2022年12 月 / インサイト

2023年の日本株の見通しは良好

世界の主要市場と乖離した政策には様々な示唆がある

サマリー

  • 日本の持続的な金融緩和姿勢は引き続き重要な注目ポイントだが、日本企業全般の健全性や割安感は今後の買い材料。
  • 近年、コーポレート・ガバナンスが継続的に改善し、株主リターンが向上してきているにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染、他国との金融政策の乖離、急激な円安により日本株の潜在力は影を潜めている。
  • 世界経済の減速は需要に影響を与えるものの、2023年の日本株の見通しに良好な兆しを示す複数の要因がある。

新型コロナウイルス感染拡大以降の日本の景気回復は、他の主要国より遅れていますが、インフレが相対的に抑制されていることは好材料です。そのため、世界的な金融引き締めの潮流の中でも、日本銀行は経済成長を刺激するために超緩和的な政策スタンスを維持することが可能となっています。日本の持続的な金融緩和姿勢は引き続き重要な注目ポイントですが、複数の要因が日本株にとって明るい見通しを示唆しています。とはいえ、円安は短期的に日本経済を支える巨大な輸出セクターに寄与すると見込まれる一方、世界経済の減速は需要の重しとなる可能性があります。

短期的見通しに影響を与える2つの要因

現在、日本で紙面を賑わしている2つの話題は日銀の断固とした金融政策スタンスと円安です。円は米ドルに対し、約30年ぶりの安値で取引されています。いずれも日本の短期的な見通しに重要な影響を与えると予想されるため、それぞれについて我々のインサイトを提供します。

(i) 他国と乖離した日本の超緩和政策

日本の消費者物価指数は2022年9月に対前年比で3.0%の上昇となり、日銀の目標インフレ率水準の2.0%を上回りましたが、欧米で記録された高い水準を大幅に下回っています。他の主要国で見られた高騰と比べて穏やかな水準にあるインフレ率のため、欧米で実施された積極的な利上げとは対照的に、日銀が金利を超低水準に抑えることを可能にしています。

日本のインフレ統計を詳細に調べると、食品とエネルギーの価格が主な物価上昇要因であり、それぞれ全体の4.6%と16.9%を占めています。しかし、食品やエネルギーの価格は変動しやすく、急速に下落する可能性もあります。そのため、年間賃金上昇率を、より持続的なインフレ指標として注目しています。これは日本の会計年度終了後である2023年4月から反映され始めると考えられます。日本企業は通常、年度末にかけて従業員や労働組合と翌年度の賃金交渉を行います。これにより、日本の賃金は上昇圧力がかかる可能性があり、この重要な賃金統計を受けて、日銀が最終的に2023年1-3月期後半辺りから金融緩和姿勢を転換する可能性があると見ています。

(ii) 円安

2022年の日本や世界全体におけるもう1つの重要な話題は、急激な円安です。他の主要中央銀行が利上げを行っている一方で、日銀が粘り強く金利をゼロ近辺に抑え込んでいることから、日本と他の先進国市場との金利格差が拡大しています。そのため、円は堅調な米ドルに対して30年超ぶりの低水準に下落しています。事実、この数ヵ月にわたる大規模な円買い介入でも、持続的な改善をもたらしていません。

しかし、今後の見通しについては、過去の経験から明るい見通しが得られます。円が同じように急激に円安となった1998年に、円は米ドルに対して3ヵ月未満で22%上昇し、その上昇の約3分の1がわずか2日間(10月6-7日)で発生しました。

あえて言うなれば、私たちが予想する2023年1-3月期末にかけて日銀がタカ派的となり、緩和姿勢から転換し始めると同時に、米連邦準備理事会(FRB)が積極的な引き締め姿勢を和らげるとすれば、円が短期間で急上昇する可能性があります。円安は日本の競争力を高め、多くの輸出企業に恩恵をもたらしていますが、当社の日本株運用戦略のパフォーマンスについて言えば、円高は当運用戦略が選好している内需型の優良企業に相対的に有利に働きます。

多くの要因が明るい市場見通しを示唆

堅調かつ改善する日本企業:

近年、コーポレート・ガバナンスが継続的に改善し、株主リターンが向上してきているにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染、他国との金融政策の乖離、急激な円安により、日本株の潜在力は影を潜めています。日本のコーポレート・ガバナンスの改善は長らく成果を収めてきましたが、海外の投資家からは十分に認識されていないと見ています。

足もとの不透明な世界経済情勢にもかかわらず、日本企業は引き続き記録的な水準で自社株買いを行い、株主に積極的に資本還元を行っています。これは日本企業の健全性およびコーポレート・ガバナンスの改善を示す非常に明るい材料です。経営陣による株主重視への絶え間ないプレッシャーは、長期投資家に多くの投資機会を生み出すと見ています(図表1)。

他方で、直近の日本の企業業績は堅調でした。米ドルに対して30年ぶりとなる安値に下落した円安は、TOPIXに占める割合が高い輸出企業にとって、特に強力な追い風となっています。

 

日本企業が公表した自社株買いの推移

割安なバリュエーション 

日本株の予想PER(株価収益率)は、長期平均の14.0倍に対して足もとでは12.3倍(2022年10月31日時点)で取引されています(図表2)。この背景の一つには、経済感応度が相対的に高い日本株が世界経済の減速を織り込んでいるためと思われます。

しかし、世界の中央銀行が世界経済の「ソフトランディング」で協調できれば、日本株は、他のどの主要市場よりも、現在の割安な水準から大幅に上昇する可能性があると考えています。日本におけるコロナ禍後の経済再開と段階的な入国制限の解除も、内需型企業の業績を下支えると見ています。

 

TOPIX構成企業の1株当たり利益と株価収益率の推移

安定的な政治

日本は世界で最も政治的に安定した国の一つと言えます。岸田文雄首相と自由民主党は、2021年10月に衆議院議員選挙で勝利し、2022年7月に参議院議員選挙でも勝利し権力基盤を強化しました。

自民党は、衆議院を解散しない限り、次の選挙まで3年以上にわたり国政選挙がなく、大きな懸念なく改革アジェンダや政策の多くを推進することができます。そのため、コロナ規制の緩和や入国制限の解除、原子力発電所の再稼働など、経済的に有益であるも、政治的に異論の多い政策を推し進めることができます。

エネルギー依存度の引き下げ

エネルギー純輸入国として、日本はエネルギー価格の高騰から日本経済や企業活動に負の影響が及んでいます。政府は日本のエネルギー依存度の引き下げを政策目標として掲げています。重要な点として、岸田政権は2022年8月、「次世代型」原子力発電所の開発・建設の計画を発表しました。 

これは2011年の福島原発事故後の重大な政策転換を示すものですが、日本の長期的なエネルギー依存度の引き下げ、温室効果ガス排出量を2050年までにネットゼロとする目標の達成を主眼としています。一方、政府は2023年夏から最大17基の原子力発電所の再稼働も計画しています。

短期的には、日本の相対的に低いインフレ水準は、他の先進国が経験する金融引き締め政策の影響に対する緩衝材となることで、引き続き経済成長を下支えすると考えられます。日銀の超金融緩和政策に並行して、企業のバリュエーションは割安で、外国人の入国制限の緩和が進み、経済の本格的な再開が見込まれ、多くの繰越(ペントアップ)需要の顕現化が期待されます。2023年の日本経済は、強弱微妙なバランス下にあるものの、様々な分野で明るい話題を提供すると見ています。

 

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投稿者 Archibald Ciganer、CFA

Archibald Ciganer、CFA 日本株式運用戦略 ポートフォリオ・マネジャー

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