2023年8 月 / インサイト

インパクト投資とESG懐疑論への対応について

測定とエンゲージメントを活用することでESGへの疑義に対処

サマリー

  • 環境・社会・ガバナンス(ESG)懐疑論の要因となっているグリーンウォッシングや軟調なパフォーマンス、賛否の二極化や政治化について、インパクト投資はそうした懸念の解消に資すると考えている。
  • インパクト投資は性質上、高い適格基準を適用するため、グリーンウォッシングのリスクは軽減される。また、インパクト投資はより優れたビジネス・モデルを持つ企業への投資を行うため、長期的な成長見込みも高い。
  • 環境面や社会面でポジティブなインパクトを生み出すことができる企業への投資機会は、株式市場においてかつてないほど広がっている。

過去10年間にわたり環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する方針の策定と実行が重視されてきましたが、ここ2年間は業界でESGに疑義が生じています。企業行動、証券リサーチ、レポーティングの面でESG基準の向上という共通の目的に対して課題が生じています。そうした懸念に対して、唯一の解決策ではないものの、インパクト投資が貢献できるソリューションのひとつだと考えています。

グリーンウォッシング問題への取り組み

論争や問題を引き起こしてきた主な原因の一つは、ESGの原則や成果について虚偽表示や誇張をするグリーンウォッシングです。適切なプロセスや措置を講じないまま、ESG投資を謳ってきた企業や資産運用会社がいることは明白です。一部の金融機関は、サステナビリティの適格基準を満たすことなく、自社の商品をESG商品と偽って表示しています。

しかし、この議論の中で、明確かつ重大なESGの方針策定の目的を見失うべきではありません。ポートフォリオに影響するESGファクターを理解することは、優れたリサーチの延長であり、リスク管理を充実させ、将来の投資リターンに影響を及ぼす本質的なESGリスクを考慮することに繋がります。これは進歩であり、コーポレート・ガバナンスとビジネス・リスク管理が投資リターンにとって常に重要であるという現実を形式化するものです。

しかし、ESG投資の過渡期にESGラベルが広く適用される中で、当然ながら、グリーンウォッシングも懸念されてきました。それに対処する形で、規制が強化されてきており、基準の明確化や適応の証明が必要になることで、ESG投資のプロセスや今後のESGラベル付けに影響を及ぼすでしょう。

すべての関係者による将来を見据えたESGの実行という観点から、情報開示基準は深化し、規制の枠組みは進化すると期待しています。

賛否の二極化、ESGへの懐疑論、パフォーマンスへの逆風

ESGが政治的論争に用いられることが増える中で、特に大統領選に向けた動きが本格化し始める米国において、ESG投資に対する賛否の二極化が進んでいます。それに伴い、ESG投資によるリターン、ESGに焦点を当てた投資が実際にパフォーマンスを向上させることができるかという点が特に懸念されてきました。さらに、ロシアのウクライナ侵攻によって、エネルギーやコモディティ関連の企業の株価が上昇し、コモディティの構成比率が小さい多くのESG志向の投資アプローチが大幅にアンダーパフォームする局面が生じたことから、ESG投資のリターンに注目が集まりました。

2022年の特異な市場特性が一部でESG投資への逆風を生み出し、欧州における軍事紛争が一部のエネルギー移行支持者を後退させました。戦争の勃発は経済面や社会面で新たな摩擦をもたらしており、エネルギー安全保障がエネルギー移行に代わって政府の短期的な重点事項となりました。2022年に極端なパフォーマンスが常態的になったことから、一部の投資家が当然ながら資本投下戦略を見直すきっかけとなりました。重要な問題は、これが一時的なものか、永続的なものかです。

インパクト投資-測定と説明責任

インパクト投資が上記の緊張に対処するための有益なツールとなりうるかを検討する際には、ESGインテグレーション(運用プロセスへの統合)とインパクト投資の役割を区別することが重要です。ティー・ロウ・プライスでは、ESGインテグレーションは、投資機会の特定や投資リスクの管理における、より広範な投資分析の一環としてESGファクターを考慮します。それは排他的ではなく一体的なものであり、成果を上げるためには定量的・定性的な知見を必要とします。 

同様に、ティー・ロウ・プライスにおけるインパクト投資の定義は性質上、明確です。インパクト投資は、環境面や社会面でのポジティブなインパクトと投資リターンをともに生み出すことを意図しています。つまり、将来のポジティブなインパクトと投資リターンの双方を積み上げることができると考える企業を見出すことに注力することを意味します。環境・社会面でマイナスの影響を与える企業や、重大かつポジティブなインパクトがない企業は除外します。重要な点として、インパクト投資は、性質上、対象企業に関する適格性と情報開示に高い基準を求めており、グリーンウォッシングのリスクを軽減できると考えています。さらに、インパクト投資家は、メジャラビリティ(測定可能性)やエンゲージメントを通して企業と深い関係を構築します。そのため、測定に関する課題への取組みに直接的に影響を与えることも可能です。

インパクト投資とESGへの疑義

インパクト投資家は、リターン目標とともに、インパクト主体の重要評価指標(KPI)を通じて成果と進捗を測定します。時間の経過に伴う進捗を記録、文書化、測定することで、投資事例の明確さと報告の質の向上に寄与し、インパクトと投資リターンのテーマが明確になります。それは企業分析プロセスに組み込まれたESGインテグレーションとは異なり、企業の業務におけるESGリスクの評価に貢献します。簡潔に言えば、ある企業の事業活動が社会面や環境面の問題に及ぼす外部効果に焦点を当てるのがインパクト投資で、企業の内部業務に焦点を当てるのがESG投資です。

投資家はセクター内での軋轢を踏まえてESG方針の策定と実行を評価します。一方、インパクト投資は、業界内の分析基準や報告基準を充実させる上で重要な役割を果たし、最終的には、資本が意図した通りに配分されているという投資家の確信度を高めることに資すると考えています。

投資リターンの観点から見ると、私たちはインパクト投資において企業のビジネス・モデルと成長見通しに確信を持って投資を行っています。インパクト・プロセスを実証する重要性を考慮すると、インパクト投資がリターンの犠牲を伴うかという疑問が生じる場合があります。その疑問に答えるならば、私たちはインパクトとともに投資リターンを拡大させ続けることができると考える企業を投資対象とします。それは、多くの場合、各社の製品・サービスにインパクトの事例や関連する需要が存在するからです。投資リターンの持続可能性と増大、質の高い企業、業界の成長は、いずれも競争力のあるリターンの創出を目指す上で投資スタイルとしてのインパクトを推進する強力な基盤です。

インパクト投資家が獲得できる投資機会に期待

これまで進行してきたESGへの圧力と懐疑論は、投資家やESGコミュニティに対する決意への挑戦です。一方で、インパクト投資による明確な整合性および測定の実証とエンゲージメントは、そうした一部の懸念への対処を支援します。社会・環境面の成果に対して投資を振り向け、測定を可能にするインパクト投資の性質は、明白な差別化要因です。

重要な点として、社会・環境面でポジティブなインパクトを生み出すことができる企業に投資する機会は、株式市場においてかつてないほど広がっていると考えています。企業は環境面や社会面の課題に取り組むための投資をますます拡大しており、この環境・社会面の変化に適応することは、ポジティブなインパクトをもたらすとともに、追加リターンが見込まれる銘柄を選別する機会を生み出します。その先頭に立っている勝ち組を見出し、ポジティブな成果に向けた動きを加速している企業に投資することがインパクト投資における成功のカギとなるでしょう。

 

 

 

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