2021年4 月 / 市場見通し

PULSe指標:表面的な安定の陰に隠れた水面下の流れ

ワクチン接種やロックダウンによりパンデミック・リスクが低下する半面、 流動性に関する懸念が強まる

サマリー

  • 2021年1-3月期はパンデミック・ファクターが危機ゾーンから安定ゾーンに急低下し、PULSe指標は低下した。
  • 流動性ファクターは高止まりゾーンに上昇し、クレジット市場に不安の兆しが見られる。不確実性ファクターは慢心を示す超低位ゾーンまで低下した後、安定ゾーンで1-3月期を終了した。
  • PULSe指標は3ヵ月前と比べると改善したが、3月に入ると流れが変わり、パンデミック、不確実性、流動性ファクターの悪化を受けてやや上昇した。

PULSe指標は、新型コロナウイルス発生以降のグローバルな金融状況をモニターするために当社が考案した指標で、市場の原動力の大半を網羅する4つのファクター: パンデミック(Pandemic)、不確実性(Uncertainty)、流動性(Liquidity)、センチメント(Sentiment)の略です。

PULSe指標が高い数値を示すのは通常、市場の安定にとってネガティブな兆候です1

2021年3月31日現在、PULSe指標は「安定」ゾーンにあります。

  • パンデミック・ファクターは1-3月期に「危機」ゾーンから「安定」ゾーンに低下しました。
  • 不確実性ファクターは「慢心」ゾーンに2度突入した後、「安定」ゾーンで1-3月期を終えました。
  • 流動性ファクターは「高止まり」ゾーンに上昇しました。
  • センチメントファクターは「安定」ゾーンにとどまりました。

3月に入ると流れが変わり、パンデミック、不確実性、流動性ファクターが悪化し、PULSe指標は上昇しました。

  • 米国、ドイツ、日本では1日当たり新規感染者数の増加が小売りモビリティ・データの回復を上回り、パンデミック・ファクターはこの1ヵ月で上昇しました。
  • 銅価格が下落、長期国債利回りの上昇ペースが鈍化、業績予想の改善が鈍り、不確実性ファクターは上昇しました。経済の不確実性は当面低位で推移するかもしれません。
  • 米3ヵ月コマーシャルペーパー・スプレッドが拡大し、米エネルギー企業のハイイールド債スプレッドは非エネルギー企業より縮小幅が小さく、流動性ファクターも上昇しました。
  • 一方、株式プット/コール・レシオや、VIXなど市場のインプライド・ボラティリティが低下し、センチメント・ファクターは低下しました。

PULSe指標変動の背景
ここでは3月のPULSe指標に大きく影響した2つのファクターを取り上げます。日本で新規感染者数が引き続き増えたほか、株式プット/コール・レシオは2月下旬から低下し、市場センチメントの改善を示しています

1. 日本は新規感染者数が引き続き増加

新型コロナウイルスの発生当初は1日当たり新規感染者数をパンデミック・ファクターの唯一のデータとして使用していました。しかし、より多くのデータ(陽性率、グーグル小売りモビリティ・データ等)が入手可能になったため、2020年7月初旬に同ファクターの算出手法を大幅に変更しました。その結果、ウイルス関連のニュースに対する市場の反応がより適切に反映されるようになりました。現在のパンデミック・ファクター・モデルでは、1)感染状況を追跡するために「1日当たり新規感染者数」、2)拡散曲線トレンドを確認するために「陽性率」、3)パンデミックが消費者の行動に及ぼす影響を評価するために「グーグル小売りモビリティ・データ」という3つの指標を観察しています。

2021年3月初旬、日本政府は3月7日に終了予定だった首都圏1都3県の緊急事態宣言を2週間延長すると決定しました。3月21日には、政府及び公衆衛生の専門家は感染がピークから減り、病床稼働率も大きく低下してきたと述べ、菅首相は正式に緊急事態宣言解除を決定しました。しかし、それ以降は新規感染者数が再び増加しており、関西・東京で再び緊急事態宣言が発令されています。日本は海外から必要なワクチンを十分確保できておらず、ワクチン接種ペースはG7の中でも大きく遅れています。現在の接種率は人口のわずか1%にとどまり、その大半が医療従事者です。65歳以上の高齢者向け接種は4月から始まる予定です。

2020年末以降は日本政府が行動制限を緩めると、グーグル・モビリティ・データが改善する一方、新規感染者数が増加し、行動制限の再導入を迫られるというパターンが続いています。このパターンを打破するにはワクチン接種の大幅なスピードアップが必要になると考えています

2. 株式プット/コール・レシオが低下

株式プット/コール・レシオは新型コロナ危機の発生を受けて急上昇した後、ヘッジ需要の低下や投資家心理の回復を反映して、低下傾向が続きました。12月以降は短期的なボラティリティはかなり高いものの、広いレンジ内で横ばいに推移しています。

2月半ば以降、インフレ期待の高まりと長期金利の上昇を受け、各地域でPER(株価収益率)の高いグロース株やモメンタム株が売られています。3月上旬、米上院が バイデン政権の総額1.9兆ドルの「米国救済計画」を承認しました。同法案に対しては、財政による過度の刺激で景気を過熱させ、インフレを招きかねないとの批判もあり、その結果、株安に備えたプロテクションの需要が高まりました。

プット/コール・レシオは3月末にかけて再び急上昇しました。3月26日、一部銘柄の急落を受け、タイガー・マネジメント出身のビル・フアン氏の資産を運用するファミリーオフィスArchegos CapitalがGoldman SachsやMorgan Stanleyなどの銀行に担保として差し入れた200億ドルもの株式売却を迫られる前代未聞のブロックトレードが発生しました。

これを受け、Credit Suisseと野村證券の大手金融機関2社はArchegosとのスワップ取引で巨額損失を被る可能性があると発表し、その事実はすぐ確認されました。投機筋の空売りが個人投資家に狙い撃ちされた2ヵ月前のGameStop株のショート・スクイーズ(踏み上げ)と同様、レバレッジの解消が加速しました。

しかし、投資家の関心がインターネットや輸送インフラ整備を目指すバイデン政権の2.25兆ドルのインフラ投資計画に移り、Archegos問題への懸念はすぐ消えました。その結果、長期の経済成長への期待から、株式プット/コール・レシオは低下しました。同レシオの低下は市場センチメントの改善を示しています。とはいえ、Goldman Sachsが集計したデータによると、オプションを除く全体の簿価ベースのレバレッジはまだかなり高水準にあり、市場は短期的にボラティリティが高まりやすい状態です。
 

 

重要情報

当資料は、ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ・インクおよびその関係会社が情報提供等の目的で作成したものを、ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社が翻訳・補記したものであり、特定の運用商品を勧誘するものではありません。また、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。当資料における見解等は資料作成時点のものであり、将来事前の連絡なしに変更されることがあります。当資料はティー・ロウ・プライスの書面による同意のない限り他に転載することはできません。

資料内に記載されている個別銘柄につき、売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、当社ファンド等における保有・非保有および将来の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。

投資一任契約は、値動きのある有価証券等(外貨建て資産には為替変動リスクもあります)を投資対象としているため、お客様の資産が当初の投資元本を割り込み損失が生じることがあります。

投資一任契約は、お客様から金融商品に対する投資判断、及び投資に必要な権限を投資運用業者に一任いただき、その権限に基づき投資運用業者がお客様の資産を運用する契約です。

当社の運用戦略では時価資産残高に対し、一定の金額までを区切りとして最高1.265%(消費税10%込み)の逓減的報酬料率を適用いたします。また、運用報酬の他に、組入有価証券の売買委託手数料等の費用も発生しますが、運用内容等によって変動しますので、事前に上限額または合計額を表示できません。詳しくは契約締結前交付書面をご覧ください。

「T. ROWE PRICE, INVEST WITH CONFIDENCE」および大角羊のデザインは、ティー・ロウ・プライス・グループ、インクの商標または登録商標です。

 

ティー・ロウ・プライス・ジャパン株式会社

金融商品取引業者関東財務局長(金商)第3043号

加入協会:一般社団法人日本投資顧問業協会/一般社団法人投資信託協会

前の記事

2021年4 月 / 市場見通し

金利上昇に関する多様な視点を活用
次の記事

2021年4 月 / インサイト

金利上昇の試練に立ち向かう
202104 - 1620589

こちらは機関投資家様向けのページです

こちらのページの内容は機関投資家様向けのものになります。機関投資家様かどうかボタンにてご確認いただきますようお願いいたします。

いいえ