2024年3月 / インサイト
足もとにおける市場のインフレ期待は合理的ではない
「米消費者物価指数(CPI、総合)の対前年比上昇率が、2022年6月に9.1%でピークを付けた後も、2023年初頭まで6%超で高止まる」と考えた市場参加者はどれほどいたでしょうか。それほど、2021年から2023年のインフレ予想は極めて困難だったと考えています。多くの中央銀行関係者や大半のエコノミストでさえ予想を誤り、インフレに関する長年の前提を見直さざるを得ませんでした。
市場のインフレ期待を予測するにあたって、米国物価連動国債(TIPS)の「ブレークイーブン・スプレッド」が最良の尺度であると考えられています。実際、2024年3月15日時点において5年物で2.44%、30年物で2.28%の水準1にあります。しかし、2020年以降に経験したインフレ率のボラティリティを踏まえると、これらの数値は合理的ではありません。むしろ、インフレ期待は、年限毎に適度に乖離があるはずです。これはインフレがどこに落ち着くのか市場参加者が捉え切れていないことを意味するのでしょうか。それとも、インフレが沈静化すると考えているのでしょうか。
インフレの鈍化傾向は続くのか?
インフレの先行きに関する足もとの市場の見方は、2021年や2022年初頭ほど大きく分かれていません。当時の見通しは、「一時的」(大半の先進国の中央銀行の見方)と「根強い」という意見に分かれていました。もちろん、2023年が進むにつれ、インフレは総じて鈍化傾向をたどりました。大半のコメンテーターはこれが2024年も続き、米連邦準備制度理事会(FRB)や他の中央銀行が年内どこかの時点で利下げを開始できると考えています。
しかし、2024年初頭には、世界経済が予想されたほど急速に減速していないという兆候が見られ、インフレ圧力が再び高まるのではないかとの懸念が台頭しています。実際、2024年1月と2月の米CPIの一部は予想を上回り、1月の米非農業部門雇用者数の伸びは、コンセンサス予想を大幅に上回りました(ただし、1月の雇用者数の増加幅は後に下方修正されました)。
インフレはFRBの目標に近づいた後、再加速する見通し
コア・インフレ率は、FRBや欧州中央銀行(ECB)等が目標とする、2%前後まで低下するというのが私の見方です。しかし、より長期の見通しはそれほど楽観的なものではなく、インフレが再加速すると考えています。
人工知能(AI)の発展により、長期的には生産性向上が見込まれます。しかし、AIを製造業やサービス業全般の企業プロセスに導入するには、多くの時間や労働力が必要であり、コストがかかります。その結果、生産面の長期的恩恵が実感できるようになるまでには、AIが短期的なインフレ要因になると考えています。当社アナリストが数百社との企業面談から得られた膨大な事例証拠が、この見方を裏付けます。
中国はインフレに関するもう一つのワイルドカードです。同国の内需の低迷は、世界貿易を通じてモノのディスインフレ(場合によってはデフレ)を輸出していることを意味します。これが世界的に物価低下圧力をもたらす大きな要因となっています。
しかし、最近発表された新たな長期国債を財源とする景気刺激策により内需が持ち直せば、そうした要因が反転し、輸出価格を押し上げることになるでしょう。これはベースライン・シナリオではありませんが、重要なポイントは中国に対するセンチメントはサプライズが無い限り悪化傾向にあるということです。さらに、トランプ氏が米大統領に返り咲いた場合の追加関税によるインフレ面の潜在的な影響を考慮すると、インフレリスクは明らかです。
ティー・ロウ・プライス2の運用プロセスにおける最大の特徴は、見解が異なる同僚同士の協働です。私は、インフレが再加速するリスクを認識していますが、こうした見通しとは異なる見解もあります。当社債券部門の米国チーフエコノミストであるBlerina Uruçiは、長期的なインフレ予想についてより穏やかな見通しを持っています。
足もとはインフレが再加速しやすい環境にあると考えていますが、Blerinaのインフレ見通しを念頭に置きながら、インフレが鈍化傾向を維持するか注視しています。私はこの種の協働や異なる意見を考慮することが、ポートフォリオ・マネジャーとして最良の投資判断につながると考えています。
1 ブルームバーグ・ファイナンスL.P.
2 ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ・インク(TRPA)
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