2023年1 月 / インサイト
グロース株投資の視点:運用責任者David Eiswertに聞く
10年で得た洞察と価格発見機能の復活による好機
サマリー
- 投資フレームワークは、頑健で再現性が高く、模倣されにくいことが肝要。
- アクティブに銘柄固有の投資アイデアを特定することが、顧客資産の超過収益を創出するカギとなる。
- 足もと、株式市場の価格発見機能と個別銘柄のファンダメンタルズが再び脚光を浴びる状態にマーケットが戻りつつあることを好機と捉える。
David Eiswertが、グローバル・フォーカス・グロース株式運用戦略のポートフォリオ・マネジャーに着任してから10年が経ちました。株式投資家として、過去に例を見ない様々なイベントを通じて当戦略をどのように運用してきたか、Eiswertに聞きました。Eiswertは、これまでに得た教訓、投資プロセスを説明し、長年にわたって培われた投資フレームワークが頑健で、今後もお客様のために再現性が高い超過収益を生み出すことができると考える理由を説明します。
当戦略に着任時の目標や得られた教訓は何ですか。
得られた教訓だけでなく、どのような改善を施し、投資家としてどのように進化できるか考えることも重要です。私たちは過去10年間の大きな変化の中で、誰もが予想だにし得ないような様々なイベントを経験してきました。
当戦略の運用を引き継ぐまでは、グローバル・テクノロジー株式運用戦略を担当していました。就任当時は、高成長を遂げているテクノロジー企業を多く組み入れてポートフォリオを構築し、それ以外の組み入れは引き下げるという信念を持っていたため、幾分かの反発も食らいました。しかし、それは決して当戦略の目標とはなりませんでした。私は、当社のグローバルなリサーチ体制の強みやそれで顧客に何が提供できるか学びました。私は当初、時間をかけて多くのポートフォリオ・マネジャーやアナリストと対話しました。そのおかげで、すべての業種や産業にわたり超過収益の獲得に資する投資フレームワークを築くことができました。特に、投資フレームワークが頑健で再現性が高く、模倣されにくいことが肝要です。
投資フレームワークや投資スタイルの特徴を教えてください。
私たちの投資フレームワークは、中長期で株価が成長するとの洞察を得られる企業を発掘することにありますが、割高な銘柄への投資は行いません。
つまり、私たちの戦略の目標は、その時点で成長率が最も高い50銘柄を単純に組み入れることで再現性を高めるのではなく、超過収益を安定して獲得することが期待できる銘柄固有の投資機会を発掘することです。
リスク管理も極めて重要です。私たちは、特定のリスクに対する過大なエクスポージャーを回避します。すなわち、特定のスタイルや国に対する大幅な偏りを回避します。また、特定の企業、その企業が属する業種・産業がどのような変革を行っているか洞察を得つつ、当該企業の経営陣がいかに優れているかを評価します。しかし、私たちは時に慎重で逆張り(コントラリアン)的なアプローチをとる場合があります。株価水準が割高な時に、テーマに沿って無理に投資する必要はありません。トレンドを理解するに留まらず、個別銘柄の組入れタイミングを見極めます。
私たちはそうした独自の投資アイデアを発掘することに最善を尽くします。すなわち、アクティブに個別銘柄の選別を行うだけでなく、市場センチメントを検証し、タイミングを見計らって市場心理に反して投資する場合もあります。このようにして、ポートフォリオに組み入れる最良の投資アイデアを発掘します。ファンダメンタルズに焦点を当て、株価成長に関する洞察を見出すことで、他社と差別化し、顧客のために付加価値を生み出すことができると考えます。
これまでにおける成功事例を教えてください。
私たちは、これまで行ってきたポートフォリオの運用に誇りを持っています。運用の巧拙は、世界で起きている複雑な環境や変化をいかに早く取り込むことができるかにかかっています。しかし、それは決して容易ではなく、リスクが伴います。私たちは、世界金融危機や低インフレ、低成長、超低金利の局面から新型コロナウイルスの世界的な感染拡大、ロシア・ウクライナ紛争、そして足もと数10年来の高インフレと積極的な金融引き締めに至る、金融市場の様々なイベントを経験して来ました。
この期間を通じて、注意深く局面を見極めながら、常にそれらを投資機会の源泉として捉えてきました。
これは、魅力的な企業を割安な価格で組み入れるタイミングを見極める上で特に重要です。市場センチメントが落ち込んだ局面にある銘柄にエンゲージメント(対話)を継続することは、市場センチメントが「落胆」から「希望」へ転換する際に、それらの銘柄から恩恵を受けるために重要です。回復が確実となるまで待ちたいという誘惑があっても、ファンダメンタルズが底入れし、安定化に向かうタイミングを早期に見極めることが超過収益を獲得するカギです。そのためには、出発点として将来を見据えたアクティブ運用が必要ですが、企業のファンダメンタルズ分析やその企業の状況理解が正しいという強い信念も必要です。
投資プロセスの中で銘柄選択はどの程度重要ですか。
私たち運用チームは日々、個別銘柄の調査に注力しており、銘柄選択こそが競争力の源泉であると考えます。当社のグローバルなリサーチ体制は、膨大な投資機会の中で新たな投資アイデアを発掘することに貢献しています。
銘柄選択やイノベーションの恩恵により超過収益を獲得するため、将来の成長予測に関して最も確信度が高い企業60~80銘柄を保有します。これは数千銘柄の投資ユニバースの中でごくわずかと思われるかもしれませんが、確信度に応じて保有する銘柄の選別を行うのは、ポートフォリオ・マネジャーとしての私の責務です。
足もとの投資環境は、特にグロース株の投資家にとって逆風となっています。市場ボラティリティや潜在的な潮流変化にどのように対応していますか。
世界はここ数年で目まぐるしく変化しており、私たちの投資フレームワークが機能しない局面もありましたが、それは私たちの投資フレームワーク自体が間違っていたからではありません。ここ数年、誰もが予想だにしなかったようなイベントが発生してきました。
今日の運用環境は過去とは比較にならないほど変化しています。従って、過去に超過収益を生み出した20~30銘柄から、今日でも同じように超過収益が得られると期待するべきではありません。変化を認識し、そこから収益を獲得するよう努めなければなりません。
私たちは、2022年当初、世界はコロナと共生する中で、経済も正常化し始めると考えていました。また、米連邦準備制度理事会(FRB)は流動性を引き揚げ、金融引き締め政策に転じると予想しました。しかし、ロシアのウクライナ侵攻やそれに続くコモディティ価格の大幅な上昇は予想だにしませんでした。これはコロナ禍に発生しました。インフレの高騰を受けて、FRBは穏やかな利上げではなく、金融システムから一気に大量の流動性を引き揚げ、積極的な利上げを開始したことから、金融市場にパニックと極端なリスクオフを引き起こしました。こうした環境変化を受けて、株式市場全体は、インフレの高騰や金利上昇の恩恵を受けるであろうポジションへの大幅な転換が起こりました。この転換は、デュレーションが相対的に長いグロース株の大幅な下落につながり、ボラティリティの高騰をもたらしました。
しかし、状況が改善するためには、必ずしもFRBが利下げにより市場にリスクテイクを促す必要はありません。利上げペースの減速だけで十分です。それによりファンダメンタルズが底入れする転換点を生み出す可能性があります。インフレの低下もグロース株の見直しにつながる可能性があります。特に、次の経済の成長サイクルで利益を増加・成長させることができるグロース銘柄が有望です。
今後の市場環境の見通しや投資機会を教えてください。
インフレの高騰、流動性の収縮、軍事紛争、パンデミック時に実施された厳しい行動制限の緩和によって、これまで株式で良好なリターンを享受して来た投資家は、リスク上昇や高ボラティリティ環境の継続に晒されるでしょう。
多くの投資家が抱える課題は、決して目新しいものではありません。重要なことは、短期的なニュースや懸念と、長期的な期待リターンは切り離して考えるべきだということです。
歴史を振り返ると、ボラティリティは投資機会をもたらして来ました。事実、私たちはこれまで以上に様々な投資機会があると見ています。革新的で高い成長性を有するグロース企業は、極めて妥当な株価水準で取引されていますが、市場全体の方向性に左右されない銘柄固有の投資アイデアにも重点を置いています。不透明な地政学的状況やマクロ経済環境は、依然として短期的な市場環境を左右する要因ですが、長期的に見れば、株価は企業の収益力やキャッシュフロー創出力の変化によって上昇します。
金融システムにシステミック・リスクの兆しがないことも念頭に置く必要があります。今のところ、信用バブルや債務懸念は発生していません。政府部門は多額の借り入れを行っていますが、民間部門の財務内容は相対的に健全です。そのため、景気後退に陥るとしても、それほど深刻なものとはならないと考えています。しかし、急激な金融引き締め政策は、世界経済に多くの課題を生み出すと思われます。これは銘柄間のリターン格差の拡大につながり、この潮流変化を念頭に置いてポートフォリオを構築する必要があると考えています。
個別銘柄レベルでは、テクノロジー、エネルギー、肥料、英国、中国といった分類にとらわれず、引き続き収益力の改善・成長が見込まれる企業への投資に注力しています。重要な点は、株式市場は、コロナ禍の状況に応じたリスクオン/リスクオフのセンチメントやグロース/バリューといったスタイルではなく、銘柄固有の要因で変動する運用環境に変化してるということです。そのため、特定のファクターの変動に左右されないポートフォリオ構築を目指しています。このような市場では、価格発見機能と個別銘柄のファンダメンタルズが再び重要となるため、私たちの投資フレームワークが機能すると考えます。今後、私たちのアクティブな投資フレームワークと銘柄選択力を活かすことで、顧客に超過収益をもたらす機会を最大化することができると考えています。
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当社の運用戦略では時価資産残高に対し、一定の金額までを区切りとして最高1.265%(消費税10%込み)の逓減的報酬料率を適用いたします。また、運用報酬の他に、組入有価証券の売買委託手数料等の費用も発生しますが、運用内容等によって変動しますので、事前に上限額または合計額を表示できません。詳しくは契約締結前交付書面をご覧ください。
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