「ブルー・エコノミーは、環境への影響だけに関わるものではなく、経済にも重大な影響をもたらす。加えて、民間部門の参入機会が増えており、サステナブル投資にとって今や追い風となっている政策枠組みがその支えとなっている」と述べ、障壁を乗り越え、ブルー・ボンドを信念に基づいた「本流」とするために、連携とイノベーションを継続するよう呼びかけました。
リスク:ブルーボンドにはクレジット・リスク、金利リスクなどのリスクを伴います。エマージング市場は先進国市場ほど確立されていないため、リスクが高くなります。望まれる結果の達成を保証するものではありません。
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