2021年10 月 / インサイト
クリーンエネルギー推進法案が主要セクターに及ぼす影響
再生可能エネルギー普及には電力供給網の刷新がカギを握る
今後2ヵ月の間に超党派のインフラ投資法案と歳出法案が成立すると、ジョー・バイデン政権の功績にとって重要な一歩となりそうです。バイデン大統領は連邦機関の監督権限に加え、法制面の権力を行使し、米国の電力業界に対して2035年までにネットゼロ目標を達成するよう働きかけています。これらの動きはエネルギーや公益、資本財・サービスセクターの企業に多大な影響を及ぼす見込みです。
2021年8月の上院通過後に下院での修正が予定されている超党派のインフラ投資法案は以下の3つの目標に730億米ドルを配分します。
- 老朽化した電力供給網の刷新
- 必須エネルギーサプライチェーンの確保
- 炭素貯留や再生可能エネルギーを利用したグリーン水素の生産等、新たなクリーンエネルギー技術の開発支援
近年、太陽光発電や風力発電のコスト競争力が改善していることや温室効果ガス削減を後押しする様々な動きを背景に、化石燃料からクリーンエネルギーへの移行が加速しています。連邦政府の法案がこのトレンドを更に加速させ、投資家は政策の方向性の変化から恩恵を受ける企業を特定するために、潜在的な影響を深く理解することが求められます。
クリーンエネルギーへのシフトに伴う送電網刷新の必要性
米国の送電網は様々な面で改善が必要です。設計面では、一元化された大規模電力プラントからの送電を優先する古い仕組みとなっています。このようなアプローチには、ハッキングや気候変動を背景とした異常気象によるセキュリティリスクやサービス維持に係るリスクなどが伴います。これらの根本的な問題を解決するには、風力や太陽光発電、その他のクリーンエネルギー技術に対応するための多額の投資が必要であると同時に、化石燃料を利用しているプロセスを電化に移行させるという需要サイドの課題にも対処する必要があります。
実用規模の太陽光や風力発電設備の大半は効率性を重視し、都市部から離れたエリアに装備されるとみられます。そのため、電力を消費者に届ける上で、より大規模な送電網と変電所が新たに必要となります。同時に、これらのクリーンエネルギーの発電量は変動するため、常に需給を一致させることが困難です。顕著な例として、太陽光発電は日中に発電量がピークに達する一方で、需要のピークは通常夜間です。また、電気自動車に絡む需要の急騰により、このような需給の不均衡の管理は一層困難となります。将来的には、一般家庭や商業用ビルにおいて空調や給湯の電化が進むことで問題がより複雑化する可能性があります。
再生可能エネルギーや電化の普及を進めつつ電力供給が混乱するリスクを抑制するには、より機動的に電力の負荷と可用性のバランスを取ることが必要と考えています。そのためには、送電容量の引上げや電池を用いた貯蔵システム、スマートテクノロジーへの投資が求められるでしょう。
財政調整法案を注視
民主党は上院での単純過半数で可決できる財政調整措置を利用し、追加支出パッケージの成立を目指しています。これには、クリーンエネルギープロジェクト対象の税控除を延長し、新興技術を対象とした新たな税控除を設定し、電力業界に温室効果ガスの削減を迫る他のインセンティブが含まれます。
とはいえ、投資家は支出額やインセンティブの期間については流動的であることを心に留めておく必要があります。
長期のトレンドは支援材料
クリーンエネルギーへの転換は技術面のイノベーションと社会の要請が後押しする長期にわたるトレンドであり、今後数十年にわたり起こるものであると考えています。バイデン政権の温室効果ガス削減へ向けた意欲的なアプローチが追い風となり、既に確立されたクリーンエネルギーソリューションの採用を促進し、新たな技術の普及の支援材料となる可能性があります。
電力業界と電力需要が大きな市場における広範なイノベーションや混乱を考慮すると、超党派のインフラ法案及び他の法令や規制面の進展は、クリーンエネルギーの採用、経済全般、公益やエネルギー、資本財サービスセクターのダイナミクスにとって重要な意味合いを持つでしょう。
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