2020年6 月 / RETIREMENT INSIGHTS
退職を控えた人のリタイアメント・インカムの選択傾向を理解する(米国の事例)
企業年金の母体企業やアドバイザーは、個別ファンド情報だけでなく、貯蓄の取り崩しを含む老後の資金計画に役立つ経験を提供できる
サマリー
- リタイアメント・インカム(退職後の収入)の商品選択は悩ましく、伝統的なアドバイスや、アドバイス付きソリューションが改めて求められる可能性がある。
- 退職が近づくにつれ、企業年金加入者のマネージド・ペイアウト・ファンドや個人年金保険への選好が弱まる。代わって、自分に適したソリューションをアドバイザーと一緒に見つけたいという意欲が強まる。
- 加入者が求めていることは、リタイアメント・インカム・ソリューションが進化して、単なる商品提供にとどまらず、加入者が自身の選択に自信を持てるよう、経験まで含めて提供してくれるようになることであるとみられる。
その昔、企業においては確定給付型年金 (DB) プランが定番で、加入者全員に十分な老後の生活資金を提供した、夢のような時代がありました。
しかし、過去はしばしば美化され、バラ色の時代として記憶されるものです。
実際には、DBプランがもっと一般的だった時でさえ、すべての従業員がDBプランに加入していたわけではなく、すべてのプランが十分な老後資金を提供したわけではありませんでした。それでも、DBプランには加入者にとって退職後に手間がいらないという利点があります。DBプランのスポンサーが生涯にわたって給付してくれるため、加入者は退職後の収入をどのように受け取るかといった面倒な決定をする必要がありません。
近年では、会社員に最も普及している老後の積立手段の座が、401(k)プランなど確定拠出型年金 (DC) に奪われました。米従業員給付研究所(EBRI) の最近の調査によると、DBプランに加入する民間部門の給与労働者の割合は、1979年の28%から2018年には1%まで落ち込みました。一方、DCプランへの加入率はこの間に7%から40%に上昇しています。1
DBからDCへのシフトは、リタイアメント・インカムに関する解決の負担が、事業者と従業員の双方にかかることを意味します。プラン・スポンサーは各種ソリューションの提供を期待されます。そして従業員は、退職後の生涯にわたって安定収入を得るにはどのソリューションが最適かという判断をしなければならないのです。
金融サービス業界は退職後に備えて貯蓄する方法を伝えるために尽力し、大きな成果を上げてきました。おそらくそれよりも重要なのは、プラン・スポンサーが、自動加入や自動エスカレーション (拠出率を給与額に応じて自動的に増やすこと) などの自動サービスを次々に導入することで、加入者が退職後に向けた貯蓄に取り組みやすくなったことです。
同様に、蓄えた資金を老後に毎月受け取れる「自動インカム」特性は、退職後に加入者の手間を省ける利点があります。しかし、大半のDCプランでは「自動インカム」商品はデフォルト (初期設定) 商品になっておりません。
DCプランでは、月々の拠出(積み立て)の決定については自動化されていることが多く、各個人にとって老後資産をどのように形成するか決定する方が、資産をどのように取り崩すか決定するよりも楽かもしれません。老後資産を形成する上で、本来は2つの重大な決定をする必要があります。つまり、(1)どのくらい貯蓄するか、(2)その貯蓄をどのように投資するかというものです。勤務先での401(k)などの退職貯蓄プランでは、こういった決定に無理なく取り組めるよう、自分の年齢やリスク許容度に適した資産配分を選べるTDF (ターゲット・デート・ファンド) などの商品をデフォルト設定にするなど、制度上の自動化の工夫が行われてきました。
一方、蓄えをもとに退職後の収入を得続けるには、長寿リスク、市場リスク、インフレ・リスクをより深く分析し、税金面の影響を理解する必要があります。ですが、この重大局面に差し掛かっても自助努力に委ねられている人が多いという現実もあります。
それは路線バスから道筋の説明もなく途中で降ろされて、自分のスマートフォンだけを頼りに目的地にたどり着こうとするようなものです。
老後の安定収入確保に何をするべきか議論を続けている間にも、現実は一段と難しさを増しています。
DCプランの加入者は増加しており、自分に適した方法を探す必要も強まってくるでしょう。DCプランがこういったニーズにうまく応えるには、退職者が老後の支出ニーズを満たせるように、蓄えた資産を老後の定期収入に変換するソリューションを提供することが、最も適切かもしません。
「最善の」リタイアメント・インカム戦略をどのように構築するか?
ソリューションの提示が難しいのは、「最善の」リタイアメント・インカム戦略や、万人に適した理想的アプローチがないからです。ニーズや好みは人それぞれ違うため、リタイアメント・インカムを得る戦略にも個人差があり、マネージド・ペイアウト型、ルールに沿った取崩型、即時受取型年金、据置型年金(据置期間経過後から受け取るタイプの年金)など、多種多様のソリューションがあります。
「言うは易く行うは難し」です。
プラン・スポンサーは加入者の教育に尽力してきましたが、研究によれば、多くの米国人がまだ基本的な金融リテラシーが十分でなく、それが退職後の人生設計に影響していることを示しています。2 従って、加入者が金融面の失敗を最も不安に思っている時に、複雑な金融商品や戦略を一度に大量に紹介しても、金融面のストレスを増すだけで、逆効果です。
老後の安定収入のニーズを解消するための第一歩は、流動性、柔軟性、リスク許容度について加入者の知識や好みを理解することです。
ティー・ロウ・プライスが最近行った退職貯蓄・支出調査では、401(k)プランで資金を蓄えている、退職前の加入者に対して、こうしたテーマの検証を実施しました。
加入者は本当はどうしたいのか?
当社の調査では、退職を控えた50歳以上のプラン加入者を対象に、老後のために蓄えたと仮定した50万ドルを退職時に以下の4つの選択肢の中でどのように配分するか質問しました。
- マネージド・ペイアウト・ファンドに投資する
- 即時受取型年金に投資する
- 据置型年金に投資する
- 自力で運用する(アドバイザーの助言付きも含む)
今回の回答の最大の特徴は、退職を控えた4人に1人がこれら3つの商品のいずれかに投資するか、自力で運用するか分からないと答えた点です。我々が質問する上で、これらの選択肢について具体的な事例も交えて詳しく説明しましたが、回答者はまだ決められずにいました。やはり、こうした商品や戦略の説明自体が難しいことなのです。
回答者の10人中8人以上が、蓄えた資産を退職後は定期的な収入に換えたいと考えています。つまり、自分が蓄えた資産から給料のように定期収入を受け取るということです。しかし、その目標を達成するマネージド・ペイアウト・ファンド、即時受取型年金、据置型年金などのリタイアメント・インカムの個別ソリューションについて質問されると、大半の加入者がよく分からないか、あるいはこれらの商品に投資するつもりはないと回答しました。
従って、給料のような形で定期収入を得たいという願望がある半面、個別のリタイアメント・ソリューションはアピール不足と言えそうです・・・このギャップに橋渡しをしてあげる必要があります。
特定のリタイアメント・インカム・ソリューションが避けられがちであるのには、浸透不足以外にも別の理由があると思われます。
例えば、保証された定期収入は理論的には魅力的なアイデアですが、消費者が個人年金保険に投資する時点で立ち往生するシーンを目にします。大切な資金を託すのに相応しい商品か迷う人や3、流動性を心配する人がいます。加えて、こうした商品に関する知識や理解の欠如が、これらのソリューションの採用を阻む主な要因となる可能性もあります。
退職が近づくと、一部のインカム・ソリューションを避ける傾向が強まる
退職が近づくと、商品の好みは変わる
当社の調査では、退職がかなり先の世代はマネージド・ペイアウト・ファンドや個人年金保険に比較的前向きなことも示されました。しかし、退職が目前に迫ると、その好みが変わります。
その理由としては以下の要因が考えられます。
- これらの商品の購入は複雑で、ある意味で最後の決断となる。例えば、個人年金保険の場合、高い利回りが定期的に予定され保証も付く代わりに、いざというときに取り崩す流動性は犠牲となり、トレードオフとなる。保証された一定の収入というアイデアは魅力的だが、決断をする時が近づくと、こうした懸念はますます顕在化する。
- リタイアメント・インカム・ソリューションにたどり着くまでには、単一の商品に投資するよりもさらに色々ある。決断を下す前に、助言や教育などもう一段階のサービスを求める人もいるかもしれない。
退職が近づくと、助言を求める人や自力で運用したい人の割合が高まる
図表1: 「退職資産の100%を自力かアドバイザーと一緒に運用しますか?」という質問への回答
専門家の力を借りて運用したい、またはすべて自力で運用したという回答が50-54歳の11%に対して60-64歳は25%と2倍以上であることを見ると、こうしたアドバイスの必要性が一層浮き彫りになります (図表1)。
前述のように、商品の理解不足が人々をこうした商品から遠ざけ、自力運用へ促す可能性があります。金融会社との信頼の問題が一因となる可能性もあります。一方、自分のアドバイザーとの関係性や信頼が彼らへの依存度を深めることもあります。これは、リタイアメント・ソリューションは商品のみならず人々が安心できる経験と信頼も提供しなければならないことを意味します。
投資可能な資産と個人年金保険に対する選好度の関係
投資可能な資産の規模が保証された定期的な収入への選好度を左右する
(図表 2) 資産が少ない退職者は資産が多い退職者に比べて保証された収入を好む傾向が強い
保証された収入の選好度と資産の水準は逆相関関係にあります。資産が増えるにつれ、保証された収入を好む度合いは低下します。図表2に示したように、投資可能な資産が50万ドル以上の家計は50万ドル未満の家計に比べて保証された収入を好む傾向が格段に弱くなります。その理由としては以下のようなものが考えられます。
- 資産が少ない家計は資金の枯渇リスクが高いため、保証された収入を求める。また、こうした家計は月次キャッシュフローの管理においてミスに対する許容度が低い。
- 資産が多い家計は資金の枯渇をあまり心配せず、それよりも流動性や資産拡大の機会を逃す方を心配する。
加入者による退職後のプラン口座の取り扱いについて
ティー・ロウ・プライスが行った別の調査では、プラン・スポンサーは退職者が年金プランに資産を残すことに寛容なことが判明しました。実際、資産5億ドル以上のプランの半分は加入者がDCプラン残高を維持することを好んでいます。4
しかし、プラン加入者も同じように感じているのでしょうか?
401(k)全加入者のうち、83%が退職後も勤務先のDCプランに資産を残すことを希望しています。内訳は以下の通りです。
- リタイアメント・インカム商品が利用できるなら、53%が蓄えた資産を退職後も401(k)口座に据え置きたいと考えている。
- リタイアメント・インカム商品の有無にかかわらず、30%が蓄えた資産を退職後も401(k)口座に据え置きたいと考えている。
勤務先の年金プランに資産を据え置きたいという希望はプラン・スポンサーの間では周知の事実かもしれませんが、事業主は必ずしもそのメッセージを加入者にうまく伝えられていません。プラン加入者の61%は、事業主から資産を年金プランに据え置くことの利点(投資コストの低さ、プロによる継続的な監視など) を聞いていないと回答しています。
401(k)プランに資産を据え置くことを希望する人の割合は年代を問わず多く、ミレニアル世代(88%)がトップで、ジェネレーションX(83%)とベビーブーマー(77%)がそれに続きます。
プラン・スポンサーとアドバイザーにとって好機
これは一体何を意味しているのでしょうか?
リタイアメント・インカム商品は昔から存在し、最近は新たな商品が日々登場しています。さらに、最近施行された「全地域社会における退職保障強化法案」(通称SECURE法案)には、以下の点に関する条項が盛り込まれています。
- 生涯にわたる年金額の開示制度の導入
- リタイアメント・インカム商品の提供者の選定に関するプラン・スポンサーへの免責条項
- 加入者がプラン内で加入している個人年金保険の別のプランへの移管
開示強化や規制による免責措置だけでは、十分ではありません。効果的なソリューションなら幅広いニーズにも対応できるでしょう。当社の調査では、リタイアメント・インカム商品をより普及させるには商品面だけでは不十分で、その問題の解は商品を超えたところにあるようです。
プラン加入者は一つの物差しで測れないサービスを求めており、選択やプラニングにおける助言を必要としています。従って、こうしたソリューションをいかに提供するかがソリューション自体と同程度重要になるでしょう。
当社の調査は、プラン加入者が事業主からのそうしたサポートの利用に前向きであることを示唆しています。そのため、プラン・スポンサーやアドバイザーには、加入者がリタイアメント・インカムの選択でより良い判断をできるようなサポートを、主体的に提供できる機会があります。つまり、加入者に様々なリタイアメント・インカム・ソリューションを提供するだけでなく、必要な選択をするための正しいツールや教育を提供することも意味します。
アドバイザーはプラン・スポンサーが適切と感じる分野でこのような課題に協力して取り組むことができます。プラン・スポンサーがプラン内でリタイアメント・インカムという選択肢を提供することに後ろ向きである場合は、アドバイザーはプランの外で加入者に関与することができます。
最終的に、リタイアメント・インカムの解決に大切なのは個人それぞれのニーズや要望を評価することであり、特定のリタイアメント・インカム商品の設計や販売ではありません。リタイアメント・インカム商品やソリューションが成功するのは、加入者が安心でき、かつ最終的に自分の選択に自信が持てる時だけなのです。
本研究について
退職貯蓄支出調査はNMGコンサルティングによって実施されたもので、3,016人の年金プラン加入者、250人の適格プラン非加入者、職場の貯蓄プランへのアクセスがない603人のサンプルを含みます。当該調査の対象にはロールオーバーIRA(個人退職勘定)やプランに残された401(k)口座の残高を持つ1,005人の退職者も含まれます。今回の調査は2019年6月13日から25日にオンラインで実施されました。
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