2021年1 月 / インサイト
2021年に債券投資家が直面する3つの重大な問題
現在の厳しい環境では柔軟なアプローチが求められる
サマリー
- 債券市場を取り巻く現在の環境は、債券の分散効果、潜在リターン、流動性に係る重大な問題を投資家に突き付けている。
- 国債価格、特にイールドカーブの長期部分はボラティリティが高まる可能性があることから、より柔軟なアプローチが求められるだろう。
- ダイナミック・グローバル・ボンド運用戦略は、2020年の市場の荒波を見事乗り切り、定期的なリターンの創出、ダウンサイド・リスクの管理、分散効果の発揮という目標を達成した。
新たな年が始まりましたが、少なくとも1つ変わらないことがあります。それは債券利回りが相変わらず低いことです。投資家はこの環境がもたらす試練とリスクを十分に理解していない可能性があります。そこで今回、投資家が2021年に考慮すべき3つのリスクとして、1) 債券の分散効果、2) 潜在リターン、3) 流動性特性を取り上げました。
1. ポートフォリオの分散:債券の分散効果は今でも有効か?
債券は従来、株式などリスク資産が下落する時に好成績を残すことから、ポートフォリオの分散に適した資産クラスでした。これはバランスのとれたポートフォリオを構築するために債券がリスク軽減手段として投資家にしばしば利用されたことを意味します。
しかし、今は債券利回りが非常に低いことから、当然ながらこのアプローチの有効性が疑問視されています。2020年1-3月期はドイツの主要株価指数が25%下落1したにもかかわらず、独国債は2%の上昇2にとどまり、現在の低金利環境では債券の分散効果が働かないことを示しました。
こうした状況が続くと、投資家はリスク軽減の手段として国債のみに頼るわけにはいかなくなり、2021年は債券に代わる新たな分散先を見つけることが優先課題となるでしょう。それには、相対価値に基づくポジショニング、ボラティリティ関連の金融商品、そして非相関な潜在的投資機会から利益を得るための徹底したリサーチを駆使したより機敏なポートフォリオ構築が必要となります。
期間別パフォーマンス
(図表1)ダイナミック・グローバル・ボンド(米ドルヘッジ)運用戦略コンポジットのパフォーマンス(対3ヵ月米ドルLIBOR)
2. 利回り:債券利回りはどこまで下がるのか?
各国中央銀行の積極的な金融緩和策が債券利回りを過去最低の水準に押し下げています。新型コロナウイルスを巡る不透明感が依然強いため、利回りがさらに低下する可能性もありますが、最大の変化は既に起きたと思われます。米2年国債利回りは0.12%で2020年を終え、既に米連邦準備理事会(FRB)のFFレート誘導目標レンジ(0~0.25%)内にあります。日本やドイツなど他の主要国でも昨年末の状況は同様でした。
中銀が近い将来に利上げに動く可能性は低いものの、景気の持ち直しがインフレ上昇につながる場合は特に、何らかのテーパリング(量的緩和の段階的縮小)の可能性は排除できません。各国政府が新型コロナ対策で未曽有の財政出動に動いた後だけに、さらなる財政拡張計画が示唆されると、利回りに一段と上昇圧力がかかりかねません。こうした状況から、国債価格、特にイールドカーブの長期部分はボラティリティが高まる可能性があります。従って、2021年はアクティブなイールドカーブ管理や大幅なデュレーションの変更を行う能力が重要になるでしょう。インフレ連動債にも今年は追い風が吹くかもしれません。
3. 流動性:流動的な資産は?
2020年3月、市場の流動性が枯渇するという2008年の世界金融危機以来の事態が起きました。発端はクレジット市場で、最終的に債券市場の全セグメントにまで影響が及び、信用逼迫が最も厳しかった時は流動性が一番高い米国債市場でさえ価格形成に歪みが生じました。このエピソードは、流動性は必要とされる時にこそ払底するという教訓を呼び起こし、様々な市場環境下における債券の流動性特性を分析することが常に重要であることを教えてくれます。
また、2020年3月の出来事はどの証券やセクターが今後、流動性が高いとみなされるかという問題を提起します。現在、国債以外の分野で流動性を求める必要があると考えています。例えば、2020年は他の資産が苦戦する中でも、合成クレジット・インデックスなどデリバティブ商品と通貨市場はどちらも流動性を提供しました。このため、私がリード・ポートフォリオ・マネージャーを務めるダイナミック・グローバル・ボンド運用戦略では、両資産への配分を増やしました。また、2021年はオプションをより活用して、突然のボラティリティ上昇に乗じる機会を捉えたいと考えています。
四半期パフォーマンスの内訳
(図表2)ダイナミック・グローバル・ボンド(米ドルヘッジ)運用戦略コンポジット
当運用の絶対リターン・アプローチは現在のような環境に適している
前述の3つのリスクがもたらす試練を乗り切るには、柔軟なアプローチが有効と考えています。ダイナミック・グローバル・ボンド運用戦略は、以下の3つの明確な目標を掲げています。
1. 一貫した持続可能なリターンの創出
当運用は、クーポン収入やキャピタルゲインから一貫した持続可能なリターンを創出することを目指しています。その際、複数の地域や市場への分散が重要です。我々の強みは投資アイデアを生み出す大規模なグローバル・リサーチ体制です。80ヵ国、40通貨、15セクター超を網羅する充実したリサーチ体制は、市場の非効率性を特定し、債券ユニバースに存在する潜在的な投資機会に乗じることを可能にします。我々はリスク管理が非常に大切であることを肝に銘じ、規律あるリスク管理を心掛けています。また、個別のポジションやポートフォリオ全体のリスクを分析、モニターすることに注力しています。
2. 元本保全とダウンサイド・リスクの管理
当運用は、潜在的な金利上昇などのダウンサイド・リスクの管理を通じ、損失の最小化と元本保全を目指します。当運用は質の高い銘柄に重点を置くアプローチであることから、ポートフォリオ全体のデュレーション管理における裁量が大きく、異なる市場環境やサイクルに対する柔軟かつ迅速な対応が可能です。
例えば、金利上昇時は、債券先物や金利スワップで潜在的損失の最小化を図り、デュレーションをマイナス1年まで短縮できます。対照的に、金利低下時は、潜在的利益を最大化するためデュレーションを最長6年まで伸ばすことが可能です。2020年は特に戦術的なデュレーション管理が奏功しました。年初はポートフォリオ全体のデュレーションをマイナスにしていましたが、2月に大きく方向転換し、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、デュレーションを大幅に長期化しました。米国のデュレーションをショートからロングに変えるなど一連の変更の結果、1-3月期は他の多くの債券戦略が苦戦する中、当運用はプラスのリターンを確保することができました。
3. リスク資産下落時の分散効果
株式などのリスク資産が調整局面にある際にもプラスのリターン創出を図ります。市場の混乱期におけるリスク資産の下落から収益を得るために、新興国通貨のショート・ポジション、ディフェンシブな市場への配分、オプションを通じたボラティリティのロングなど様々なヘッジ・ポジションを駆使します。当運用では債券の質を重視しており、ポートフォリオの大部分を流動性や質が高く、ボラティリティの低い国債に配分しています。これは機動的な運用や市場状況の変化への迅速な対応に役立ちます。
2020年3月のように、クレジット商品が急落した際、割安な優良銘柄に選別的に投資を行う裁量も与えられています。クレジット商品に関しては単なるバイ・アンド・ホールドではなく、その配分をアクティブに管理しているのが重要な点です。我々はグローバル・リサーチ体制を活用してベストアイデアを厳選し、通常はデリバティブ商品を使いクレジット・ベータを一部排除します。これによってポジションの潜在的アルファに限定したエクスポージャーを維持することができます。
2020年:我々のアプローチが試された年
2020年は市場環境が激変し、ボラティリティが高まる波乱の年でしたが、ダイナミック・グローバル・ボンド (米ドルヘッジ) 運用戦略はすべての四半期においてベンチマークの3ヵ月米ドルLIBORを大きくアウトパフォームしました。 昨年は当運用のアプローチが試される重要な年でしたが、一貫した持続可能なリターンの創出、元本保全、リスク資産下落時の分散効果という目標を達成できたと考えています。
2021年に関しては、1)超緩和的な金融政策、2)拡張的な財政政策、3)サービスに対する大きな繰越需要、4)ワクチン普及でより通常に近い生活が戻るという期待、という金融市場の強気ムードを支えるテーマがあります。
これらのテーマが続く限り、市場を支えるポジティブなトーンは崩れそうにありません。当運用では今後も厳格な投資プロセスを継続し、世界中の相対的に魅力的な投資機会を発掘する一方、ダウンサイド・リスクを管理するため、国別配分、デュレーション、イールドカーブのポジショニングのバランスが取れたポートフォリオを維持することに努めます。2021年は投資アプローチの柔軟性が鍵を握ると考えており、市場状況の変化への迅速な対応を心掛ける当運用がその真価を発揮できるときです。
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GIPS® コンポジット・レポート
ダイナミック・グローバル・ボンド (米ドルヘッジ)運用戦略コンポジット
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