2024年5 月 / インサイト
ダイナミック・クレジット運用戦略:運用責任者Saurabh Sudに聞く
サマリー
- 2019年以来の異なる市場環境は、柔軟で差別化されたリターン源泉にアクセスできる戦略の重要性を際立たせている。
- 当戦略は、単一の資産クラスの特化型運用ではなく、柔軟なマルチアセット・クレジット・アプローチを採用し、リサーチ体制を活用して投資機会を見出す。
- デュレーション管理やファンダメンタルズに基づくクレジットのショートなど、投資手法をフル活用することは、複数のクレジット/金利サイクルを乗り切るために重要。
Saurabh Sudは、ダイナミック・クレジット運用戦略のポートフォリオ・マネジャーに就任して5年目を迎えました。本書では、2019年1月の運用開始以来、クレジット投資家と債券市場にとってボラティリティが異常に高い局面を通して、当戦略をどのように運用してきたかを論じています。また、成功と教訓について論じるとともに、幅広い投資機会にわたり分散されたクレジットのリターン源泉を見出すことにより、魅力的なパフォーマンスを追求する当運用のプロセスについても解説します。
ポートフォリオ・マネジャーとして最初の5年間をどのように振り返りますか?
過去5年間を概観すると、株式のみならず、より具体的に言えば、債券のボラティリティが極めて高い局面を通して、当戦略の目標を達成できたことを喜ばしく思います。当運用コンポジットの設定来のパフォーマンスは、毎年堅調でした。
その中には、 2020年と、より最近では、2022年の極めて厳しい市場環境が含まれます。2020年に始まった新型コロナウイルスの感染拡大と経済活動の機能停止は、極端な流動性不足を引き起こし、クレジット市場に厳しい環境をもたらしました。多くの市場、そして通常は流動性の高い米国債市場においてさえ、取引が凍結され、クレジット・スプレッドは、2008年の世界金融危機以来の水準にまで拡大しました。それでも、当運用では、柔軟性を重視する規律ある投資哲学を通じて、ボラティリティ危機を乗り切り、2020年末まで続いたクレジットの急回復から恩恵を享受できました。
2022年後半、米連邦準備制度理事会(FRB)や他の中央銀行による前例のないペースと規模の利上げにより、債券利回りが高騰し、クレジット・スプレッドが拡大したことから、すべての債券セクターにわたって大きな損失となりました。
この困難な金利環境においても、当戦略は、ボラティリティが高騰する局面で下支えを提供するという運用目的を達成でき、2022年通年で二桁の損失を記録したグローバル総合債券指数や個別のクレジット債指数と比べて、底堅さを示しました。暦年のパフォーマンスを見ると、当戦略のキャッシュ同等のベンチマークが、旺盛な需要を背景に堅調に推移してきたことから、ここ最近はより厳しくなってきたものの、当運用コンポジットのパフォーマンスは、市場サイクルにおいて、クレジット市場の下落を一定程度回避しつつ、上昇時には追随するとの目的に沿っているものと考えています。
私たちは様々な投資手法を活用することでこれを達成しました。具体的には、世界的な利上げサイクルに先駆けて、デュレーションを短期化したのですが、当社のファンダメンタルズ調査を活用して、金利上昇局面でパフォーマンスの下支えとなり得るクレジット・ショートの投資アイデアを特定してこれを達成しました。
過去5年間は、クレジット債中心の戦略にとって「厳しい試練」となりましたが、当戦略のパフォーマンスは、運用プロセスおよびチーム重視のアプローチが重要であることを物語っていると考えています。多くの場合、ボラティリティは投資機会を生み出す可能性があり、2019年以降、大きく変化する市場環境は、当社のグローバル債券運用体制のリソースを活用して、クレジット・セクター全般が混乱の中で投資機会を特定し、それらに投資することを目指す柔軟な当戦略の有効性を際立たせたと考えています。
当戦略の再現可能な運用プロセスは、様々な運用戦略、資産クラス、地域にわたり協働する300名以上のグローバル・リサーチ体制1に大きく依存しており、当戦略の運用開始来、市場が変化する中で、セクターを超えた柔軟性が重要な役割を果たしてきました。いくつかの投資判断事例を紹介します。
— 新型コロナウイルスの感染拡大後、最初に大量売りが出た後に市場の流動性が改善した際、まず価格が混乱した中で投資適格社債をターゲットとしました。次いで、スプレッドが大きく改善した後、ハイイールド社債、新興国社債、転換社債など、まだ混乱しているものの、改善余地が残されていると判断したセクターに目を向けました。
— より最近では、金利上昇環境に際して、通常、プラスに反応するセクター、具体的に言えば、バンクローンや証券化商品への配分を引き上げました。
— 2023年末、投資機会があると判断したクレジット債券をより広範に選好しましたが、バリュエーション評価では合理性を重視し慎重姿勢を維持しました。
運用プロセスとスタイルについて説明してください。
ダイナミック・クレジット運用戦略は、柔軟なセクター横断的アプローチを採用し、グローバル・リサーチ体制を活用して投資機会を見出します。当戦略は、投資適格債や新興国債券といった特定のクレジット資産クラスに特化せず、価格の混乱、デリバティブと現物債の流動性に関わる裁定機会、優位な利回り獲得機会などを収益源泉として活用することを目指し、伝統的な債券や合成証券を含むデリバティブなど、すべてのクレジット・サブセクターや金融商品に投資します。
超過収益を追求しつつ、リスク管理を重視する当戦略のアプローチは、様々な市場環境に適合します。ファンダメンタルズに基づくクレジット分析プロセスは、幅広いセクターに関する専門知識を有するグローバル・リサーチ体制から将来の見通しに関する知見を得て、市場が織り込んでいないと見る非効率性を特定し、それらを活用することに役立ちます。
クレジット・ベータを収益源泉とする投資戦略は、スプレッドや金利が落ち着いている環境においてパフォーマンスが堅調となる傾向がある一方、そうでない市場環境では、それが過ぎるまでやり過ごす運用です。図表1に例示されるように、当戦略は、クレジット・ベータに対する弾性値が低い特性のため、クレジット・スプレッドが拡大する環境において底堅く、一方、機動的なデュレーション管理を通じて、金利上昇環境において損失を回避することができると見込まれます。このフレームワークは、当戦略の商品開発時に将来の見通しに基づいて構築され、運用開始来、4象限すべての局面を乗り切ってきました。
当戦略は、株式および伝統的なクレジット資産クラスとの低い相関を目標としています。伝統的なクレジット・セクターとの相関が低い投資アイデアを見出すことに重点を置く当戦略は、市場下落時に損失を限定することを企図しています。しかし、これは単純にダウンサイド・リスクを軽減する戦略ではありません。長期的に市場の下落への追随を限定しつつ、上昇時には着実に追随することを追求します。
そのため、当戦略は、投資家のクレジット債エクスポージャーや債券ポートポートフォリオを補完するものとして利用することが可能で、クレジット・リターンの分散に資すると考えています。私たちのアプローチは、当戦略がクレジット債への資産配分として説明できる一貫したものであり、一方で、異なるリターン特性から、他のクレジット債戦略とうまく組み合わせることもできると考えています。
ダイナミック・クレジットとティー・ロウ・プライスの他の債券運用戦略との違いはどこにありますか?
当運用戦略とティー・ロウ・プライスの他のクレジット特化型運用戦略は、同じ信用格付けやグローバル・リサーチ体制による確信度の推奨を活用していることから、どのように差別化しているのかとよく質問を受けます。その答えは、アプローチの違いです。
私は、ボトムアップのアナリスト推奨に加えて、異なるフィルターとポートフォリオ構築フレームワークを適用します。
日次、週次、月次で行われる公式・非公式のミーティングを通じて、アナリストやクレジット・セクター専門家と協働し、個々のクレジット債をロング・ポジションまたはショート・ポジションとしてポートフォリオに組み入れるかどうかを評価する際に、主に以下の3点について質問します。
- 対象クレジット債がアウトパフォームする要因となり得るきっかけがあるか?クレジットの種別に応じて、例えば社債については、格付けの引き上げまたは引き下げの可能性など、様々な要因が挙げられます。自動車ローンを担保とする資産担保証券(ABS)のような消費者に関連するクレジット債については、消費者の返済が改善傾向かどうかが挙げられます。
- ポジションでは既存の保有銘柄に対し正または負の相関関係があるか?有意な負の相関関係があれば、新たなポジションは、他のエクスポージャーが下落する時に上昇することにより、分散効果をもたらす可能性があります。
- リターンの非対称性はどうか? つまり、価格の下落余地よりも上昇余地の方が大きいか、あるいはその逆か?これは、銘柄の保有が、規模、分散、超過収益創出見込みに関して、ポートフォリオ全体のポジションにどのように適合するかに影響する可能性があります。
これら3つの要因への対応に加えて、運用プロセスは、個別のポジションが内包するクレジット債としてのベータ、ボラティリティ、流動性に対するプレミアムが得られるように努めます。こうした超過収益を追求するダイナミックかつ柔軟なアプローチによって、これまで厳しい市場環境において差別化されたパフォーマンスをもたらすことができました。例えば、2022年に、多くのクレジット債が年初の金利変動に見合う十分なリターンをもたらさなかった状況において、当戦略は下落を回避することに貢献しました。
これまでの運用で最大の成功は何ですか?逆に、うまくいかなかったケースとそこからどんな教訓を得ましたか?
これまでの運用で最も際立つ成功の一つは、表2に示されるように、株式などリス図クの高い資産クラスが大きく下落した局面でのパフォーマンスです。ここでは当戦略の運用開始来で、S&P500指数を株式市場の代理指標として株式市場の下落局面を分析しています。
次に、当戦略のパフォーマンスを主要クレジット債指数および債券指数と比較すると、大半の局面において当戦略が堅調でした。これは、上昇相場と下落相場を通じて魅力的なリターンを追求することを重視した当戦略の成果を示しています。
さらに、クレジット債のロング・エクスポージャー、デュレーション管理、アクティブなショートなど、当戦略の投資手法をフル活用することで、市場の混乱を通じた成功に寄与してきたと考えています。一方で、ポートフォリオ・マネジャーとしての失敗の一つは、2023年4-6月期に、世界各地の中央銀行が金融引き締めを終了したか、間もなく終了すると考え、デュレーションを長期化させたことです。世界的に金利の上昇が続き、中央銀行が粘着性のインフレを抑制するために頑なに引き締め政策を維持したことから、このポジションは結果的に時期尚早でした。しかし、当戦略には柔軟性があるため、デュレーションのポジションを絶対ベースで直ちにマイナスに戻すことができました。
投資判断のタイミングが必ずしも適切ではなかったですが、デュレーションを積極的に管理できる当戦略の柔軟性は、債券価格が広く下落する金利上昇環境において、ボラティリティを低下させ、反動高の局面である程度アップサイド・リターンを捉えることに寄与してきました。
柔軟性は2020年においても重要なテーマでした。当時、当戦略では新型コロナウイルスがグローバル市場および世界の金融政策に与える影響を過小評価してしまい、リスクを追加したのですが、その投資判断は時期尚早でした。このマクロ経済見通しが間違いであったことが判明し、規律あるリスク管理プロセスに則り、速やかにポジションを解消し損失を限定させ、その後の市場急回復では機動的に投資行動し恩恵を得ることができました。急激な下落を経験したものの、図表2に見られるように、2020年2月後半から3月後半までの下落局面において、ハイイールド債と新興国債券をアウトパフォームし、通年のリターンはプラスとなりました。こうして経験に学び当戦略が成熟する過程で、継続的にリスク管理プロセスを強化・活用し、債券運用体制のメンバーとも密接に協働して運用に当たっています。
リスク – 当ポートフォリオに大きく関連するリスクは次のとおりです:
- ABS及びMBSリスク―資産担保証券(ABS)や住宅ローン担保証券(MBS)は他の債券よりも、流動性リスク、信用リスク、債務不履行リスク、金利リスクが高い場合があります。多くの場合、繰上償還延期リスク及び繰上償還リスクがあります。
- 中国銀行間債券市場リスク―中国銀行間債券市場において特定の債券の取引量が少ないことを理由とした市場のボラティリティや流動性の欠如により、同市場で取引される特定の債券価格が大幅に変動する可能性があります。
- 偶発転換社債リスク―偶発転換社債には、とりわけ資本構成の反転、トリガー・イベント、利払い停止、繰上償還延期、イールド/バリュエーション、株式への転換、元本削減、業種の集中及び流動性に関連する追加のリスクがあります。
- カントリー・リスク(中国)―中国に対するすべての投資は他のエマージング市場への投資と同様のリスクにさらされます。加えて、適格外国機関投資家(QFII)ライセンスまたはストック・コネクト制度に従って購入または保有されている証券には追加のリスクが生じる可能性があります。
- カントリー・リスク(ロシア及びウクライナ)―ロシア及びウクライナへの投資は、資金保管リスク、カウンターパーティ・リスク、流動性リスク、市場の混乱に伴うリスクが高くなる可能性に加え、強力な又は突然の政治リスクに見舞われる可能性があります。
- 信用リスク―発行体の財務健全性が悪化する場合や、発行体がポートフォリオに対する財務上の義務を履行しない場合があります。
- 通貨リスク―為替レートの変動によって投資利益の縮小又は投資損失の拡大の可能性があります。
- デフォルト・リスク―債券の発行体が債券を償還できない場合や、発行体にその意思がない場合があります。
- デリバティブ・リスク―デリバティブはレバレッジを作り出すために用いられ、ボラティリティが高くなったり、デリバティブ費用を大きく上回る損失が生じたりする場合があります。
- ディストレスト債およびデフォルト債リスクーディストレスト債やデフォルト債は、回収、流動性、評価に関連するリスクがかなり高くなる場合があります。
- エマージング市場リスク―エマージング市場は先進国市場ほど確立されていないため、リスクが高くなります。
- フロンティア市場リスク―フロンティア市場はエマージング市場ほど成熟しておらず、投資可能性や流動性が限定的であることを含め、リスクが高くなります。
- ハイイールド債リスク―ハイイールド債は一般的に、発行体の債務再編リスクやデフォルト・リスク、流動性リスク、市場環境への感応度が高くなります。
- 金利リスク―予期せぬ金利変動により、投資債券に損失が生じる場合があります。
- 発行体集中リスク―ポートフォリオの資産が特定の発行体に集中する場合、その発行体に影響を及ぼす事業、産業、経済、金融、市場情勢により、運用実績がより大きな影響を受ける場合があります。
- 流動性リスク―希望する時間及び公正価格での証券の評価や取引が困難になる場合があります。
- 繰上償還及び繰上償還延期リスク― MBSやABSを組み入れた場合、予期せぬ金利変動への感応度が高くなる場合があります。
- セクター集中リスク―ポートフォリオの資産が集中する特定のセクターに影響を及ぼす事業、産業、経済、金融、市場情勢により、運用実績がより大きな影響を受ける場合があります。
- トータル・リターン・スワップ・リスク―トータル・リターン・スワップ契約により、市場リスク、カウンターパーティ・リスク、オペレーション・リスク、担保の取り決めに関連した追加のリスクにさらされる場合があります。
一般的なポートフォリオ・リスク
- カウンターパーティ・リスク―相手方企業にポートフォリオに対する義務を履行する意思がない、または履行できない場合にリスクとして顕在化する場合があります。
- ESG及びサステナビリティ・リスク―ポートフォリオの投資価値や運用実績に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。
- 地理的集中リスク―ポートフォリオの資産が集中する国や地域に影響を及ぼす社会、政治、経済、環境、市場情勢により、運用実績がより大きな影響を受ける場合があります。
- ヘッジ・リスク-ヘッジにはコストがかかり、その効果が不完全、不適切、または完全に失敗する可能性があります。
- 投資ポートフォリオ―リスク-ポートフォリオに投資する場合は、市場に直接投資する場合とは異なる特定のリスクが生じます。
- 運用リスク―運用マネジャーの義務に関連し、利益が相反する可能性があります。
- 市場リスク―市場に関する様々な要素の予期せぬ変更により、ポートフォリオが損失を被る場合があります。
- オペレーション・リスク―担当者、システム、プロセスなどによって生じるオペレーション上の事象により、損失が生じる場合があります。
重要情報
当資料は、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ・インクおよびその関係会社が情報提供等の目的で作成したものを、ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社が翻訳したものであり、特定の運用商品を勧誘するものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。当資料はティー・ロウ・プライスの書面による同意のない限り他に転載することはできません。
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当社の運用戦略では時価資産残高に対し、一定の金額までを区切りとして最高1.265%(消費税10%込み)の逓減的報酬料率を適用いたします。また、運用報酬の他に、組入有価証券の売買委託手数料等の費用も発生しますが、運用内容等によって変動しますので、事前に上限額または合計額を表示できません。詳しくは契約締結前交付書面をご覧ください。
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