2024年8 月 / インサイト
賛成?反対?株主提案2023
エグゼクティブ・サマリー
私たちが、投資対象企業の環境・社会・政治(ロビー活動)に関する当社の議決権行使結果を公表するのは今年で4年目です1。当社の株主提案は、2021年の議決権行使時には高い支持を得ましたが、一方で米国とカナダを中心に支持者の間でも意見の分断が顕著になっています。決議案の多くは、依然として企業価値の向上またはリスク軽減に資する行動を求める従来のフレームワークに沿う内容が多くを占めています。しかし私たちは、両市場に定着した新しいアプローチは株主価値の創造に繋がらないと考えます。今般のレポートではこの分断の影響を探ります。
北米における株主総会力学の変化
株主総会において、企業に重要な社会的課題に対応できる事業展開を求める声は高まるばかりです。そうした中、株主提案は投資家と投資先企業の経営陣の対話を促すメカニズムとして長い間機能してきました。しかし、過去3年間を振り返ると、株主提案の有効性には低下傾向がみられます。私たちの調査では、その傾向は特に米国とカナダで顕著です。両国は、今年のレポートの分析対象となった527件の株主提案の82%を占めています。
米国とカナダにおける有効性低下の主な原因について、私たちは株主提案権の誤用があると考えます。両国における株主提案議決は、株主価値の増大またはリスクの低減を促進させたい長期株式保有者が他の株主に対して、経営の透明性を高めることや価値創造と明らかに結びついている慣行の監視の強化を通して、拘束力のない推奨事項を提供する手段と長らく理解されてきました。
今回の私たちの分析結果は、従来型の株主提案が全体の半分にも満たないことを示しています。私たちが分析した2023年の株主提案の約45%は、当該企業の主要部門に関する事業の透明性及び運営の改善を通して企業業績の向上を求める一般的な提案でした。それらには、企業に追加報告を求めるという私たちには賛成できない提案が依然として多く含まれていました。しかし、事業の透明性及び運営の改善に関する提案が、当該企業の長期業績の向上を目指す点においては整合性がとれたものであることは認めます。
一方、残りの約55%の株主提案にはそうした整合性はみられませんでした。私たちの評価基準に照らし合わせると、これらの提案は当該企業にとって有意義な事業再編や価値創造とは無関係の特定の社会・環境問題への認識向上、または長期業績以外の要因に動機付けられた事業改革などを直接指示する内容でした。当社の運用戦略に対して2023年に持ち込まれた株主提案の半数以上は、投資家のための経済的成果の達成目標にそぐわない、またはそうした目標と整合性がないものに分類できます。これは、注目すべきであると同時に残念な傾向です。
エンゲージメントと株主提案の有効性比較
当社の場合、他の資産運用会社と比べると、支持すべき環境・社会・ガバナンス(ESG)関連の株主提案でも、より慎重に検討を重ねた上で対応します。その理由は、当社のような大手機関投資家の間では、株主議決権行使は投資先企業の経営陣との直接的なエンゲージメントに比べると、はるかに効果が低いことが共通認識になっているからです。ティー・ロウ・プライスは、その評判のおかげで投資先企業の経営陣にすぐにアクセスすることができます。環境へのリスクまたは社会問題に関する取り組みの監督のあり方に懸念すべきことがあれば、そうした直接的なアクセスを活用し適切な場を設けて経営陣に対処を促します。エンゲージメントの結果、多くの場合、そうした問題について株主提案を行って支持を集める必要はなくなります。
北米における株主提案の現状に対する私たちの主な関心事は、行使される株主提案権の大半が株主価値とほとんど関係のない、様々な目的の追求のために使われていることです。そうした提案の多くは、①特定の社会問題の意識を強調する、②経営陣の注意を集める、③提案者の交渉力を強める、④政治的な主張をするために利用されています。反ESGの株主提案の急増はこの問題を浮き彫りにするとともに、問題が悪化していることを示しています。なお、私たちの株主提案はそうした目的は考慮に入れていません。
当社のお客様の非常に幅広い見解を踏まえると、私たちの結論は、投資収益とは無関係の結果を追求する株主提案を、お客様の議決権を使って支持することは適切ではないということです。私たちが支持するのは、長期的価値の創造に直接資する株主提案のみです。
量の増加は質の低下を招く
議決権行使を巡る最近の傾向におけるもう1つの注目すべき展開は、企業に提出される株主提案の数の増加です。環境・社会・政治(ロビー活動)をテーマとする株主提案の総数は、私たちが議決権行使結果の発表を開始してからの4年間に、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ(TRPA)が運用する戦略に関連するものだけで52%増えています。具体的には、2020年の346件から2023年には527件へ増加しました。
これには複数の理由が挙げられます。米国に限ると、最大の理由は米証券取引委員会(SEC)が企業の代理投票委任状に追加できる株主提案の種類の解釈を変更したことです。その変更において、SECはより広範な環境・社会テーマにわたる提案が増えることを認めました。私たちの分析結果によると、提案数の増加は全体の質の低下を招いています。SEC解釈ガイダンスの変更以来、不正確な提案、整合性を欠く提案、重要でない課題に対する提案が散見される状況が続いています。
さらに、プリスクリプティブ(経営への介入的)請求の水準も著しく上昇しています。株主提案者の要求は、情報開示ベースの要求(例えば、ESG問題に関する追加報告の請求)から行動ベースの要求(例えば、対象企業による具体的なコミットメント、資本投資、構造改革)に迅速に切り替わりました。その流れと並行して、提案者の間では株主提案権を行使せずに発行体(企業)と対話を通して解決を図る動きは低下しています。
環境・社会問題への対処を求める提案の急増に比例して、そうした動きを阻止しようとする提案の増加がみられます。企業に対して多数の反ESG提案が行われ、ESG対応の抑制、あるいはESG対応が投資収益率(ROE)に及ぼす影響の実証を求めています。反ESG提案の数は本レポートの第1回で私たちが確認した数は12件でしたが、2023年には77件に増え、2024年にはさらに増えることが予想されます。
このような状況の劇的な変化によって、当社が長年にわたって維持してきた全ての種類の株主提案を評価する本源的なアプローチの有効性が改めて証明された格好となっています。株主提案がお客様の財務上の最善の利益に沿っているかを判断する前に、投資先企業の全体的な状況、開示水準、業績、重大なESGリスクを理解することが以前にも増して重要になっています。
北米以外の株主提案の主な特徴
本レポートで分析した株主提案の地理的内訳は、米国とカナダに大きく偏っていますが、10%はアジア太平洋地域で、8%は欧州と英国で提出されています。
アジア太平洋地地域では、オーストラリアと日本の2つの市場以外で株主提案が行われることはほとんどありません。日本では、2011年の福島第一原子力発電所事故以来、支配的なテーマだった原子力発電依存率の削減提案から遠ざかる動きが出てきています。2023年に日本企業に提出された株主提案のテーマは、気候関連問題から個別企業特有の経営上の問題まで多岐にわたっていました。日本市場における提案は個人株主によるプリスクリプティブ請求が大半で、価値創造に繋がらないと私たちは判断しました。そのため、当社が賛成票を投じた株主提案議題は全体のわずか7%でした。
オーストラリアでは、気候変動が株主提案の最大のテーマですが、提案先の企業の大半はすでに自社が環境にもたらす影響に関する包括的な情報開示と本格的な温暖化対策に取り組んでいます。そのことを考慮すると、そうした企業に新たな対応策を求めることが賢明だとは思えないというのが私たちの判断です。
欧州や英国では、株主提案の提出基準が多岐にわたっています。ほとんどの国は株主提案の提出そのものを認めていませんが、一部の国は提出を認めています。株主提案のテーマは広範囲に及んでおり、テーマ別に分類するのは困難です。しかし、その中には注目に値する傾向が1つあります。それは、数十に上る企業が自社の気候変動戦略について株主の反応を探るために定期的に拘束力のない投票を実施していることです。なお、本レポートは、気候変動関連決議案、通称「セイ・オン・クライメート」(気候変動に関する発言)についてはカバーしていません。その理由は、株主ではなく経営陣による自発的な提案だからです。しかし、私たちの観察では、「セイ・オン・クライメート」投票によって企業の低炭素移行計画に関する評価が、株主提案ごとに対応する個別評価から投資家と企業の対話による相対的評価へと方向転換していると感じています。
スチュワードシップにおける議決権行使の役割
私たちは、議決権行使については当社がお客様に代わって実行するスチュワードシップ責任(責任ある機関投資家が負うべき受託者責任)の連鎖において重要なリンクであると考えます。私たちの観点からは、議決権行使は当該企業の株式保有を通して得られる権利と責任の双方を表すものです。当社は、お客様が保有する株式に付随する議決権については、コーポレート・ガバナンスに関して高水準の原則に準拠するとともに、投資先企業の固有状況を考慮に入れたうえ、投資のみを目的として慎重に行使しています。当社は議決権行使の意思決定にあたっては、当社の責任投資・ガバナンス・スペシャリストを含めた参加型アプローチを採用しています。
当社が最重視する目標は、投資先企業と投資家の双方の長期的かつ持続可能な経済的リターンを促進するために、最も有効な進路を支持するために議決権を行使することです。
議決権は、TRPAの個々の戦略に投資していただいているお客様に帰属する資産です。このことは、それぞれの戦略の投資先企業における議決権行使に関しては各戦略のポートフォリオ・マネジャーが最終的に責任を負っていることを意味します。その責任を果たすために、ポートフォリオ・マネジャーは、以下のような幅広い内外のリソースから推奨や支援を受けています。
- TRPAのESG投資コミッティー
- 当社の企業調査アナリスト
- 当社のコーポレート・ガバナンス・スペシャリスト・チーム
- 当社独自の責任投資モデル(RIIM)及び当社の責任投資チームから得られる知見
- 当社の議決権行使助言会社Institutional Shareholder Services (ISS)
影響力の慎重な行使
当社にとって、議決権行使は投資先企業との全般的な関係の1つの要素です。当社では議決権行使権限を、当該企業と当社の関係における他の側面を補完するために行使しています。投資先企業への影響力行使のためには、以下の手段も講じられています。
- 定期的かつ継続的な投資先企業の精査
- 投資先企業経営陣とのESG問題に関するエンゲージメント
- 投資先企業の取締役会メンバーまたは上位経営陣との面談
- 当該ポートフォリオにおける投資比率の増減を決定
- 新規投資または全売却の決定
- 状況に応じて、投資先企業に関する公式声明を表明(経営陣への支持表明、または当該企業の長期的な最善の利益につながるように方針変更を促す)
TRPAのような大手機関投資家は、第三者機関から企業提案にどれだけ反対したかによって常に評価を受けます。当社の場合、私たちの戦略に投資していただいているお客様が株式を保有される企業と敵対することを目的とするものではないことを明確にしておきます。
議決権行使のフレームワーク:原則主義またはケースバイケース
議決権行使においては個別に判断し、当該企業の状況を考慮すべきか、それとも全ての企業に対して原則を一律に適用すべきか?いずれのアプローチが最適かを巡る議論があります。私たちはどちらも正解だと考えます。
議決権行使では、原則に基づいたアプローチで対処できる分野が多く存在します。例えば、当社の議決権行使ガイドラインは、取締役会の適正な水準の独立性、確固たる株主の権利、役員報酬と企業業績の連動の推進を目的としています。しかし、ガイドラインと投票結果の整合性を担保するうえでケースバイケースのアプローチが必要な分野があります。それが特に当てはまるのが株主提案です。
株主提案に原則主義のアプローチを適用するのが困難である主たる理由は、株主提案の場合、他の議決権行使のカテゴリーと比べ微妙な判断が必要だからです。とりわけ、価値の創造や保全を目的としない提案が大半を占める時代においては、原則主義に基づくアプローチの適用はより困難になっています。
例えば、私たちは取締役の独立性を判断するために一連の客観的指標を用います。指標に基づいて賛否を決めるだけで済む場合は、既存の取締役の選任に反対票を投じ、企業側に社外取締役との交代を提案するという単純な流れとなります。しかし、株主提案の多くは、取締役の交代だけでなく、交代の具体的な方法まで指定しています。さらに、環境・社会問題についても、対応策の変更を求める点には賛同できるものの、提案された変更案には賛同できないというケースもあります。
米国における反ESG運動によって、2023年の私たちの議決権行使の意思決定のフレームワークはさらに複雑さを増しました。私たちは世界中のお客様からご意見をいただく複数のルートを構築しているため、多くのお客様がESGインテグレーションやインパクト投資を優先していることを知っています。しかし、それを上回る数のお客様は反ESGの動きなどについて見解を明らかにしていません。一部のお客様はESG推進の流れが投資成果や地域経済に及ぼす潜在的な影響に否定的な見解さえ持っています。私たちの目的は、当社のお客様の優先事項と当社の運用活動の中で、ESG課題が果たす役割に関してバランスのとれた全体像を把握することです。
ESGファクターを、TRPAの議決権行使も含むフレームワークに組み入れる当社の全体的なアプローチの要はリサーチです。その目的は、当社のアナリストとポートフォリオ・マネジャーで構成する運用チームに投資の知見を提供することです。当社は、視点、考え方、時間軸、投資目的が異なる多様なお客様への受託者責任を担うグローバルな資産運用会社です。そのためリサーチの主要な目的は、特定の価値観を反映する投資戦略を構築することではなく、様々な見方(環境、社会、ガバナンス、倫理)を通して、お客様のポートフォリオを構成する銘柄について理解を深めることです。
2023年にTRPAのポートフォリオ・マネジャーは、世界の主要市場において合計1,921件の株主提案の議決権を行使しました。そのうちの1,031件は取締役の選任または選任手続きに関する提案でした。また、363件は企業に特定のコーポレート・ガバナンス慣行の導入を求めるものでした。
残りの527件は環境・社会・政治(ロビー活動)課題に関する提案でした。図1ではこれらの提案を4つに分類しました2。
TRPAの議決権行使指針策定のプロセス
私たちのサステナビリティに関連する株主提案への取り組みは、議決権行使の責任のごく一部です。これらの提案に対する行動は、企業を取り巻く全体的な環境に応じて進化し続けます。株主提案に対する私たちの対応には、規制の変更、開示の改善、ステークホルダーの動き、企業固有のイベント、これらの問題に関する当社の運用プロフェッショナルの見解が反映されています。
TRPAのESGコミッティーは、株式、債券、マルチアセット部門のアナリストとポートフォリオ・マネジャーを含む経験豊かな運用プロフェッショナル、および各運用部門責任者で構成されます。さらに、部門横断的な知識を備えた社内弁護士、運用オペレーションを含む関連各部門の責任者も参加します。ESGコミッティーは、コーポレート・ガバナンス責任者と責任投資調査部門ディレクターが共同議長を務めます。
ESGコミッティーは、前年のサステナビリティ関連の議決権行使結果を検証し、議決権行使ガイドラインへの追加や削除を検討します。
ESGパフォーマンスの説明責任を果たすための様々な手段
TRPAの議決権行使プログラムにおいて、環境・社会関連の要素に対する私たちの見解が表明されるのは株主総会決議だけにとどまりません。例えば、世界中のほぼ全ての企業の株主総会の定例議案において取締役が再任されています。私たちは、取締役の再任を決議する前に、再任される取締役の実績を、事業における環境・社会関連の監督責任を含めて、様々な角度から評価します。
以下の3項目の議決行使ガイドラインは、議決権行使においてどのような事項が考慮されているかを示しています。
- 気候変動への取り組みの透明性のギャップ:温室効果ガスの高排出産業に属する企業について、投資家がリスクを評価するのに十分な排出量データを開示していない場合は、原則として取締役の選任に反対します。
- 取締役会の多様性:取締役会の性別の多様性について、全世界で最低基準を設定し、規制や市場基準がある地域にはより高い基準を適用しています。
- 株主の権利:3年任期で取締役の改選時期をずらし、取締役の過半数の交替をしにくくする仕組みをとっている米国の伝統的企業に対しては、投資家への説明責任を後退させるため原則反対しています。
ガバナンスの監督と責任投資
議決権行使はティー・ロウ・プライスの運用部門が担う機能で、ティー・ロウ・プライスが所有する様々な投資顧問会社(TRPAとTRPIMも含まれます)の取締役会が監督責任を担っています。各投資顧問会社はフィデュシャリー・デューティーを通じて、長期投資を行ううえで重要な要因を考慮し、顧客の利益の追求のみを目的に議決権を行使する責務を負っています。
TRPAのESG運用コミッティーは全てのファンド(米国ミューチュアル・ファンド、SIVAV、信託、OEIC)の取締役会に毎年報告書を提出します。その中でTRPAは、行使パターンの前年からの変化、議決権行使ガイドラインの修正、潜在的な利益相反の管理に関する議論などを詳しく示します。環境・社会・政治(ロビー活動)に関する議決権行使の詳細な分析も含まれます。
ティー・ロウ・プライスの各投資顧問会社の取締役会に加え、上場会社であるティー・ロウ・プライス・グループ・インク(以下、「グループ」と言います)は独自の取締役会を擁しています。グループの取締役会もESG戦略、環境フットプリント、人材管理、リスク管理などを監視する立場上、ESG問題に関心を持っています。
ティー・ロウ・プライスの各投資顧問会社のESGへの対応は、グループの取締役会にとっても戦略的関心事であるため、TRPAのESG責任者がグループ取締役会に年次報告を行っています。報告で重視されるのはテクノロジー関連リソース、人材、ツール、トレーニング、ESG目標に沿って運用される商品など、ESGへの対応を改善させるためのTRPAの各種投資項目です。議決権行使活動に対する監視は投資顧問会社取締役会の責任であり、通常、グループ取締役会では議論されません。
気候変動リスクに対するグループと運用部門の整合性レビュー
2023年、ティー・ロウ・プライス・グループ・インク取締役会の要請に基づき、気候変動に関するグループの方針、見解及び声明と、ティー・ロウ・プライスの各投資顧問会社による議決権行使活動について整合性比較を更新しました。レビュー手法や指摘事項など、本件に関する詳細な情報は本レポートの補足資料をご確認ください。(補足資料: 気候変動リスク整合性レビュー)
結論
投資顧問会社は、サステナビリティとガバナンスの問題に関する専門知識や知見の構築に多大なリソースを投資しています。アクティブ運用アプローチと同様、ESGに関する議決権への賛否は、企業ごとの特定のESGリスク、成長機会、開示などを考慮し、ケースバイケースの分析に基づいて判断されます。
ESG課題に関する株主提案の質、意図、有効性は非常に多岐にわたります。適切な目標に設定された提案は企業に特定のリスク管理の強化を促すうえで有効で、投資家にとって最良の結果に繋がります。TRPAは、2023年の提案の大半について、提案者の目的が経済的リターンを追求する長期投資家の目標とは明らかに一致していないと判断しました。そうした提案に対する議決権行使に最も責任あるアプローチは、私たちが長年にわたって一貫して使用してきた思慮深く、投資に重点を置いたフレームワークを適用することだと確信しています。
ステップ1:基本的視点
プライス・アドバイザーズ及びティー・ロウ・プライス・グループ・インク(以下、「両社」と言います)は、文書で気候変動に直接言及しています。双方の会社情報開示方針の中で、「当社のTCFDへの支持は、当社が気候を重大なリスクとして認識し、資産管理エコシステム全体を通して情報開示の改善の必要性を理解していることを示すもの」と述べています。また、双方は、グループの投資顧問会社及び発行体の両方の立場から、気候変動問題がその双方にもたらす影響にも言及しています。
資産運用会社である私たちは、何よりもまず受託者でありその責任を負います。受託者の視点から、財務実績とリスク管理に重点を置き、気候変動を考慮しています。私たちは、円滑な気候変動への移行が、より安定した経済環境の創造、不確実性の軽減、企業投資の促進をもたらすと信じています。これにより、私たちがお客様に代わって投資する企業や証券の長期的な成果の向上が可能になると考えます。
当社のESG投資を紹介するウェブページでは、気候変動問題の分析を当社の運用プロセスにどのように組み込むかを包括的に開示しています。
2023年開示における前年からの最大の変更点は、ティー・ロウ・プライス・グループ・インクがネットゼロ・アセット・マネジャーズ・イニシアティブ(NZAM)のメンバーになったことです。
結論:両社にとって、気候変動は引き続きサステナビリティ情報開示における重要なトピックです。
ステップ2:開示
両社とも、投資家が気候変動リスクの評価とその低減に着手するために企業がとれる最初の重要なステップは、温室効果ガスの排出量とその削減計画の開示であると明記しています。グループの2023年開示には、スコープ1及びスコープ2の温室効果ガス排出量とスコープ3の主要な排出源が含まれています。これは、私たちがプライス・アドバイザーズの開示方針で表明している一般事業法人の期待と一致しています。
両社とも、そのような開示に向けた望ましいフレームワークとして気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)を挙げています。また、一般的なサステナビリティの開示フレームワークとして、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)を挙げています。
「企業」サイドでは、TCFDフレームワークの賛同企業であるグループは2022年TCFDレポートを発行しました。このレポートには中長期的な温室効果ガス削減目標が含まれています。
プライス・アドバイザーズでは、2022年ESG投資アニュアル・レポート及びその他の文書において、投資先企業とのエンゲージメントでは、TCFDフレームワークの採用の推奨を含む、環境関連開示の改善に向けた働きかけが中心になることが多いと記載しています。
結論:両社とも、環境関連開示の共通フレームワークとして特にTCFD及びSASBの使用を推奨しています。
ステップ3:議決権行使
顧客の最善の利益追求を目的に投資先企業に対する議決権を行使する責務を果たすため、TRPA及びTRPIMの中にESG投資コミッティーを設置し、議決権行使プロセスを監視し、議決権行使ガイドラインを策定・管理する独立した機能を持たせています。ガイドラインには、数社の株主総会で気候変動に関する株主提案が議決権行使の対象になったことが記載されています。一方、環境関連の株主提案についての具体的なガイドラインはありません。
これは、ファンダメンタルズを重視する運用機関として、企業固有の状況を踏まえて個別に検討すべきであるとの信念によるものです。
地理的所在地、ビジネスモデル、規制、経営陣、エネルギー移行の長期的性質などから、企業が受ける気候関連リスクの影響は異なります。企業の開示水準も、気候変動に敏感な業種に属する大企業がTCFDフレームワークに完全に則って行う報告から、スコープ1の温室高ガス排出量の測定すら始めていない中小企業まで、極めて大きな差があります。従って、TRPAの議決権行使ガイドラインでは、気候関連の株主提案をケースバイケースで分析するアプローチをとっています。
グループの企業活動に関する文書には、プライス・アドバイザーズによる議決権行使についての具体的な開示はありませんでした。グループやその取締役会が傘下運用会社の議決権行使やその監視に責任を負っていないことを考えれば、妥当であると考えます。
2023年開示では、グローバル・イニシアティブのNZAMへの参加に関して、フィデュシャリー・デューティーを負う運用機関として当然と強調しています。NZAMへの参加によって、グループの運用の意思決定や議決権行使ガイドラインが制約を受けることはありません。プライス・アドバイザーズが株主提案について、当社のお客様の経済的利益と整合していないと判断する際のガイドラインがフィデュシャリー・デューティー・フレームワークです。
結論:プライス・アドバイザーズの議決権行使とティー・ロウ・プライス・グループ・インクの開示方針や実際の開示との間に不整合な点は確認されませんでした。
レビュー結果の概要
上記の文書をレビューした結果、以下のように結論付けました。
- 気候変動に関連する投資リスクについての双方の一般的かつハイレベルの視点は整合的である。
- 両社ともTCFDやSASBの報告フレームワークを強く支持していることが、その整合性をさらに裏付けている。
- 議決権行使に関する両社の開示に不整合な点はない。
加えて、プライス・アドバイザーズによる2020~23年(「賛成?反対?株主提案」分析が行われてきた期間)の議決権行使実績は議決権行使ガイドラインと整合しており、気候関連提案についてケースバイケースで分析していることを強く実証していると結論付けました。
ティー・ロウ・プライスは気候変動に関する様々なステークホルダーの利益を運用上の重要な考慮事項であると理解し、運用の意思決定に織り込んでいます。ステークホルダーにはティー・ロウ・プライス・グループ・インクの株主、地域社会、当社社員のほか、プライス・アドバイザーズのお客様も含みます。
当社では、一貫性のある報告を行い企業活動と運用活動の双方を率直に評価することが重要と考えます。
4年目を迎えた本レポート「賛成?反対? 株主提案」では環境・社会・政治(ロビー活動)関連の株主提案に対するティー・ロウ・プライス・アソシエイツの議決権行使について紹介しました。今後も本レポートを年次で発行するほか、全ての投資先企業の議案別行使結果を年2回公表する予定です。
重要情報
当資料は、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ・インクおよびその関係会社が情報提供等の目的で作成したものを、ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社が翻訳したものであり、特定の運用商品を勧誘するものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。当資料はティー・ロウ・プライスの書面による同意のない限り他に転載することはできません。
資料内に記載されている個別銘柄につき、売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、当社ファンド等における保有・非保有および将来の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。投資一任契約は、値動きのある有価証券等(外貨建て資産には為替変動リスクもあります)を投資対象としているため、お客様の資産が当初の投資元本を割り込み損失が生じることがあります。
当社の運用戦略では時価資産残高に対し、一定の金額までを区切りとして最高1.265%(消費税10%込み)の逓減的報酬料率を適用いたします。また、運用報酬の他に、組入有価証券の売買委託手数料等の費用も発生しますが、運用内容等によって変動しますので、事前に上限額または合計額を表示できません。詳しくは契約締結前交付書面をご覧ください。
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