2022年10 月 / グローバル・アセット・アロケーションの視点と投資環境

グローバル・アセット・アロケーションの視点と投資環境 2022年10月号

1. 市場見通し  2022年9月30日時点

  • 世界経済の見通しは依然不透明であり、各国中央銀行は経済成長鈍化が織り込まれる中、インフレ抑制のため引き締めを継続。
  • 米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ抑制姿勢を一層強め、経済的な痛みを覚悟で政策金利の予想軌道を引き上げた。エネルギー高騰によるインフレに直面する欧州中央銀行(ECB)は加盟国の財政的柔軟性の異なるユーロ圏において難しい舵取りを迫られている。イングランド銀行(BOE)は物価安定と年金制度を揺さぶる債券市場の混乱抑制の板挟みとなり、一時的な量的緩和を実施。 
  • 日本を含めた複数国の中銀は継続的な米ドル高に対する自国通貨防衛のため、外貨準備を用いた為替介入を迫られている。一方、中国はコロナ蔓延拡大の抑制と景気下支えのための支援策を継続。
  • グローバル市場の主なリスクとして、中銀の政策ミス、インフレの長期化、世界経済失速の可能性、中国のコロナ対策・経済成長のバランス、地政学リスクなどが存在。

2. ポートフォリオ・ポジショニング  2022年9月30日時点

  • 株式では中銀の積極的な引き締め姿勢と経済成長および企業業績の減速懸念から全体的に慎重姿勢を継続。
  • 日銀の緩和姿勢の継続と一部企業の業績は堅調さが見られることから日本株をオーバーウェイトに。
  • 景気鈍化懸念はシクリカル性の強いバリュー株に、金利上昇はグロース株に対して影響を与えるため、バリューとグロースのバランスを維持。
  • 債券では、株式に対するリスクヘッジとして、利回りが相対的に一層魅力的になった米長期国債のオーバーウェイト幅を拡大。
  • 魅力的な利回りや健全なファンダメンタルズに着目し、ハイイールド債を引き続き選好。

3. 市場テーマ  2022年9月30日時点

英国売り

英国債利回りの急騰を受けた年金基金の潜在的危機を回避するため、BOEが一時的に量的緩和に転じたことから、9月下旬に市場は大混乱に見舞われました。トラス政権の財政支出計画に伴う国債増発懸念で既に動揺していた英国債市場では、年金基金が金融機関からマージンコール(追加担保の差し入れ要求)を受けて英国債の売却を迫られるとの懸念が急速に広がりました。英ポンドは英国債の急落に連動し、対米ドルで記録的な低水準まで下落しました(図表1)。金融市場の混乱と英ポンド急落は、インフレ抑制や歳出抑制と年金制度崩壊の回避を目指す英中銀をとても厳しい状況に追い込みました。英国の災難は現在の環境に限ったことではありません。FRBを筆頭とする中銀の積極引き締めが先進国と新興国の通貨を軒並み圧迫しており、各国の輸入物価を押し上げ、外貨準備高の大幅減少につながっています。FRBが積極的な引き締め路線を継続する中、他の市場のボラティリティが上昇しており、脆弱性が一層顕著になっています。しかし、政局動向によって投資環境は今後も大きく変わりうる可能性もあります。

逃げ場のない投資家 

6月の安値からのサマーラリー継続への期待は、8月下旬のジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演によって裏切られる形となりました。緩和への転換か、少なくとも引き締め減速に繋がるヒントを待っていた投資家心理を冷やし、インフレ率の高止まりと米国外通貨の急落懸念もセンチメントをさらに圧迫する要因となりました。年初来でみるとリスク資産とキャッシュを除く安全資産はともに大きく値下がりし(図表2)、投資家の逃げ場となる資産がほとんどありません。一方で、一部の市場は魅力的になっています。なかでもハイイールド債券は利回りが10%近くに達し、リスクとリターンのバランスが取れた資産であるとともに歴史的に見ても魅力的なフォワード・リターンを提供する利回り水準になっています。景気後退リスクは依然高く、インフレはまだ収まっていませんが、ハイイールド債のファンダメンタルズは歴史的にも健全で、魅力的な逃避先とリスクに見合ったリターンを提供する可能性があります。

黒田日銀総裁の任期切れを見据えた市場の不安定化に備える

9月の国内消費者物価指数は前年比3.0%上昇と市場予想の2.9%を上回り、生鮮食品を除くコア指数も3.0%と31年ぶりの水準が継続しました。足元の日銀短観(全国企業短期経済観測調査)でも「物価全般の見通し」が上昇基調にあり、日銀の物価安定の目標値である2%に落ち着くまでに5年以上を要すると多くの企業が予想しています(図表3)。来年3-4月には公共交通機関の値上げが相次ぐ予定で、こうした「数十年ぶりのインフレ」を受けても、日本銀行の黒田総裁はかねてより賃金上昇がみられないことが金融緩和を継続すべき大きな理由と述べており、当面は現在の姿勢を崩さないと見られます。ただし、インフレや円安進行に直面する中で来年3月に着任する新総裁が様々な圧力にさらされる点には注意が必要であり、政府からの賃上げ要請も想定される中、賃金動向の変化や物価上昇の加速などが見られれば、市場では金融政策の変更も見越した投機的な動きが高まり、金利や為替の不安定化も予想されます。

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4. 各国・地域の経済環境  2022年9月30日時点

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5. アセット・アロケーション・コミッティのポジショ二ング   2022年9月30日時点

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P1 図表2で使用している指数について。グローバル株式:MSCI ACWI、グローバル投資適格公社債:ブルームバーグ・グローバル・アグリゲート、グローバルハイイールド社債:ブルームバーグハイイールド社債、キャッシュ:ブルームバーグ米財務省証券(3ヵ月)、米ドル:ICE米ドル(DXY)

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