2022年2 月 / インサイト

賛成?反対?株主提案2021

環境・社会関連の株主提案が注目を集める中、個々の議案に関する知見が賛否を判断するカギを握る

エグゼクティブ・サマリー

2回目の発行となる本レポートでも、環境・社会問題に関する株主提案に対する当社の議決権行使結果につき掘り下げた報告書をお届けします。

環境関連では、企業による開示の水準と質の改善を最大の目標としました。ただし、気候関連の提案ではある一定の行動を求めることが適切なケースもありました。

本レポートでは株主提案を分類し、分かりやすく当社がいかに議決権行使の判断に至ったかを説明します。

環境、社会、ガバナンス(ESG)について民間企業に建設的な対応を求める声が強まる中、株主提案は主要な企業が直面する課題への取り組みを促す重要なツールです。2021年は多岐にわたるテーマが出現するなか、引き続き長年培われたフレームワークに基づき、個別議案毎にもたらされる結果に留意し、議決権を行使しました。

受託者責任の一環としての議決権の行使

顧客のために行う議決権の行使は、スチュワードシップ責任(責任ある機関投資家が負うべき受託者責任)において重要な役割を果たしています。当社は、議決権の行使を、企業の株式保有に伴う権利であると共に、責任として捉えています。コーポレート・ガバナンスの基本原則と企業固有の状況を踏まえ、投資の観点から熟慮して議決権を顧客に代わり行使しています。ESGスペシャリストや当該企業を担当する運用プロフェッショナルとともに総合的に行使の判断を下します。議決権行使の最終的な目的は、企業とその投資家が長期的かつ持続可能な成功を収める議案を支持することです。

議決権は、ティー・ロウ・プライスのそれぞれの戦略に投資していただいている全てのお客様に帰属する権利です。言い換えれば、ポートフォリオ・マネジャーが担当する戦略にて投資している企業の議決権行使について最終責任を負うことを意味します。この責任を果たすために、ポートフォリオ・マネジャーは以下のような幅広い内外のリソースから投票に係る推奨や情報を得ています。

  • ESGコミッティー
  • 世界各地のセクター・アナリスト
  • コーポレート・ガバナンスや責任投資調査部門からなるESGスペシャリスト
  • 独自の責任投資モデル(RIIM)から得られる知見
  • 議決権行使助言会社であるInstitutional Shareholder Services(ISS)による分析・推奨

影響力を慎重に行使

当社では議決権行使は、投資先企業と関係を築くための一手段であると考えています。議決権の行使は、投資先企業との関係におけるその他の側面を補完するものと位置付けています。具体的には、議決権行使以外に以下の手段を用いて影響力を行使しています。

  • 定期的かつ継続的な投資先企業の精査
  • 投資先企業の経営陣とのESG問題に関する建設的な対話
  • 投資先企業の経営陣と面談し、率直な意見を表明
  • 投資先企業の取締役会メンバーとの面談
  • 投資比率の増減を決定
  • 新規投資または全売却の決定
  • まれに、長期的な観点から企業の最善の利益につながるよう経営陣を支持したり、経営陣に方針変更を促す公式声明を出す

どれだけ会社提案に反対したかによって、大手機関投資家が評価されるケースが散見されていますが、ティー・ロウ・プライスは議決権行使を通じて投資先企業と対立する意図はありません。むしろ、先に挙げた数々の方法を通じて働きかけた結果、投資先企業の株価が他社より相対的に良好に推移し、顧客の投資目標が達成されることを目標としています。

議決権は株主の重要な権利ですが、行使できるのは定時株主総会がある年1日に限定されます。当社では、長年培われ、熟考の末、日々において行使する影響力が重要であると考えています 。

規制や制約の度合いは市場により異なる

世界中の様々な市場にて、株主には定時株主総会にて議案を提出する権利が与えられています。しかし、こうした株主提案には様々な度合いの規制や制約が課されます。日本や北米、北欧などの地域は提出要件が比較的低水準であるため、個人や機関投資家により多くの議案が提出されています。一方、議案提出に大量の株式を長期間保有する必要がある市場においては株主提案の提出は比較的少ないのが実情です。

ティー・ロウ・プライスは2021年に1,098件の株主提案に対し議決権を行使しました。うち403件は取締役の指名に関するもので、372件は企業に特定のコーポレート・ガバナンス慣行の採用を求めるものでした。本レポートでは残り323件の環境・社会課題への対応を求める株主提案を取り上げます。図表1では、これらの提案を5つに分類しました。

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議決権行使のフレームワーク:原則主義か個別判断か?

議決権行使においては、原則に基づいて行使するか個別判断とするか、どちらのアプローチが最適かという議論があります。問題を個別に考察し、企業の事情を考慮すべきか、それともすべての会社に対し一律に原則を適用すべきでしょうか?実際、我々はどちらも正解だと考えています。

議決権行使では原則に基づくアプローチを効果的に導入できる分野が多く存在します。例えば、当社の議決権行使ガイドラインは、適切な水準の取締役会の独立性や確固たる株主の権利、役員報酬と企業業績の連動を推進することを目的としています。しかし、ガイドラインと投票結果の整合性を維持する上でケース・バイ・ケースのアプローチが必要な場合もあり、これが特に当てはまるのが株主提案です。

株主提案に原則主義のアプローチを適用するのが困難なのは、これらには他のカテゴリーと比べ微妙な判断が必要になるからです。例えば、我々は取締役の独立性を判断する目安として一連の客観的指標を用います。既存の取締役の選任に反対票を投じ、会社側に独立した取締役会メンバーとの交代を提案できれば話は簡単です。しかし、株主提案においては、取締役の交代だけでなく、そのための具体的な手法についても含まれています。また、環境・社会面の開示は不十分との意見に賛同することはしばしばあるものの、要求されている開示内容については必ずしも同意するとは限りません。

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ティー・ロウ・プライスの議決権行使指針策定プロセス

社会・環境に関する株主提案に対する我々の取り組みは、議決権行使に関連した責任のごく一部です。これらの株主提案に対する取り組み姿勢は、規制の変更、開示の改善、ステークホルダーによる動き、企業固有のイベント、これらの問題に対する当社の運用プロフェッショナルの見解を反映し、企業を取り巻く環境とともに進化し続けます。

ティー・ロウ・プライスのESGコミッティーは、アナリストやポートフォリオ・マネジャーを含む株式と債券両部門の経験豊富な運用プロフェッショナルやグローバル株式部門、インターナショナル株式部門の責任者で構成され、社内弁護士、並びに営業やオペレーション部門の責任者も含まれます。コーポレート・ガバナンス責任者と責任投資リ調査部門ディレクターが同コミッティーの共同議長を務めます。ESGコミッティーは毎年初めの会合で前年の議決権行使結果を検証し、議決権行使ガイドラインを見直し、ガイドラインへの追加や修正を検討します。

議決権行使ガイドラインを毎年見直す際は、(a)方針に反する決定の分析など前年の議決権行使行動パターンの検証や、(b)当社のリサーチや、議決権行使助言会社、当社の加入団体、株主提案の提出者からの外部情報に基づく今後注目を集めそうなESG問題の分析が行われます。

議決権行使ガイドラインをグローバルなESG動向の変化を反映した適切なものにするため、毎年、活発な議論が繰り広げられます。

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議決権行使のモニタリングとESGに対する取組み

議決権行使はティー・ロウ・プライスの運用部門が担う機能です。

ティー・ロウ・プライスが運用する様々なファンドにおいてはそれぞれの取締役会がその結果を監視しています。取締役会は、受託者として長期投資を行う上で重要な要因を考慮し、顧客の利益の追求のみを目的に議決権を行使する責務を負います。

ESGコミッティーはすべてのファンド(米国ミューチュアル・ファンド、SICAV、信託、OEIC)の取締役会に毎年報告書を提出します。その中では、行使パターンの前年からの変化、議決権行使ガイドラインの修正、潜在的な利益相反の管理に関する議論などを詳しく示します。社会・環境問題に関する議決権行使の詳細な分析も含まれます。

ティー・ロウ・プライスのファンドに対して直接的な監視を行うファンドの取締役会に加え、ティー・ロウ・プライス・グループ、インクは上場会社としての取締役会を擁しています。グループの取締役会もESG戦略、環境フットプリント、人材管理、リスク管理などを監視する立場上、ESG問題に関心を持っています。ティー・ロウ・プライスのESGへの対応はグループの取締役会にとって戦略的関心事であるため、責任投資調査部門ディレクターとコーポレート・ガバナンス責任者がグループ取締役会に年次報告を行っています。

報告で重視されるのはテクノロジー関連リソース、人材、ツール、トレーニング、ESGフレームワーク下で管理される商品など、ESGへの対応を改善させるための当社の投資です(ファンドにおける投資活動に対する監視はファンドの取締役会の責任であり、ファンドの議決権行使活動はここでは通常、議論されません)。

気候変動リスクに対するグループと資産運用会社の視点の整合性レビュー

2021年、ティー・ロウ・プライス・グループ、インク取締役会の要請に基づき、気候変動に関するグループの方針、見解および声明と、当社の資産運用会社による議決権行使活動について比較を行いました。

レビュー手法や指摘事項など、今件に関する詳細な情報は、本レポートの補足資料をご確認ください(補足資料:気候変動リスク整合性レビュー)。

結論

ティー・ロウ・プライスは、ESGの専門知識や知見の構築に多大なリソースを投資しています。ストラテジック・インベスティング(数字を超えた投資)と同様、ESGに関する議決権への賛否は、企業毎に特定のESGリスク、成長機会、開示などを考慮し、ケース・バイ・ケースの分析に基づいて判断されます。

議決権行使を含むESGファクターを運用プロセスに組み入れる当社のフレームワークは独自のリサーチを中心としており、アナリストやポートフォリオ・マネジャーなど運用チームに投資の知見を提供することを目的としています。ティー・ロウ・プライスはグローバルな資産運用会社として、視点、考え方、時間軸、投資目的が異なる多様な顧客への受託者責任を担っています。従って、我々の目的は、特定の価値観に基づく投資戦略の構築ではなく、様々な視点(環境、社会、倫理、ガバナンス)から、ポートフォリオの保有銘柄について理解を深めることです。

ESG課題に関する株主提案の質、意図、実用性は非常に多岐にわたっているのが現状です。適切な目標が設定された提案は企業に特定のリスクの管理の強化を促す上で極めて有効で、投資家にとってより良い結果につながります。一方、提案者の目的が経済的成果を重視する長期投資家の目的にそぐわない提案は効果を期待できず、有害な場合さえあります。従って、株主提案への最も責任あるアプローチは、投資に焦点を当てた思慮深いフレームワークを適用することだと考えています。

補足資料:気候変動リスク整合性レビュー

2021年、ティー・ロウ・プライス・グループ、インク取締役会の要請を受け、気候変動に関するグループの方針、見解および声明と、当社の資産運用会社による議決権行使活動について比較を行いました。

本レポートで「企業活動」と言う場合、それはグループ取締役会の監視下でのティー・ロウ・プライス・グループ、インクによる活動を指します。「投資活動」とは、顧客の代理として助言や資産管理を行うために設置されたティー・ロウ・プライスの様々な資産運用会社の活動を指します。これには、当社の米国ミューチュアル・ファンドおよびその他のファンドや、その他形態にて資産を受託している顧客全てを含みます。

当社が運用するファンドは総称して「ティー・ロウ・プライス・アドバイザー」と呼ばれ、それぞれの取締役会の監視を受け、各取締役会に対する説明責任を負っています。

ティー・ロウ・プライス・グループ、インクとその取締役会には、ファンドにおける議決権行使活動を監視する責任はありません。このような活動は各ファンドの取締役会の監視の下にて行われています。グループとファンドの株主やステークホルダーは明確に区別され、その利益も異なる場合もあります。よって、運用資産の議決権行使実績とティー・ロウ・プライス・グループ、インクの方針の間に非整合的な点があるかを検証しました。

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ステップ1:基本的視点

双方とも、文書の中で気候変動に直接言及しています。グループの開示資料では気候変動を「企業に対する継続的リスク」と表現し、「当社の事業を長期にわたって持続可能なものにするには、先を見据えた環境関連の慣行が必要である」と記述しています。資産運用に関する開示でも同様に次のように記しています。「気候変動を乗り切るにあたって我々の投資先がどのような態勢にあるかは、アナリストやポートフォリオ・マネジャーにとって重要な問題です。投資先企業が気候変動の影響をどのように評価し、環境面の持続可能性を長期の戦略立案にどのように組み込んでいるかを理解することは受託者責任の一部であると考えています。」

ステップ2:開示

双方とも、投資家が気候変動リスクの評価とその軽減に着手するために企業が取れる最初の重要なステップは、温室効果ガスの排出量とその削減計画の開示であると記載しています。また双方とも、そのような開示に向けた望ましいフレームワークとして気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)を挙げています。

ティー・ロウ・プライス・グループ、インクはTCFDフレームワークを支持しており、2020年サステナビリティ・レポートにTCFDのフレームワークに基づいた開示を盛り込んでいます。資産運用においても議決権行使ガイドラインの中で、TCFDの提言に沿った報告を求める株主提案に賛成票を投じる方向性を明記しています。

ESGアニュアルレポートやその他の文書にも、投資先企業に対するエンゲージメントでは、TCFDフレームワークの採用を推奨することを含め、環境関連開示の向上に向けた働きかけが中心になることが多いと記載しています。

ステップ3:議決権行使

顧客の最善の利益の追求のみを目的に投資先企業に対する議決権を行使する責務を果たすため、資産運用においてESGコミッティーを設置し、同コミッティーに議決権行使プロセスを監視し議決権行使ガイドラインを策定・管理する独立した機能を持たせています。ガイドラインには、各地で気候変動が議題になっていると書かれている一方、環境・社会に関する株主提案についての具体的なガイドラインはありません。これは、ファンダメンタルズを重視する投資家として、企業固有の状況を踏まえて検討すべきであるとの信念によるものです。

地理的所在地、ビジネスモデル、規制、経営陣、エネルギー移行の長期的性質などから、企業が受ける気候関連リスクの影響は異なります。企業の開示水準にも、気候変動に敏感な業種に属する大企業がTCFDに完全に則って行う報告から、スコープ1の温室効果ガス排出量の測定すら始めていない中小企業まで、極めて大きな差があります。従って、資産運用における議決権行使ガイドラインでは、環境・社会に関する株主提案をケース・バイ・ケースで分析するアプローチを取っています。

グループの文書には、議決権行使についての具体的な開示はありませんでした。グループやその取締役会はファンドなど資産運用における議決権行使基準や行使に対し監視に責任を負っていないことを考えれば、これは妥当であると考えます。

レビュー結果の概要

上記の文書をレビューした結果、以下のように結論付けました。

    1. 気候変動に関連する投資リスクについての双方の一般的、基本的視点は整合的である

    2. 双方ともTCFDの報告フレームワークを強く支持していることが、その整合性をさらに裏付けており、

    3. 議決権行使に関する双方の開示に不整合な点はない

    加えて、資産運用における2020年と2021年の議決権行使実績は議決権行使ガイドラインと整合しており、気候関連提案の各々をケース・バイ・ケースで分析していることを強く実証していると結論付けました。

    ティー・ロウ・プライスは気候変動におけるさまざまなステークホルダーの利益を投資上の重要な考慮事項であると理解し、投資判断に織り込んでいます。ステークホルダーにはティー・ロウ・プライス・グループ、インクの株主、地域社会、当社社員のほか、資産を受託している顧客など、資産運用におけるステークホルダーも含みます。

    当社では、一貫性のある報告を行い、グループと資産運用双方において活動を公平に評価することが重要であると考えています。2年目を迎えた本レポートでは、環境・社会関連の株主提案に対する資産運用を通じ行使した議決権について詳細に記載しました。今後も本レポートを年次で発行するほか、全ての投資先企業について議案毎に行使結果を年に2回公表(troweprice.com/esg)しています。

    当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。

    重要情報

    当資料は、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ・インクおよびその関係会社が情報提供等の目的で作成したものを、ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社が翻訳したものであり、特定の運用商品を勧誘するものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。当資料はティー・ロウ・プライスの書面による同意のない限り他に転載することはできません。

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    当社の運用戦略では時価資産残高に対し、一定の金額までを区切りとして最高1.265%(消費税10%込み)の逓減的報酬料率を適用いたします。また、運用報酬の他に、組入有価証券の売買委託手数料等の費用も発生しますが、運用内容等によって変動しますので、事前に上限額または合計額を表示できません。詳しくは契約締結前交付書面をご覧ください。

    「T. ROWE PRICE, INVEST WITH CONFIDENCE」および大角羊のデザインは、ティー・ロウ・プライス・グループ、インクの商標または登録商標です。

     

    ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社

    金融商品取引業者関東財務局長(金商)第3043号

    加入協会:一般社団法人日本投資顧問業協会/一般社団法人投資信託協会

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